映画『フランケンシュタイン』を鑑賞しての備忘録
2025年、アメリカ製作。
149分。
監督・脚本は、ギレルモ・デル・トロ[Guillermo del Toro]。
原作は、メアリー・シェリー[Mary Shelley]の小説『フランケンシュタイン[Frankenstein]』。
撮影は、ダン・ローストセン[Dan Laustsen]。
美術は、タマラ・デベレル[Tamara Deverell]。
衣装は、ケイト・ホーリー[Kate Hawley]。
編集は、エバン・シフ[Evan Schiff]。
音楽は、アレクサンドル・デスプラ[Alexandre Desplat]。
原題は、"Frankenstein"。
1857年。北極海。デンマーク船ホリソント号が氷に閉じ込められていた。船長! 船員は空腹の上、疲労困憊しています。一等航海士のラーセン(Nikolaj Lie Kaas)から報告を受けたエンダーソン船長(Lars Mikkelsen)が船体の砕氷作業に従事する船員に告げる。作業が遅れればその分氷が厚くなる。各班交代で進めるんだ! 船が動いたらサンクトペテルブルクに戻りますか? これ以上の航海に絶えられるとは思えません。聞け! 貴様らが考えることじゃない! 任務に応じたからには達成するのみだ! 北極点に向かう! 船長が梯子を登り船室に戻る。ストーブで足を温めていると轟音がした。船長が甲板に上がると、3キロ先での爆発と報告を受ける。双眼鏡で確認すると炎が上がっていた。船長は数名の船員を伴って炎上地点へ向かう。橇の犬は無事です。この血は? 氷が血で赤く染まっていた。負傷者です! 出血多量! 肩に傷、脚を骨折! 熊か? 違います。医師ウドゥセン(Lars Mikkelsen)が治療に当たる。深手を負って朦朧とする男(Oscar Isaac)の右脚は義足だった。そのとき野獣の咆吼が聞えた。船へ運べ! 船に戻ると、野獣に備え船員に銃を構えさせた。吼えながら近付いて来たのは襤褸を纏った人のように見える。構え、撃て! 見事に命中し一瞬怯む様子だったがすぐさま向かって来た。交替で撃たせるが効き目がない。船長は船員を船へ退避させる。怪物に向かう船員たちはいとも簡単に投げ飛ばされた。船長は船内に運び上げた負傷者に襲撃者が何者なのか問う。怪物(Jacob Elordi)が甲板に上がって来た。ソイツヲヨコセ! 槍で怪物を突き刺した船員は槍ごと船外へ落とされた。ラッパ銃を持ってこい! 船長がラーセンに命じる。ヴィクター! 怪物が負傷者に叫ぶ。そのときラーセンが怪物をラッパ獣で撃つ。数発連続して撃ち込み怪物を船外に突き落とすが、怪物はすぐに立ち上がる。ソイツヲヨコセ! 怪物は船を横転させようと船腹を押す。船長はラッパ獣を手に舷側に向かう。あと何発? 1発です、無理です。奴を狙うんじゃない。船長は怪物の足元の氷に銃弾を撃ち込む。氷が割れ、怪物は水の中に呑み込まれた。
船室でヴィクターはウドゥセンからアヘンチンキを勧められる。船長がヴィクターに自らと医師、船を紹介する。何人の船員が犠牲に? 6人だ。私が戻らなければさらに殺される。私を差し出してくれ。奴は死んだ。氷の海に沈んだ。死んでなどいない! 死ぬなんてあり得ない! 何度試したことか! 信じるかどうかはともかく、あれは私を探しに来る。戻ってきたら私を氷の上に置き去りにしろ。あれが私を連れ去る。なんて化け物だ。いったいどんな悪魔が作ったんだ? 私だよ。私が作ったんだ。悪行の記憶は私とともに葬られなければならない。これから話すことは事実だ。一部を除き真実だ。ヴィクター・フランケンシュタイン。父が私に与えた名だ。ヴィクターの意味が分かるかな? 支配者、全てを手にする者だろう。父から始まったことだ。そして、母から。ヴィクターが来し方を語り始める。
【序章】1857年。北極点を目指すデンマーク船ホリソント号が北極海で氷に閉じ込められた。一等航海士ラーセン(Nikolaj Lie Kaas)がこれ以上の航行は困難だと進言するが、エンダーソン船長(Lars Mikkelsen)は目的完遂に固執する。除氷作業中、附近で爆発音がした。船長が医師ウドゥセン(Lars Mikkelsen)らを率いて野営地を訪れる。手負いのヴィクター・フランケンシュタイン(Oscar Isaac)を船に連れ帰ると、怪物(Jacob Elordi)が咆哮を上げながら船に迫った。銃撃するも歯が立たない。甲板に上がり込みヴィクターを要求する怪物を銃撃で船外に突き落とし、氷の海に沈める。手当てを受けたヴィクターは怪物を生み出したのは自分だと経緯を語り始める。【第1章:ヴィクターの物語】ヴィクター・フランケンシュタイン(Christian Convery)は、高名な外科医である父レオポルド・フランケンシュタイン男爵(Charles Dance)から後継者として厳しい教育を受けていた。愛する母クレア・フランケンシュタイン(Mia Goth)が産褥で亡くなり、父が弟ウィリアム・フランケンシュタイン(Rafe Harwood)ばかり溺愛すると、孤独なヴィクターは母を救えなかった父を超え、死を克服する医学者たらんと悪魔(Roberto Campanella)に誓う。1855年。医学者となったヴィクターは死体蘇生を試みた廉でエディンバラ王立医科大学の公開査問を受ける。梅毒で死期の迫る武器商ヘンリッヒ・ハーランダー(Christoph Waltz)は、ヴィクターの弟で今は金融界で活躍するウィリアム・フランケンシュタイン(Felix Kammerer)の婚約者の伯父であることを奇貨としてヴィクターに近付き、死体蘇生の研究継続の無期限の支援を申し出た。ヘンリッヒの屋敷でウィリアムと久々に再会したヴィクターは、弟の婚約者エリザベス・ハーランダー(Mia Goth)が亡き母クレアと瓜二つであることに驚く。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
ヴィクターは後継者として医学者の父レオポルドから厳しい英才教育を受ける。多忙な父の不在時、ヴィクターは優しい母クレアに甘えられた。母子の結び付きは、2人でやり取りするときだけフランス語が用いられることで示される。愛する母が産褥死すると、医学会の権威で絶対的な権力を握る父が母を救えなかったことに激しい憎悪を抱く。ヴィクターは死者復活を実現することで父を乗り越えることを堕天使に誓う。死体蘇生研究は順調に進捗するが、不遜であるとして医学会を追放されてしまう。そんなヴィクターに、武器商ヘンリッヒ・ハーランダーが資金提供と研究場所の提供を無期限で申し出る。梅毒で死期が迫るヘンリッヒはヴィクターの研究により自らの再生を密かに期待していた。
ヘンリッヒの姪で弟ウィリアムの婚約者エリザベスは母クレアと瓜二つであった。ヴィクターはエリザベスに執着する。母クレアに対する愛は近親相姦と死とにより果たせない。近未来に義妹となるエリザベスに対する愛も成就不可能である。不可能がヴィクターを孤独に苛ませる。
ヴィクターは怪物(creature)を生み出す。文字通り、被造物(creature)を生み出す造物主(creator)となる。だがヴィクターは神(The Creator)ではない。人間が生み出す人間は不完全なゴーレムにしかならない。ヴィクターはその不完全さに苛立つ。ヴィクターは怪物の自傷他害を避けるためと鎖に繋ぎ、鉄棒で躾ける。ヴィクターがかつてレオポルドにより鞭打たれたこととパラレルである。ヴィクターは父を憎みながら、父を模倣するのである。やがて父同様、意図しないとしても、愛する者を死に至らしめることにもなる。そもそも自らが神の如き主体ないし絶対的な支配者[victor]たらんとすること自体、人間が社会的動物である以上、他者との関係で不可能である。ヴィクターは永遠に孤独を託つ他にない。
ヴィクターは造物主として、現代のプロメテウスとして辛苦する。だが、ヴィクター以上に塗炭の苦しみを嘗めることになるのは怪物だ。怪物こそ、不死のプロメテウスである。「父」ヴィクターを憎しみつつ離れることができず、ヴィクター同様孤独に苛まれ続けるのである。
怪物の存在を通じて不死の恐怖が強調される結構である。
エリザベスと怪物との関係は、映画『シェイプ・オブ・ウォーター[The Shape of Water]』(2017)を想起させる。
Mia Gothの一人二役と言えば映画『X エックス[X]』(2022)だ。