展覧会『金森青葉「女たち」』を鑑賞しての備忘録
バンビナート ギャラリーにて、2025年11月28日~12月20日。
会場には、マリー・ローランサン[Marie Laurencin]とアメデオ・モディリアーニ[Amedeo Modigliani]を掛け合わせた趣の女性たちの肖像が並ぶ。正面向きの胸像はわずかに左右非対称に描かれ、そうでなければ斜め前から捕えられていたり、像主が首を傾げていたりする。彼女たちは真っ直ぐ見詰め返すようで、遠くを眼差す。姿勢と視線とズレによって現実という地から僅かに宙に浮き、像主はある種の聖性を帯びる。
それぞれの絵画には作家の物語が封じ込められている。3つの作品については具体的な物語が明らかにされている。ショートボブの女性が夕陽を浴びる海岸と藍色の海の前に佇む《江ノ島とデニーズ》(652mm×530mm)の元にあるのは、大学時代の女友達に頼まれて江ノ島でのサーファーとの別れに恋人のフリをして付き添った話。別れの辛さに耐えきず彼女はファミリーレストランで暴飲し、らしくなく酩酊する。その彼女のインナーは夕陽の、アウターは江ノ島の海の色に染まる。彼女がサーファー≒江ノ島に囚われていることを示す。他方で、眼の周囲や襟には薄紫を差すことで、彼女の変わらぬ凜とした美しさを表現する。《変る緑色のベロ》(410mm×318mm)は茶色い前髪を前に垂らしたそばかすの女性を左斜め前から捕えた胸像。明るいベージュに黄、水色、緑などの模糊とした背景に、やはりベージュに茶やピンクなどで描かれた彼女は、恰も坂本繁二郎の描く馬のように、一体化する。恋人に約束をすっぽかされた彼女は自宅で1人、彼と一緒に食べる筈だったメロンを切り、夕陽のような果肉を見たと、メロンソーダを飲みながら語った。そんな彼女の緑の舌は彼氏=メロンに染まる。クリームソーダのアイスクリームになって彼女のベロを白=自分に染めたいと思う自分は、彼女に惚れていたのだった。黒いショートボブの女性が黒い下着姿で佇む《23歳のミスミ》(652mm×530mm)は、アルバイト先で知り合った年下の女性。更衣室が開いていて、新人の彼女の下着姿を偶然目撃してしまった。ダンサーの彼女は妊娠して実家に戻ることになり店を去った。束の間目にした下着姿の鮮烈な印象が、肌に差す黄により表現される。とりわけ黒いブラジャーの脇の黄は闇と光との対照を際立たせる。彼女は、黒いチョコレートの掛かったシュー皮の中から現われる黄色いカスタードクリーム、エクレア[éclair]だ。バックヤードでもステージと同じくらい輝きを放つ彼女の存在が稲妻[éclair]のように心に焼き付いたのだ。