映画『見はらし世代』を鑑賞しての備忘録
2025年、日本製作。
115分。
監督・脚本は、団塚唯我。
企画は、山上徹二郎。
撮影は、古屋幸一。
照明は、秋山恵二郎と平谷里紗。
音響は、岩﨑敢志。
美術は、野々垣聡。
スタイリストは、小坂茉由。
ヘアメイクは、菅原美和子と河本花葉。
編集は、真島宇一。
音楽は、寺西涼。
サーヴィスエリアのフードコート。天井の電球が1つ明滅している。高野蓮(荒生凛太郎)が、父・高野初(遠藤憲一)、姉・高野恵美(石田莉子)、母・高野由美子(井川遥)と食事を取っているテーブルに飲み物を運ぶ。あとどれくらいでつく? 道が混んでるからな。こんでなかったどれくらいかかる? 50分くらいかかる。食べたらトイレに行っておけ。
食事を終えた4人がフードコートを出る。蓮はヨーヨーで遊びながら後ろ向きに歩く。駐車場の車に向かい、蓮と恵美、初が道路を渡る。遅れた由美子は車が何台も通り過ぎるのを待つ。
海辺の高台に立つ別荘。初が荷物を車から降ろす。蓮はサッカーボールでリフティングをしている。恵美が父親に鍵の暗証番号を尋ねる。父親が紙を渡す。鍵を取り出した恵美が蓮を連れて家に向かう。おい、おまえらも運べって。子供たちは行ってしまう。初のスマートフォンに着信がある。初は1人で荷物を抱えて運ぶ。
庭の芝でリフティングをする蓮。庭に面したリヴィングでは恵美がカウチに坐り英単語帳を眺める。蓮がガラス戸を叩く。父が息子の相手をするために庭に出て行く。父親のスマートフォンに着信がある。鳴ってるよ。恵美が父に告げる。父が戻って電話を取ると、応答しながら再び庭へ出る。…どうも、お疲れ様です。…承知しました。…大丈夫です。蓮のボールを受け、蹴り返す。…よろしくお願いします。何回かボールを蹴り合っていた初は蓮を置いて家に戻る。
台所で支度をする由美子に初が声をかける。由美ちゃん。ちょっといいかな? 何? コンペ、最終まで残っちゃって。東京に戻ならないといけないかもしれない。先方が一度会いたいって。由美子は何も言わず台所を出ると中2階の部屋に入る。
ベランダ越しに海が見晴らせる部屋。由美子は飲み物を手に窓越しに風景を眺める。入口近くの書棚の傍らで初が由美子に頼む。あのさあ、今が一番大切な時なんだ。このコンペは俺にとって分岐点になると思う。今までで一番大きいコンペだから。この3日間は家族に集中するって言ったよね。子供たちのためにも頑張り時なんだ。だから? だからって…。由美子はサイドテーブルに飲み物を置き、カウチに腰掛ける。建築業界で生き残るのは簡単なことじゃない。由美ちゃん、同じ業界にいたから俺の気持ち分からない訳じゃないだろ? 子供たちのことは有り難いと思ってる。有り難いって何? いつも有り難うって…。そういうことじゃなくて。俺は由美ちゃんも、恵美も、蓮も大切に思ってる。この仕事が決まれば金銭的余裕が出来る。また予定を合わせてどこかに行けばいい。私は別にこれ以上豊かじゃなくていい。私はね、本当にたまにでもどこかに出かけて4人揃って食事できれば、それでもう十分すぎるくらい。由美子は泣きながら訴える。初は溜息をつく。そんなこと言ったら、水掛け論じゃないか。由美子は声を殺して泣く。何時出て行きたいの? なるべく早くって言われてる。明日までは子供たちと一緒にいて。ああ。因みにさ、今日の用事は難しいな…。もういいから、行って。
初は部屋を出る。外から両親の様子を窺っていた蓮が庭へ駆け出す。リヴィングに戻った初は娘に尋ねられる。ママは? ちょっと休憩するって。外のベンチで蓮が横になる。初が蓮の傍に行く。由美子は部屋に籠っている。
シュノーケルを付け浮き輪を持った蓮が母親のいる部屋に入る。行く? 大丈夫。そう。蓮が部屋を出ると、代わって恵美が部屋に入る。大丈夫? 由美子はカウチで横になっている。大丈夫。ママは横向きが好きなの。恵美は黙っている。
浮き輪やシュノーケルあるからって深いとこ行っちゃ駄目だぞ。初が蓮に言い付ける。恵美も一緒に3人で草の茂る中を海岸へ抜ける道を歩いて行く。
10年半後。渋谷。胡蝶蘭やフラワーアレンジメントを積んだハイエースを転がす蓮(黒崎煌代)。地下駐車場に駐めた車から花を降ろす。MIYASHITA PARKの階段を昇り、レストランに向かう。お花届けに参りゃした。そこにお願いします。蓮が花を置き、店員に受取りのサインをもらう。川瀬様からです。店員が店長に報告する。有り難いね。ありゃした。蓮が階段を下る。
大手生花店。数名が花束やアレンジメントを作っている。もどりゃした。蓮が入ってくる。ちょっといい? 平田実(吉岡睦雄)が蓮を呼び止める。蓮は新入りの佐々木タクヤ(中山慎悟)と組んで配達するよう頼まれた。お願いします。軽い返事だけして休憩に出ようとする蓮に平田が注意する。おい、そのウエストポーチ、黄色すぎるよ。うちは黒と決まってますから! ハイ。
胡蝶蘭を車から降ろした蓮がタクヤに指示する。この札、こいつに差して。エレベーターホール。これで3万とかするんやろ? タクヤ君、こいつ3万3千円。蓮が一番下についている花を鋏で切り取る。これで850円。こんなことして大丈夫なの? オフィスに花を届けた2人が廊下を歩いて行く。
成城。マシンピラティスのスタジオ。吐く息で戻ります。インストラクターの指示に従って、恵美(木竜麻生)ら生徒たちがゆっくりとした呼吸に合わせてリフォーマーで身体を動かす。
恵美は帰り道が一緒になった佐倉マキ(菊池亜希子)と歩く。来月引越しすること、当日は6つ下の弟に運転を頼むと話すと、どんな弟か尋ねられる。何だろう…ずっと動いてます。動いてる? ビシッと立ってるのとか見たことないです。
高野蓮(荒生凛太郎)は、建築家の父・高野初(遠藤憲一)、高校生の姉・高野恵美(石田莉子)、母・高野由美子(井川遥)と夏休み3日間を海辺の別荘で過ごすことになった。到着早々、蓮は恵美と初とともに海に向かったが、由美子は付いていかず部屋に残った。コンペの最終選考に残ったからできるだけ早く東京に戻ると、家族と過ごす約束を初に反古にされ塞いでいたからだ。
10年半後。蓮(黒崎煌代)は渋谷にある大規模な生花店で配達員をしている。店長・平田実(吉岡睦雄)から新人の佐々木タクヤ(中山慎悟)の指導を任された。父の名前の札を見かけた蓮は、自ら届けることを申し出て、代官山のヒルサイドフォーラムに向かう。宮下公園の再開発で知られるランドスケープデザイナー・高野初の展覧会が行われていた。初の建築事務所のスタッフで初の交際相手でもある佐倉マキ(菊池亜希子)は会場の外で花を持ったまま立ち尽くす蓮が初の息子だと見抜く。蓮は恵美(木竜麻生)から安藤明(中村蒼)との結婚を報告され引越し作業を頼まれる。連は父が展示で日本に滞在していると報告するが、6~7年も会っていない父との縁は切れているとつれない。恵美はピラティスで一緒になった年上の佐倉に同棲について助言を求める。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
初は、宮下公園の再開発で知られるランドスケープ・デザイナーである。仕事を優先して家族との関係を築けず、とりわけ妻・由美子の死をきっかけに、娘・恵美と息子・蓮との関係が断たれた。
初は、台湾出身の事務所スタッフ・張玉雯(蘇鈺淳)から、ホームレスを排除する公園の再開発計画を引き受けたことを咎められる。シンガポールでのプロジェクトを離れたのはジェントリフィケーションに厭気が差したからではないのかと。初は事務所の人間を食わせなきゃならないと言い訳すると、張からずるいと責められる。初は水掛け論だと断じて議論を封じる。家族のためと言い訳し、水掛け論だと由美子との話し合いを切り捨てた初の独り善がりが、個人事務所へと拡張されている。
(以下では、終盤の内容についても言及する。)
蓮の計らいで、最後に家族4人が揃って食事をしたサーヴィスエリアで初に無理矢理引き合わされた恵美は、初から交際相手(佐倉マキ)を紹介するつもりだったと告げられ、再婚と家族との関係修復の一挙両得を狙うのは虫が良すぎると拒絶される。恵美が空席により母の不在だけが明らかになったと指摘すると、天井灯の1つが落下し粉々に砕ける。電球の破片を初と蓮が拾い集めると、由美子が現われる。マジックリアリズムで描かれるのは、初を責めることなく労い、業績(宮下公園のジェントリフィケーション)を称えるだけの由美子という、初の理想の妻である。そして、妻の喪失に涙を流す自らに酔う。蓮は父親の独善ぶりに失笑を洩らさざるを得ない。初が、ジェントリフィケーションから脱落する人々を黙殺し、その救済を行政の責任に転嫁するデヴェロッパーのメタファーであることは疑いない。