可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『THE MONKEY ザ・モンキー』

映画『THE MONKEY ザ・モンキー』を鑑賞しての備忘録
2025年、アメリカ製作。
98分。
監督・脚本は、オズグッド・パーキンス[Osgood Perkins]。
原作は、スティーブン・キング[Stephen King]の短編小説「猿とシンバル[The Monkey]」。
撮影は、ニコ・アギラル[Nico Aguilar]。
美術は、ダニー・ヴァーメット[Danny Vermette]。
衣装は、マイカ・ケイド[Mica Kayde]。
編集は、グレッグ・ン[Greg Ng]とグレアム・フォーティン[Graham Fortin]。
音楽は、エド・バン・ブリーメン[Edo Van Breemen]。
原題は、"The Monkey"。

 

質店の店内には甲冑やナイフを始め様々な骨董品が並ぶ。機長の制服を着たピーティー・シェルバーン(Adam Scott)が太鼓を叩くサルの人形を抱えて来て、カウンターの呼び鈴を鳴らす。やおら店主(Shafin Karim)が姿を現わした。いらっしゃい。お客さん、血だらけだね。私の血じゃない。これを引き取って欲しいんだ。息子たちが気に入ると思ったんだけど、気に入ってもらえなくてね。店主は玩具の返品禁止の掲示を指差す。玩具じゃない、何と呼べばいいかは分からないが…。壊れてるじゃないか。ドラムスティックを持ち上げたままだ。下がらないよう祈った方がいい。下がったら俺たちは破滅だ。そのとき音楽とともにサルが太鼓を叩き出す。後ずさり周囲を警戒するピーティー。演奏が終わる。何も起きない。破滅しちゃいないようだな。店主が言った途端、甲冑の構えていたクロスボウの矢が放たれ、店主の腹に刺さる。矢尻のロープが巻き戻され店主の腹から腸が引っ張り出される。店主が倒れた。火炎放射器を見つけたピーティーは、すぐに路上でサルの玩具を焼き尽くす。
父親というものは子供に密やかな恐怖を伝えるものかどうかは知らない。でも、うちの父親はそうだった。私はハル・シェルボーン(Christian Convery)。双子の兄ビル(Christian Convery)がいる。ビルは握手すると言って手を出しかけて自分の髪を撫でるような子供だった。私より3分早く出てきたことをいいことに兄貴面した。何かにつけて私をいじめた。私は何とかして兄を愛そうとした。時に一人っ子になる妄想には耽ったが。例えば、母ロイス(Tatiana Maslany)の所有しているボーリングの球を寝ているビルの顔に落とすといった類の。
母は私たちを女手一つで育ててくれた。できる限りのことはしてくれた。母の記憶は昨日のことのように鮮明だ。例えば、夜、車の中で母と二人で食事を取っているときのこと。二人あなたのお父さんはね、煙草を買いに行くと出て行って戻って来なかった。スクランブルエッグを作るみたいに慌てて出て行ったけど。彼のスチュワーデスの一人になれたかもしれないけど、実際、私をどこにも連れて行ってくれなかった。鳩時計とか盆栽とか土産だって持って来たけど。ガラクタはいずれあなたたちのものよ。
母はくだならいと思っていたが、私たち兄弟にとっては、父のクローゼットは父がどんな人物だったかを知る手掛かりの宝の山だった。機長の制服。オーストラリアと書かれたブーメラン。私は高級ブランドの帽子を入れるような円筒形のケースを見つけた。何だ、それ? 「演奏する猿」、「命が好き」だって。バカか、実寸ってことだろ。蓋を開けると猿の人形が入っていて、箱には「ゼンマイを廻すとお楽しみ」とシールが貼ってあった書いてあった。貸してみろ。ゼンマイ廻したら壊れっかな? 止めときなよ。父さんのだろ。父さんはいないだろ、アホ。法的に俺に一番の継承権があんだよ。ビルが猿の人形のゼンマイを廻す。何も起きない。…と思ったところ、口が開き、腕が上がる。だがそこで動作は止まってしまった。壊れてんじゃねえか。ビルがハルに猿を投げ返した。ビルはヌードの絵柄のトランプを見つけ、部屋に来るなと言ってクローゼットを出て行った。

 

ハル・シェルボーン(Christian Convery)は、3分ばかり早く生まれたことを盾に取り兄貴面する双子のビル・シェルボーン(Christian Convery)からいつもいじめられ、一人っ子だったら良かったのにとしばしば空想に囚われてきた。1999年、航空機のパイロットである父ピーティー・シェルバーン(Adam Scott)が家族を置き去りにしてしまったため、母ロイス(Tatiana Maslany)は再婚相手を探しつつ双子を育てることになった。ハルとビルは父親のクローゼットを漁り、ゼンマイ仕掛けの太鼓を叩く猿を発見した。ゼンマイを巻くと恐ろしい事態が起こるとも知らず。その晩、ハルとビルは子守のアニー(Danica Dreyer)と鉄板焼きを食べに連れて行ってもらう。シェフ(Michael Anthony Samosa)の華麗な調理に魅了されていると…。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

母親ロイスが二人の子供たちに伝える通り、人間は死を避けがたく、異なるのは死期だけである。誰かの死を望む者は、その眼差しで世界を眺めるために、猿の人形の動作と、その時起きた死を結び付け、猿の人形を死を招く人形と捉えてしまう。とりわけ偶発的な事故による死が一度ならず続くとき、呪っている/呪われているとの妄念は拭いがたい。だから物理的に引き離そうと破壊しようと猿の人形は、呪いの人形と思い込んでいる者に憑いて廻り、逃れることはできないのである。
父親に見捨てられたハルは、自らが父親(Theo James)となった後、息子(Colin O'Brien)を妻(Laura Mennell)の再婚相手テッド(Elijah Wood)に養子縁組により奪われることになる。結果的には、自らの父親と同じことを繰り返すことになる。その呪いを断ち切ることができるのか。父子関係がもう1つの柱である。