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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 カミーユ・ブラトリクス&サーニャ・カンタロフスキー二人展『Dressing』

展覧会『カミーユ・ブラトリクス&サーニャ・カンタロフスキー「Dressing」』を鑑賞しての備忘録
タカ・イシイギャラリー 京橋にて、2025年11月6日~12月13日。

寄木細工や象嵌に描画を加えた木工のカミーユ・ブラトリクスと、人物などを描いた壺や深鉢といった陶芸のサーニャ・カンタロフスキーの二人展。

カミーユ・ブラトリクス[Camille Blatrix]】
《Head on stage》(670mm×595mm×30mm)は、木目を生かすべく薄くピンクを塗った板に黄色い線が象嵌し、中央右側を寄木細工のように板を嵌め込んだ作品。木目を活かした画面は寄木細工の入り組んだ模様にも拘わらず軽やかな印象である。筆と異なり自在に引きことのでできない糸鋸の作る線が興味深い。ピンクを刷いた板に黄色い線の象嵌はカーテンと照明を、寄木細工に覗く半円はカーテンの隙間から覗く人物の頭部であろうか。《Au clair de la lune》(750mm×610mm×40mm)は木目を灰色や灰青に塗ることで空と海面とを表す。寄木細工の手法で海面の中に別の水面を表してある。リニアな観念では捉えられない複数の時間の流れ込む世界を表すのだろう。灰色の空に浮かぶ月も真円に黒い小円や縁取る波線、貫入のような線を組み合わせ、満月の単純な形象化を回避している。四周には低い仕切り板が額縁に代わりに取り付けられているが、その縁を超えて画面は展開する。画面から食み出し、あるいは画面に流れ込むイメージは、やはり複数の時間が流れ込むイメージを生む。《Épine》(815mm×575mm×35mm)はピンクと灰色を入り組ませ棘ないし毛のような黒い弧を鏤めた中に素木の寄木細工をはめ込み、中央上部に黒い釘のイメージを挿入した作品。パレイドリア効果により、釘を鼻筋、サーモンピンクの楕円、藍の円弧を目、節目を口とした、アレクセイ・フォン・ヤウレンスキー[Alexej von Jawlensky]らの描くような抽象化された顔が浮かび上がる。《Marine》(400mm×340mm×30mm)は薄紫を背景に鷗が開いた嘴に手を挟む人物の頭部を表した作品。画面下半分に鷗の頭部と男の青い皮膚の右手とを大きく表し、その背後に男の目と鼻とを覗かせる。大口を開ける鷗と男の波のような右手はあらゆるものを呑み込む海の擬人化であろうか。色味やテーマ、作品の舞台である海岸にレオン・スピリアールト[Léon Spilliaert]の絵画と響き合うものがある。《Owl at the window》(550mm×400mm×200mm)は観音開きの扉が半ば開き、闇の中に描かれた目が覗く作品。自然環境の主体性を梟の目に仮託するのであろうか。《Au clair de la lune》や《Marine》にも通じる人間を相対化する姿勢が窺える。《Fox in a box》(100mm×500mm×280mm)は半円が割れた蓋の中に翼のようなイメージを描いた箱形の作品。赤いボタンが隅に付いている。狼ではなく狐がタイトルに冠されているが、夜(月)とともに人間から獣に変身するイメージを喚起する。入れ替わりは主客の顛倒であり、やはり相対的な世界観の表われと言えよう。

サーニャ・カンタロフスキー[Sanya Kantarovsky]】
《Dragonfly》(235mm×194mm×194mm)は胴に大きく蜻蛉を表す、首のある丸みのある壺だけはエミール・ガレ[Émile Gallé]調であるが、他の作品は、器の形を利用して、恰もケルテース・アンドル[Kertész Andor]の写真のように、歪んだ身体を表す作品が並ぶ。《Development》(267mm×275mm×275mm)はやや広い口を持つ壺で腰に身体を青い線で伸びやかに、頭部を茶色い頭髪の塊として描く。《Twisted Boy》(190mm×320mm×320mm)は小さい口を持つ扁平な壺の器面全体に人物を表す。肩に顔を突き出す様は、オディロン・ルドン[Odilon Redon]の《キュクロプス[Le Cyclope]》、あるいは国芳の《相馬の古内裏》に通じるものがある。藍色の瓢箪形の壺に膝を抱えて坐る男性を表す《Endo Exo》(247mm×195mm×195mm)や、首の無い壺の肩に顔のある雛菊を並べた《Daisy Heads》(338mm×168mm×168mm)は、ルドンの版画のモノクロームの世界だ。《Judy Bowl》(157mm×319mm×319mm)は深い鉢の見込みに男性の頭部を囲む女性の頭部と両手を表わす。青い顔の男性の周囲は鮮血のような赤が囲む。女性は切断された頭部を抱いているらしい。「鮮血」は太陽のコロナのようでもある。目を閉じる女性の顔と頭部を掲げる両手はややぼやけ、優しく包み込む印象を生む。聖顔布にも通じるイメージである。《Demon without a hand》(125mm×258mm×258mm)の鉢の見込みには、口縁近くに頭部、肘を挙げた両腕が左右に拡げた人物(?)が描かれる。壺の器面に大きな右手に襟首を掴まれる人物を描く《Drag Vessel》(185mm×150mm×150mm)は、器の形に応じて筆を動かしてしまう作家に働く「見えざる手」を表すのではなかろうか。