展覧会『大河原愛展「鼓膜に残る静寂を優しさに変えるすべについて Ⅱ」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋本館6階美術画廊Xにて、2025年11月26日~12月15日。
明るいピンクや青が鮮烈ながら印象ながら落ち着いた雰囲気を湛える、人物や動物をモティーフとした絵画で構成される、大河原愛の個展。
メインヴィジュアルの《世界に溢れる苦悩を包み込めたらと》には、女性の頭部が右頬を下にして置かれている。ショッピングピンクの光で覆われた彼女は目を瞑っている。その表情は穏やかなものではないことが、目の周囲や頭部の影、とりわけ喉の不快感を表すような首に配された灰色ののた打つ描線により強調される。《内なる言葉は雪のように 5》ではピンクや青の絵具が拡がる脇にモノクロームで描かれた女性は目を閉じている。モノクロームの女性の胸像《Recalling Places 66》ではピンクの目隠しが描き込まれる。目を閉じる姿で浮かび上がるのは、沈思黙考であり、不可視である言葉である。実際、《Trace of Silence 5》は暗闇の中に白いローブを纏った人物が表される。ローブを持ち上げた内側には、闇の中にいくつものオレンジ色の光が打ち上がる。沈黙=言葉の雄弁さを明らかにする。翻って、視界の遮断と言葉による世界の切断は却って繋がりへの要求を生み出す。
《あなたの孤独は、わたしの孤独 1》にはピンクの森に佇む鹿の姿が半ばシルエット状に描かれる。《光降る森 25》には鹿の頭部が青とピンクとを背景に、《光降る森 31》には犬の頭部が灰とピンクとを背景に描かれる。動物をモティーフとするのは、言葉を介さない、沈黙のコミュニケーションであろう。それは、言葉を手段としない絵画に対する信頼の表明と言える。
ならば、《Trace of Silence 5》や《内なる言葉は雪のように 5》、あるいは薄布が掛けられた横たわる人物――アンドレア・マンテーニャ[Andrea Mantegna]の《死せるキリスト [Cristo morto]》を連想させる――を描く《内なる言葉は雪のように 5》に配される、短い虹のようなピンクや青の線は、他者への架け橋の象徴ではなかろうか。