可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『入国審査』

映画『入国審査』を鑑賞しての備忘録
2023、スペイン製作。
77分。
監督・脚本は、アレハンドロ・ロハス(Alejandro Rojas)とフアン・セバスティアンバスケス(Juan Sebastián Vásquez)。
撮影は、フアン・セバスティアンバスケス(Juan Sebastián Vásquez)。
美術は、セルソ・デ・ガルシア(Zelso de Gracia)。
衣装は、アリス・ボッチ(Alice Bocchi)。
編集は、エマニュエル・ティツィアーニ(Emanuele Tiziani)。
原題は、"La llegada"。英題は、"Upon Entry"。

 

2019年2月15日。バルセロナ。停車中のタクシーの車内にはラジオが流れ、パーソナリティーがトランプ米大統領が非常事態を宣言し米墨国境に壁を建設しようとしていると興奮気味に話している。エレナ・パミエス(Bruna Cusí)とディエゴ・エルナンデス(Alberto Ammann)がタクシーの後部座席に乗り込む。運転手(Laura Bernis)がトランクに荷物を載せてドアを閉じる。運転席に座った運転手がどのターミナルか尋ねる。ターミナル1。航空会社は? エアフライト。タクシーが走り出す。ディエゴが上着のポケットを探る。どうしたの? 忘れたかも。何を? パスポート。ちょっと停めてもらえます? エレナが運転手に車を停めさせ、ディエゴに探させる。あった! 出発します? そうして。エレナが車内から父親に電話する。…出発するわ。…毎年帰省するから。…ディエゴがよろしくって。…着いたら連絡するね。…愛してるわ。じゃあね。エレナが電話を切る。ディエゴも電話を入れる。…空港に向かってるところ。…着いたら連絡するから。…どうも。エレナがディエゴとキスを交わす。
エアフライトの航空機がバルセロナを発つ。
機内ではディエゴが本を読み、エレナがディエゴの肩に頭を凭せ掛けて眠る。
間もなく着陸するとのアナウンスが入る。ディエゴは棚から薬瓶を取り出してトイレに入る。スポイトで舌に滴下しようとしてジャケットを汚してしまう。舌打ちするディエゴ。改めて舌に滴下するとジャケットを拭いて、手を洗う。鏡に向かって移民ビザで来ましたと入国審査で答える英語の練習をする。
2人の乗った便がニューアーク空港に着陸する。ターミナルBの到着ロビーを歩きながらエレナが電話を入れる。アリ、ニューヨークに着いたわ、マイアミへの乗り継ぎまで2時間あるの。いずれにしても訪問者リストに入れておくから…。セルジは大丈夫かしら。よろしくね、ベルナートにも。到着したらまら電話するから。愛してるわ。税関・国境警備局の審査が必須だとのアナウンスが流れる中、2人が出入国審査場へ向かう。
査証をお持ちの方はこちら、ESTAの方はそちらへ。2人が査証所有者の列に並ぶ。水はある? ディエゴがボトルをバッグから取り出す。腹が減ったな。そうね。エレナが水を飲む。書類は? 僕が持ってたっけ? あなたが持ってるわ。ポケットを確認して。ないよ。なくしちゃった。ないの? なくしたの。2人の前に並んでいた青いスーツの男性(Gerard Oms)が列の入口に沢山置いてあると教えてくれた。ありがとう。エレナは荷物をディエゴに任せると、就労資格証明の用紙を取りに行く。手伝いましょうか? 青いスーツの男性が荷物を持とうとするが、ディエゴは断る。バルセロナから? 男性から尋ねられる。ええ。カタルーニャ語が上手ですね。とてもいい先生がいるんです。機内で見かけました。列が少しずつ進む。ディエゴは係官の対応を不安げに眺める。年配の男性の査証が拒否されていた。高圧的ですよね。スーツの男が愚痴る。恐ろしいくらいです。ディエゴも溢す。南米の人ですよね? 男性に指摘される。ええ。取ってきたわ。そこにエレナが戻ってきた。書くものは? 持ってない。すみません、ペンをお借りできます? エレナがスーツの男に求める。もちろん、どうぞ。ありがとう。果物、なし。野菜、動物…。エレナが用紙のリストをチェックしていく。係官の対応を見ていたディエゴは、18番だといいんだけどと言う。

 

2019年2月。バルセロナアメリカの抽選永住権を手に入れたダンス講師エレナ・パミエス(Bruna Cusí)は、パートナーの都市計画家ディエゴ・エルナンデス(Alberto Ammann)とともにマイアミで新生活を始めるために家を出る。空港へ向かうタクシーではパスポートを忘れたと勘違いするディエゴ。トランジットのためにニューアーク空港に降り立ったディエゴは出入国審査の列に並んでから就労資格証明をなくしたことに気付く。エレナが用紙を受け取り慌てて記入する。係官(Colin Morgan)は2人のパスポート確認し指紋を採取した後、2人について来て下さいと言う。不安に駆られた2人が連れて行かれたのは二次検査場だった。受付の係官(David Comrie)に乗り継ぎ便や人と会う約束があると訴えるが、皆同じように待っていると取り付く島がない。ようやく取り調べのために個室に入れられた2人は係官からバッグを開けさせられ、中身を詳細に検査される。所持品の検査が終わった後、バスケス捜査官(Laura Gómez)が2人に対する尋問を開始した。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

事前に情報をできる限り入れないで鑑賞することをお薦めする。

新天地マイアミでの生活に期待を膨らませるエレナとディエゴの前に、税関・国境警備局の審査官・捜査官が立ちはだかる。閉鎖的な二次審査場のロビー、個室に入れられて否応なしに進められる所持品検査や身体検査。さらには麻薬犬までが連れられてくる。バスケス捜査官やバレット捜査官(Ben Temple)から繰り返し同じ質問をされ、プライヴェートなことまでが矢継ぎ早に問われる。
乗り継ぎ便までの間に親戚に会う予定が、連絡さえとらせてもらえない。マイアミへの乗り継ぎにも間に合わない。ただ待たされ、質問に答えるほかはない。密室でなすがままの2人のフラストレーションを、施設内の工事の騒音が増幅する。しかもこの先どうなるかまるで状況が読めない。エレナとディエゴの焦燥と不安を観客も味わうことになる。
堂々巡りの尋問の中、ある事実が明るみにされることから、事態が動き出す。
仲睦まじい2人が並んでタクシーの後部座席に坐る場面で始まり、2人並んで尋問を受けるシーン。そして、ラストシーンでも同じように2人は並んでいるのだが……。