アニメーション映画『果てしなきスカーレット』を鑑賞しての備忘録
2025年、日本製作。
111分。
監督・原作・脚本は、細田守。
企画は、スタジオ地図。
作画監督は、山下高明。
キャラクターデザインは、ジン・キムと上杉忠弘。
CGディレクターは、堀部亮、下澤洋平、川村泰。
美術監督は、池信孝、大久保錦一、瀧野薫。
撮影監督は、斉藤亜規子。
プロダクションデザインは、上條安里。
衣装は、伊賀大介。
編集は、西山茂。
音楽は、岩崎太整。
リレコーディングミキサーは、佐藤宏明。
音響効果は、小林孝輔。
ここは生も死も混じり合う場所。過去も未来も常に溶け合っている。
海辺の光の中に1人佇むスカーレット(芦田愛菜)。振り返ると、誰かが近付いて来る。その姿はシルエットで誰かは分からない。
山岳に葉脈のように細かな谷筋が刻まれる地。暗雲の垂れ籠める空は夜の海の如く見える。灰色のマントを纏いフードを被ったスカーレットが1人曠野を流離う。水場を見つけたスカーレットが駆け寄り水を飲む。だがすぐに激しい吐き気に襲われ、倒れ込み嘔吐する。おい、あんた。あんただよ。ここをいったい何処だと思ってるんだい? 老婆(白石加代子)の声がする。ここは死者の国。そう、私は死んだ。憎き仇への復讐に失敗して死んだ。
無数の死者の手により血の池に引き摺り込まれるスカーレット。
16世紀末のデンマーク王国の城館。お父様! スカーレット! お母様、お父様がお戻りになったわ! あどけないスカーレットが帰還した父王アムレット(市村正親)を出迎える。会いたかった! お前が神様に無事を祈ってくれたお蔭だ。
王弟クローディアス(役所広司)が隣国に侵略される前に武力で捩じ伏せるべきだと王に訴えるが、粘り強い交渉で信頼を積み上げるべきだと諭される。なんと愚かな王だとクローディアスは捨て台詞を吐く。
港を望む丘で父の肖像を描くスカーレット。信頼と友好とを大切にすると言うスカーレットに父は女の子はのびのび生きなさいと告げる。娘の描いた肖像を目にしたアムレットはいい男だと満足する。
城館に戻ったスカーレットは母ガートルード(斉藤由貴)に父の肖像画を魅せる。だが汚い手と娘を蔑み、肖像画を引き千切る。夫は娘を愛しすぎる。
業を煮やすクローディアスは、密通するガートルードから私はいつでも王になる男のものと王位簒奪をけしかけられる。
この城に裏切り者がいる。クローディアスは手勢を率いてアムレットを捕え、城館の前の広場に設えられた処刑台に引っ立てる。クローディアスはバルコニーから処刑台を見下ろす。隣国と共謀するとは。権力に囚われた弟よ、醜い人殺しに成り下がるつもりか? 裏切り者には死を。広場に詰めかけた群衆は王が裏切る訳がないと訴える。スカーレットがバルコニーに姿を現わす。お父様! どうしてこんなことに! 父王は何かを口にするが喧噪のためにスカーレットの耳には届かない。スカーレットは慌てて広場に向かう。だがスカーレットが処刑台の前に辿り着いたときには已にアムレット王は4人の処刑人の足元で事切れていた。スカーレットが悲鳴をあげる。
クローディアスが王位に就く。スカーレットは剣術や武術の訓練に励む。クローディアスは反対派を取り締まる名目で貧しい者たちを拷問にかける。スカーレットは兵士によって親子が引き裂かれる場面を目撃する。スカーレットの元に封書が届く。民が飢える中でクローディアスはパーティーに明け暮れていた。王位簒奪者を始末する決意を固めたスカーレットはドレスに身を包みパーティーに姿を現わす。美しさで皆の目を楽しめてはいかがかなと言葉をかけるクローディアスを睨み付けるスカーレット。クローディアスはスカーレットの長い髪を掴むと突き放す。スカーレットは盃に毒を盛り、王の姿を影から窺う。宴が終わるとスカーレットは剣を手に眠るクローディアスに近付く。だが剣を構えたところで倒れてしまう。眠るふりをしていたクローディアスが蹲り痙攣するスカーレットを蔑む眼で見下ろす。自分だけ毒を盛られないと思うお前は赤ん坊でなくて何だ。クローディアスは高笑いして立ち去る。
スカーレットは血の池に沈む。
16世紀デンマーク王国。王女スカーレット(芦田愛菜)は、平和を愛する父王アムレット(市村正親)に溺愛され幸せな日々を送っていた。軍を好む王弟クローディアス(役所広司)は密通する王妃ガートルード(斉藤由貴)に嗾けられ、濡れ衣を着せて兄を処刑し、王位を簒奪する。スカーレットは剣術や武術に励み復讐の機会を窺う。民が飢える中パーティを重ねる王に痺れを切らしたスカーレットは夜会に参加しクローディアスに毒を盛る。だが老獪なクローディアスに逆に毒を盛られ、スカーレットは斃れる。
スカーレットは父の復讐を果たすことのできなかった無念とクローディアスに対する怨念を抱えたまま死者の国に堕ちる。スカーレットは父王アムレットとの再開を期して流離ううち、父が遙か彼方にある「見果てぬ場所」にいること、クローディアスが「見果てぬ場所」に向かおうと軍勢を組織していることを知る。スカーレットはクローディアスの手の者に騙され殺されかける。「死者の国」で死ぬと「虚無」となり存在が失われてしまう。スカーレットは、自分は死んではいないと言い張る青年・聖(岡田将生)と出会う。父の処刑人の1人コーネリウス(松重豊)に襲われたスカーレットは返り討ちにするが、聖は人を救うのが仕事だとコーネリウスを手当てして解放してしまう。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
ウィリアム・シェイクスピア[William Shakespeare]の戯曲『ハムレット[Hamlet]』を下敷きにしたアニメーション作品。
父王アムレットを伯父クローディアスに殺されたスカーレットが復讐心に囚われて「死者の国」を彷徨う。生も死も、過去も未来も溶けあう「死者の国」の彼方に父のいる「見果てぬ場所」があると知ったスカーレットは再会を目指して流離うが、クローディアスが「見果てぬ場所」を手に入れるために支配を進めていた。スカーレットはクローディアスに対する復讐心に燃える。
死者の国に堕ちて間もなくスカーレットは襲われて胸を突かれて赤い痣(scar)が刻印される。スカーレットの名は、ナサニエル・ホーソーン[Nathaniel Hawthorne]の『緋文字(The Scarlet Letter)』にも由来することが暗示される。
アムレットの処刑に関与した1人ヴォルティマンド(吉田鋼太郎)から父が最後に発した言葉が「許せ」だったことを知る。ヴォルティマンドはクローディアスを赦せと直観して剣を振り下ろすことができなかったと言う。スカーレットは父の真意について考えながら聖と「見果てぬ場所」を目指す。
聖が盗賊から救おうとしたキャラヴァンの長老(羽佐間道夫)に招かれ、スカーレットと聖はしばしキャラバンと行動をともにする。その際、祈りの言葉は神には通じないと踊りを捧げる場に出会す。踊りは、言葉と異なり、誰にでも通じる可能性がある。救命や治癒を最優先する聖と接するうち、スカーレットの復讐心に凝り固まった心に変化が生まれる。その変化が明らかになるのが、スカーレットが幻視する、未来の世界で聖と踊る自らの姿だ。
生きたいと口にするよう聖に迫られる場面は、2人の肉交のメタファーだ。エロスがスカーレットを蘇生させることになるだろう。
復讐の連鎖により止むことのない争いをいかに終わらせるか。上映時期が重なった映画『ナイトフラワー』とテーマを同じくする。