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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『未知なる世界と出会う―英国アール・ブリュット作家の現在』

展覧会『アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.4 未知なる世界と出会う―英国アール・ブリュット作家の現在』を鑑賞しての備忘録

ジェニファー・ギルバート[Jennifer Gilbert]のキュレーションにより11名の英国の美術家を紹介する企画。

展示室1では、モノクロームの作品を紹介する。
「ミルニネレスト」なる精霊に導かれて制作したというマッジ・ギル[Madge Gill](1882-1961)は、帽子を被りロングドレスを纏う2人の女性が格子など幾何学模様の壁や床を背景に描かれる《無題》(640mm×500mm)(1952)[24]のように模様で埋め尽くした画面に女性を表わす。《無題》(205mm×75mm)(1940頃)[22]では市松模様を背景にドレス姿の女性の立ち姿をやや彎曲させて描き出す。どこか物憂げな表情と相俟って、同世代の竹久夢二(1884-1934)の美人画を連想させる。
アンドリュー・ジョンストン[Andrew Johnstone](1986-)は、《無題(オランウータン)》(380mm×280mm)[02]において、子供を抱えるオランウータンを正面から表わす。長さや向きの異なる描線を顔、胸、原、腕に割り当てることで描き分けてある。横向きの子供が母親の腹で満足げに横たわるのが愛らしい。サイの全身を横から描いた泥0イング作品《無題(サイ)》(280mm×380mm[01])や、オスのライオンの頭部を表わした楕円の陶板《Lion Ⅰ~Ⅲ》[03-05]でも線が充填される。
ナイジェル・キングスベリー[Nigel Kingsbury](1949-2016)は鉛筆で素早く描く線を重ねて女性を表わす。《無題》(990mm×1010mm)[06]は、イヴニングドレスをまとった女性の全身像で、女性の頭部を頂点にドレスの裾を底辺とする三角形と頭の上に持ち上げられた左腕とにより上昇の力を生み、モデル女性への崇拝を表現する。女性の上半身像《無題》(420mm×590mm)[08]でも三角形のシルエットが見られる。顔から食み出すように黒い線を横方向に描き重ねて表現した眼が印象的である。女性の上半身像《無題》(590mm×405mm)[07]では、顔の周囲に拡がったパーマネントが繰り返しの渦で表現され、顔や身体の傾きと相俟って、宙空に浮遊しそうなイメージを生み出す。
カーラ・マクウィリアム [Cara Macwilliam](1972-)は、花・葉・蔓といった植物的、あるいは襞のような肉体的なイメージを接続した白い樹脂粘土製の抽象彫刻を手掛ける。《無常の入口に押し寄せる群衆[Crowding at the Portals of Impermanance]》(230mm×330mm×200)[2025][21]では奥に入口を表現するアーチがある。《自我の棘[Ego's Barbs]》(170mm×250mm×210)[2025][20]では随所に針状になった葉や蔓の先のような表現が見られる。《女神フリダイスの召喚[The Evocation of Flidais]》(190mm×270mm×200)[2025][18]では風に吹き流される羽衣のような流麗な線が女神の降臨を表現する。
ターザ・マイルハム[Tirzah Mileham](1971-)の《この世界は女と魚のもの[When Women and Fish Took Over the World]》(845mm×1050mm)[17]は魚の上半身を持つ女性、蛸やクラゲの下半身を持つ女性などが魚やエビ、ヒトデ、貝などとともに揺蕩う。
キャシー・ウォード[Cathy Ward](1960-)の《領域[Domain]》(480mm×300mm)(2001)[14]は髪あるいは筋繊維のような流麗な線による流れや渦が画面を埋め尽くし、流れの落ちていく先に吸い込まれるような酩酊感覚を惹起する。《シスタームーン[Sister Moon]》(φ1270mm)(2017)[15]は円形の画面を孔雀の羽根のようなイメージで覆い尽くし、ところどころに目玉や幽魂のようなイメージが現われる。《結合[Unite]》(300mm×230mm)(2017-19)[16]は中央に複数の腸管のような渦が集積し、その周囲を流体が取り巻く。
テレンス・ワイルド[Terence Wilde](1963-)は、言葉を描き込みながら、ポップな印象の、生物が融合した塔状の陶彫を提示する。《護符[Talisman]》(180mm×140mm×280)[2025][11]は両腕を欠いた人物のような器体に顔、眼、XやYなどの記号、"TALIS"などの文字を描いている。頭部は眼のようでも口のようでもある。《もつれ[Plexus]》(180mm×160mm×260)[2025][09]は螺旋状のスカートとも蜷局にも見える円錐状の身体の上にピエロの帽子を被ったような頭部が表わされている。

展示室2では、色鮮やかな作品が展示される。
キャメロン・モーガン [Cameron Morgan](1965-)、往年のフィルムカメラやインスタント写真用のカメラ、バッグ、写真などを玩具のような単純化した形で陶彫に再現する。ジェシー・ジェームズ・ネーゲル[ Jesse James Nagel](1993-)は荒寥とした景観に跋扈する魑魅魍魎を色取り取りに描き、黙示録的世界を起ち上げる。ヴァレリー・ポッター[Valerie Potter](1954-)は人や動物や昆虫を鮮やかなクロスステッチでゲームのキャラクターのように表わす。スコッティ・ウィルソン[Scottie Wilson](1891-1972)は様々な生き物が樹木として一体化したようなイメージを提示する。

関連資料や映像を紹介するコーナーも設けられている。