展覧会『入江早耶「カガヤク日常ノ微塵」』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2025年10月4日~11月15日。
プラスティック製消しゴムで印刷物を消去した際に出た滓を樹脂粘土などに混ぜて立体像を制作する入江早耶の個展。野鳥図鑑から鳥を飛び立たせる「バードダスト」シリーズ4点、野菜や加工食品の段ボールから食材の観音を生み出した「烏賊十手観音ダスト」シリーズ2点、昭和後期のグラビアを素材に東京の景観を脚色した「東京物語」シリーズ6点、商品パッケージを土偶や埴輪に仕立てた「木土偶地蔵ダスト」シリーズ18点の計30点で構成される。
《バードダスト(コニロストレス)》(570mm×450mm×50mm)は、ドイツの彩色された鳥類図鑑の見開き頁で、木々の枝などに留まる7種類の鳥(a-f)が描かれている。そのうちa、c、d、eの4羽がプラスティック消しゴムで消され、うっすらとしたイメージに改変される。消去の際に出た滓を樹脂粘土と混ぜて造型した鳥と止まり木などを画面の3ヵ所に配している。平面の擦れたイメージと立体の肉感的なイメージは異時同図的に図鑑から飛び出す感覚を演出する。《バードダスト(ハチドリ)》(400mm×310mm×50m)は、フランスの鳥類図鑑の水辺の木にかけた巣の傍に泊まるハチドリの図版をもとにしており、消去したハチドリを図版上部に取り付けた枝からさらに上のマットの部分に上向きに配することで平面の世界から解放された印象が強い。
《烏賊十手観音ダスト #1》(2000mm×1650mm×300mm)は、キャベツ、大根、にんじん、にんにく、りんごといった農産物、あるいは帆立貝柱、煮干し、出し昆布、まぐろ昆布巻といった水産加工品などの段ボールを矩形の枠として組み、その枠の中に段ボールに印刷されたイメージをプラスティック消しゴムで消去した際に出た滓と樹脂粘土、木粉粘土とで烏賊の観音を表した作品。にんにく、大根、りんご、帆立貝などを持つ蓮華座に坐る烏賊の観音は、段ボールと同じ色味でレリーフ状で表され、黄土高原の石窟に彫り出された仏像を想起させる。消去と描出との反転に加え、塑像と彫像との反転は、10本の足(2本の食椀と8本の足)を10本の手=腕への転換により強調される。
《東京物語(谷中に鶴)》(327mm×444mm×65mm)は、言問通りの坂を走る自動車と両側に並ぶ商店を映した写真(1971年)の一部を恰も霧が立つようにプラスティック消しゴムで消去し、その際に出た滓と樹脂粘土で鶴を造型して谷中の空に配した作品。すやり霞を連想させもする幻想的な霧は、実は自動車からの排気ガスによる大気汚染をも暗示する。1971年は、経済優先で環境対策に及び腰であった政府がようやく重い腰を上げて環境庁を設置した年なのだ。汚染された世界から鶴は飛び立ってしまった。
《木土偶地蔵ダスト #25》(125mm×60mm×50mm)は、肌荒れや口内炎に効く「チョコラBB」のボトルに腕が生えた人物埴輪。通称「踊る埴輪」(埼玉県熊谷市野原古墳出土)のように左腕を上げ、ボトルの蓋を開き、右腕にはチョコラBBの錠剤を手にしている。睡眠不足や偏食ですぐに口内炎ができる衆生に霊験あらたかなこと請け合いである。