可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 寺本明志個展『寝癖をたなびかせて』

展覧会『寺本明志「寝癖をたなびかせて」』を鑑賞しての備忘録
KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2025年11月11日~16日。

自らの日常と世界との緩やかな連続を、中立的な場を表す"Patio"と題したシリーズを中心に17点の絵画によって提示する、寺本明志の個展。

《Patio―絵を描く人―》(455mm×380mm)は、画布を載せた画架の隣に立つ人物の半身像。白菜のような形状の緑の頭髪の人物が、左手は画面に向けている。その手に絵筆などは握られていない。右手には雑誌のようなものを手にしている。画面では亡く、右手前の画面外を見ている。制作中(?)の作品には犬が描かれていることから、犬を見ているのだろうか。手にする雑誌にはリンゴらしき果実こそ見えるが犬の姿はない。頭部や身体に比して、右手や左手は極端に小さく表されている。絵を描く手の比率を敢て低めるのは、描くのは作家ではなく描かれる対象であると訴えるためであろうか。白菜のような頭髪は背後に立つ針葉樹と近しい。その場の空気をも作品に封じ込めようとする意図が、画家を環境と一体化させるのだろう。

《Patio―川辺の風景―》(273mm×220mm)は、黄色い花の咲き乱れる川岸の前に立つ人物の半身像。右側に小さな流れと、その岸辺に群生する黄色い花が表される。左側には、背中に上品に坐る犬のプリントのある水色の長袖Tシャツを着た人物の後ろ姿が描かれる。右手に持つ青い棒は絵筆であろうか。水色のシャツの影には暗赤色の中に黄色い斑点がある。作家は小川と花と同化していることが示される。《Patio―棚にある花―》(530mm×455mm)でも、棚に置かれた花瓶に活けたオレンジ色の花を眺める人物のシャツにはオレンジ色の花の様な柄が鏤められ、なおかつ手前に覗く草葉と重なるように表される。おまけに花瓶と頭髪も淡い青系統という点では一致する。《Patio―ひまわりのある風景―》(273mm×220mm)にはヒマワリ畑で咲き誇るヒマワリの花を目にする男性がえ描かれる。黄ないし山吹色のヒマワリ(舌状花)に比して肌やシャツはより暗いオレンジなどが配されているが、麦藁帽子はヒマワリの中心部分(管状花の集合)に酷似しており、やはり人物はヒマワリになっている。見ることとは対象との同化であることを作品は訴えていることは明白である。

《Patio―観察する人―》(530mm×652mm)は、暗い部屋の中でテーブルに向かう人物が、円柱に降り立つ小鳥を眺める姿を表した作品。左下の円柱の上に留まる小鳥に向かって光の筋が伸び、その中に小鳥が6つの異なる姿勢で配されることで、小鳥が舞い降りる状況が異時同図として表される。この光の線が工芸の片身替りのように機能して、右側の室内と左側の室外とが表される。その対照性が明と暗、緑と赤、円柱と帽子掛けによって打ち出される。赤いテーブルには、黄緑の光が鳥のように現われ、飛び立つ。目にした世界が作家を通じて画面に写され、作品として放たれる。作家は鏡である。
《Patio―予定を確認する人―》(242mm×333mm)は、帽子掛けやテーブルから《Patio―観察する人―》と同じ室内を舞台にした作品であるが、部屋の中には2頭の蝶が舞い、背後の風景は水族館の水槽のように表される。水槽は鏡なのかもしれない。異なる世界を映し出すのである。
《Patio―鏡を覗く人―》(180mm×140mm)には石畳の道で自ら掲げた鏡を持つ人物が描かれるが、彼のシャツの背には扉がプリントされている。作家が内と外とを反転させる鏡であり、境界を自由に往き来する存在であることが打ち出される。

《Patio―犬のいる風景―》(220mm×273mm)は、噴水のある緑地で戯れるピンク色の犬を描いた作品。山を望む野原に小さな噴水があり、円柱の先から勢いよく水が噴き上がる。その周囲にはピンク色の犬10頭が駆け回る。いずれも同じ姿で、半身や頭だけ描かれたものもあることから、1頭を描いた異時同図と思しい。犬が喜び跳ね廻る楽しさを表そうとしたのだろう。対象は認識に従う。

大きめの絵画の間に、板に取り付けた数点の小作品を挟むことで、壁にそのまま掛けた作品と板に掛けた作品との間に内外の入れ籠の関係を生み出す。また、個々の作品の中心線で高さを揃えることにより生じる流れが強調される。さらに道路に面したガラス張りの壁面から見た際に一番奥に飾られる作品だけは板を張ることなく飾られた小作品であり、壁面の線が効果線となって小作品に向かいぎゅっと圧縮するような吸引力を生み出す。しかもその作品は開かれたドアの先に車が覗く《Patio―玄関の風景―》(180mm×140mm)であることから、車道に面したガラス壁面に対する鏡像の効果を発揮し、内外が容易に反転すること、内と外との曖昧さが示される。展示空間そのものを"Patio"として提示するのである。