展覧会『中村萌「connect connect」』を鑑賞しての備忘録
ポーラ ミュージアム アネックスにて、2025年8月19日9月28日。
赤子のような顔とずんぐりした体型の森や山の精霊のようなキャラクターを象った楠材の彫刻7点とそのエスキースのドローイング6点で構成される、中村萌の個展。会場奥には制作中の作品を展示する木屑を敷き詰めた空間も設えられている。
《Summit's Prayer》(530mm×265mm×250mm)は、円錐台の上に立つ、星を頭頂部に載せた精霊(?)の像。細い目とぷっくりとした頬を持つ赤ん坊のような顔の「精霊」は、先の尖った赤茶色の髪の先に星を輝かせる。顔を挟んで2つに分かれた髪は、胸部ないし腹部の穴で再び収斂する。星と心、宇宙=マクロコスモスと身体=ミクロコスモスとが相通じている。もっとも人間ではなく「精霊」なので、天と地の照応かもしれない。「妖精」の円錐状の身体は襞のあるスカートのような形状で、その周囲を金色の環が取り巻く。身体に比して大きく表わされた足は地母神的イメージを想起させ、裾に向かって次第に緑が濃くなる円錐台の上でしっかりと身体を支えている。足や山・大地(円錐台)の安定感が照応を象徴する金環の浮遊感と対照的である。この作品だけは会場を仕切る壁の手前に設置されている。
《Gloam》(930mm×630mm×550mm)は、青い帽子を被った赤子のような顔の頭の上にサイズの異なる小さな2つの別の「赤子」の頭部が向きを違えて載っている像である。一番大きな下の顔は片目を瞑っている。真ん中の顔は斜め後方に向かっており、黒い肌をしていて目は隠れている。一番上の頭部は斜めに傾いで黒い顔の頭の上で眠っている。頭部を覆う髪らしきものは3つの頭部を繋いで流れていく中で、ピンクから青へと色味を変えていく。黄昏[gloam]の表現である。流れの中に現われる顔はグスタフ・クリムト[Gustav Klimt]の《水の精[Nixen]》、あるいは、とりわけ陰(陰陽)の黒い顔がオディロン・ルドン[Odilon Redon]の世界と通底しつつ、作家特有の幼い顔貌や眠りによって成長の可能性が浮き上がる。3つ頭部は「多」を象徴し、流れの表現と相俟って、生命の連関をイメージさせる。ヒンドゥー教のシヴァ、ブラフマー、ヴィシュヌの3柱の神々、三神一体の表現とも解し得よう。
《Ripple》(880mm×530mm×450mm)は、半ば目を閉じた顔を持つキノコのような存在の上に3つの小さな山のような頭部が並ぶ水盤が載せられた作品。「水盤」を載せるのは、キノコの柄の身体に笠のような頭部の「精霊」で、半ば目を閉じてうとうとした表情をしている。黒に近い青の表面には水盤から水が滴り落ちている。水盤の上には水色の山のような形が3つ並び、それぞれが別の方向を向いている。3つの「山」の間には星のような形の裂け目があり深淵を覗かせるとともに金色に輝いている。水盤を支える「精霊」の背後にも穴が穿たれ金色の内部を見せている。循環する生命の中に生命が息衝いている。
《Haze》(1180mm×600mm×570mm)、《Drift》(670mm×350mm×310mm)、《Still》(520mm×230mm×230mm)の3体は横に1組として並べられている。《Haze》は三峯もつ雪山のような被りものをした赤ん坊の顔の「精霊」で、頭頂部から腹の辺りまで続く「被りもの」の下には緑の袖とスカートとが覗き、手と足とが表わされている。《Drift》は頭頂部が2つに分かれ、「被りもの」が暗緑色をしている他は、サイズの小さい《Haze》である。一番小さい《Still》は三峯の頭部を持ち、被り物の下に見えるスカートが青い他は、《Haze》や《Drift》と同様である。3体によって山にかかる霞を、すなわち景観の変化を表現している。
会場の奥に設置されているのが表題作と言える《Connect》(1900mm×1000mm×900mm)は、眠る赤ん坊のような頭部の上に頭頂部に星を載せた「精霊」を載せた像。青い被りものをした赤子のような頭部が、オルメカの巨石人頭像よろしく床に置かれているが、顎などの表現がなく、身体が大地に埋まっているような印象を受ける。頭頂に向かってやや細くなる頭部にはリングがあり、その上に傾いだ状態で「精霊」が載る。「髪」の色が白味の強い灰青であるが、頭頂部に星を戴いた髪が腹の穴に通じている点で《Summit's Prayer》と同様である。実は、展示会場を仕切る壁は《Connect》のシルエットの形に切り抜かれることで入口となっている。内外の壁を越えて繋がることが主題なのである。壁のような構造は個々の存在を成り立たせるために必要であるが、ちょうど細胞壁のように、外部(環境)とのコミュニケーションの場でなくてはならない。