可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『WEAPONS ウェポンズ』

映画『WEAPONS ウェポンズ』を鑑賞しての備忘録
2025年、アメリカ製作。
128分。
監督・脚本は、ザック・クレッガー[Zach Cregger]。
撮影は、ラーキン・サイプル[Larkin Seiple]。
美術は、トム・ハモック[Tom Hammock]。
衣装は、トリッシュサマービル[Trish Summerville]。
編集は、ジョー・マーフィ[Joe Murphy]。
音楽は、ライアン・ホラデイ[Ryan Holladay]、ヘイズ・ホラデイ[Hays Holladay]、ザック・クレッガー[Zach Cregger]。
原題は、"Weapons"。

 

少女(Scarlett Sher)が語る。これは本当にあった話。この町で2年前に起きたこと。たくさんの人が奇妙な死に方をしたけど、ニュースになることはないの。事件を解決できなかった警察や偉い人たちが恥ずかしくなって握りつぶしてしまったから。でもこの町を訪れて尋ねてみるといいわ、みんな同じことを口にするはず。事の始まりは私の通う学校、メイブルック初等学校で、幼稚園から5年生までが通ってる。いつも通りの水曜日だったけど、新任のジャスティン・ガンディ先生(Julia Garner)が教室に行くと普段とは違ってたの。教室には誰も生徒が来ていなかった。もう1つの3年生のクラス、ベルト先生の生徒も含めて他のクラスの生徒は揃っていたのに。違う、誰もいなかった訳じゃないわ。アレックス・リリー(Cary Christopher)だけがいたの。その日18人の生徒のうち学校に来たのは彼だけ。なぜだか分かる? 他の生徒たちは真夜中の2時17分に目を覚まし、ベッドから出て、階段を降り、玄関のドアを開けて、真っ暗な外へ出て行ってしまったから。それきり戻って来なかったの。
寝静まった住宅街に似たような家が立ち並ぶ。ドアが開き、子供が濡れた芝生の前庭へ、さらに水溜まりのある車道へ、翼のように両腕を拡げて駆け出す。他の家からも子供が飛び出し、同じ方角に向かって走る。その数は次第に増えていく。
親たち先生たちはみんな悲しんで狼狽えてた。子供たちが2時17分に家を出たことは分かったの。警報装置が作動したから。カメラのある家では子供たちの姿も映ってた。でも子供たちが暗闇に出て行く姿だけ。どこに向かったのかは分からなかった。警察はアレックスになぜ他の生徒たちが消えたのか何度も話を聞いたけど、彼は知らないの一点張り。何か計画があったのか尋ねても、もしあっても聞いたことがないって。テレビの影響かと質問したら、そんな番組は見たことがないって。ガンディ先生にも何度も事情を聴いたけど、彼女も何も知らなかったし生徒たちを助けられなかった。大規模な捜査のために学校は1ヶ月休校に。でも行方不明にならなかった子供たちのために授業は再開されることになったの。授業再開の前夜、学校で大きな集会があった。カウンセラーもやって来てみんなで悲しみを乗り越えようとしたのよ。物語はここから始まるの。
メイブルック初等学校の講堂に保護者が詰めかけた。演壇ではカウンセラー(Jason Turner)が喪失への対処法について述べている。喪失感を味わう中では好ましくない感情を経験することもあります。悲しみだけでなく、怒りのような感情も。怒りは喪失から立ち直る際に必要です。とりわけ打ち拉がれたと思う場合、怒りが大きな力を発揮します。どういうことだ? 失踪したマシュー[Luke Speakman]の父アーチャー・グラフ(osh Brolin)が立ち上がり訴える。喪失から立ち直る際に怒りが力を発揮する? いなくなった息子に腹を立てろとでも? 俺は息子を取り戻すことを諦めちゃいない。全く訳が分からないんだ。同じクラスの17人に一体何があったんだ? なぜ彼女の教室だけ? 感情が溢れ出してきましたね、それでいいんです。いい加減、あんたの話はごめんだ。ジャスティン・ガンディから話を聞きたい。いるんだろ? 何をしていたか正確に教えてくれ。他の保護者もアーチャーに同調する。演壇に立ったジャスティンが緊張しながら訥々と話し出す。…今回の件については大変申し訳なく思っています。…状況を改善するために言えることは何もないとも分かっています。私も皆さん同様、答えが欲しいというのが実際のところです…。ジャスティンは保護者たちから罵声を浴びる。何が起こったのか話すまで拘束しなさいよ! 校長のマーカス・ミラー(Benedict Wong)が慌てて演壇に駆け寄り興奮する保護者に落ち着くよう求める。ガンディ先生も被害者です。私たちと同じように苦しんでいます。職務怠慢か共犯者のどっちかだろ!
ジャスティンは校長らに伴われて駐車場に向かう。激昂した保護者たちに追われる。頼みます。大変な夜でした。一晩置いて落ち着きましょう。ジャスティンが車に乗り込む。誰か泊めてくれる人は? いないならすぐに帰って静かにしておいた方がいいですよ。
ジャスティンは帰宅途中に酒店に立ち寄る。すみません、弟に会いに行くんだけどバス代がなくて。若者(Austin Abrams)に小銭を求められるがジャスティンは断る。店の奥の棚に向かい目当ての酒を手に取る。もう1本同じものを。レジに向かおうとして電話が鳴る。非通知だった。応答すると吐息だけが聞える。辺りを見回す。夜道に気を付けなさいよ…。ジャスティンが電話を切る。店を出ると先ほどの若者から再びバス代を強請られるが断る。駐車場には1台のピックアップトラックが停まっている。
車で自宅の前に戻る。辺りを確認してから家に向かう。2人組が夜道を歩いてくる。玄関に入るとすぐに鍵を閉め、窓のブラインド越しに外を窺う。2人組が家の前を通り過ぎていった。酒を用意していると呼び鈴が鳴った。テレビを消す。声をかけるが応答はない。ドアスコープから確認するが誰もいない。犬の鳴声がする。ブラインド越しに見ても誰の姿はない。安心したところでドアが叩かれる。催涙スプレーを手に玄関を出る。通りには誰の姿も無かった。しかし、車には赤い塗料で「魔女」とでかでかと落書きされていた。

 

2年前のある水曜日。メイブルック初等学校で、新任のジャスティン・ガンディ先生(Julia Garner)の担当する3年生の学級の生徒18名のうち、アレックス・リリー(Cary Christopher)を残し17名が行方不明となった。警報装置や防犯カメラの映像から失踪した子供たちは午前2時17分に家を飛び出していたことが判明したが、大規模な捜査にも拘らずその他の事情は不明のままだった。1ヶ月間休校した学校で授業再開前日に集会が行われた。カウンセラー(Jason Turner)を招いた講演はかえって保護者の怒りを昂ぶらせ、やり場のない怒りの矛先はジャスティンに向けられた。校長のマーカス・ミラー(Benedict Wong)がガンディ先生も被害者だと何とかその場を収め集会をお開きにした。ジャスティンには無言電話がかかり、車に「魔女」と落書きされた。翌日ジャスティンは校長からほとぼりが冷めるまで休暇をとるように申し渡された。アレックスはベルト先生に引き取ってもらったという。ジャスティンは警察署で落書きの被害を警察官(Eric Jepson)に訴えるが子供の悪戯だろうと深刻には受け止めてもらえない。幼馴染みで警察官のポール(Alden Ehrenreich)の姿を目にしたジャスティンは、バーで落ち合うことにする。ポールからは町中がジャスティンを非難している訳ではないと慰められ、深酒しないよう注意された。ジャスティンは妻ドナ(June Diane Raphael)のいるポールを自宅に招いた朝を迎える。ポールは捜査は警察に任せるように釘を刺して職場に向かった。ジャスティンは下校するアレックスの後を付け、アレックスの自宅に向かった。呼び鈴に反応がないため家の裏に廻る。閉ざされたカーテンの隙間から覗くと、真っ暗な室内に両親(Whitmer Thomas、Callie Schuttera)らしき人影が見えて驚く。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

3年生の同じクラスの17名が一斉失踪する事件を、失踪したクラスの担任教師ジャスティン、失踪した生徒マシューの父アーチャー、ジャスティンの幼馴染みで警察官のポール、校長マーカスら登場人物ごとの章立てで描き、徐々に真相が明らかにされていく。
原因不明の子供たちの集団失踪の伝承「ハーメルンの笛吹き男[Rattenfänger von Hameln]」を連想せずにはいられない。マシュー[Luke Speakman]の父アーチャー・グラフ(osh Brolin)が独自に子供たちの行方を捜査する際に幻視するものが直接的には"Weapons"のタイトルの由来だろう。突然消えた生徒と"Weapons"を組み合わせれば、銃乱射事件のメタファーとも解される。さらに両手を拡げて一斉に家から飛び出して来る子供たちの姿は、小翼のあるミサイルの姿に通じよう。
時間を進める画面の切り替わりが早送りのボタンを押すように敢て流れを断ち切る形で入れられるのが印象的。