可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 三瓶玲奈個展『Between Dimensions』

展覧会『三瓶玲奈「Between Dimensions」』を鑑賞しての備忘録
Yutaka Kikutake Gallery Roppongiにて、11月1日~12月20日

「瓦解の構成」シリーズや「反転と均衡」シリーズなどの絵画で構成される三瓶玲奈の個展。

《線の像を結ぶ》(1400mm×2000mm)は、明暗のベージュの中に赤、黄、青、緑の幾何学的形態ないしそれに類する形が踊る。ゴーストたる輪郭線を避け、明暗と形態により立体感を呼び込む。赤・青・黄の色の三原色に緑を加えるのは、対照的な性質を持つ赤・青・緑の光の三原色を組み合わせるためだろう。「像を結ぶ」という光学的なタイトルがその証左である。回避される輪郭線は世界を切り分ける点で言葉に等しい。非言語芸術である絵画において、線≒言葉による切断なくしていかに現実を明晰に捉え得るか。色と形と質感の構成で像を結ばせる試みである。
《瓦解の構成》(1620mm×1303mm)は、画面の4辺の端に寄せて配される白い矩形、左の矩形の隣に灰青の影のような矩形、さらに左の矩形に立て掛けられた赤い矩形、影のような矩形から水平に赤い矩形を貫く青い水平の矩形などで構成される。《瓦解の構成》(530mm×455mm)は画面の四周に配された矩形のうち下のものが斜めに配され、左の矩形を支えるかに見える赤い矩形と交叉する。両作品とも斜めに配された赤い矩形が他の矩形で構成される構造のつっかえ棒に見えるのが肝である。カイガ[KAIGA]の中心にあるつっかえ棒たる"I"、すなわち私=主体をずらすとガカイ[GAKAI]するという仕掛けであろうか。
《Holding Frame》(455mm×606mm)はベージュの画面に主に緑(一部白や赤が差される)で左右に線を配し、下側をやや下に膨らんだ線で左右の線を繋ぎ、上側はわずかに右に引っ張った線を急傾斜で落とし再び持ち上げて左の長い線と右の短い線とを接続している。緑の線は崩れつつある枠だろうか。凹部は捻ったような描かれた方をしている。二次元でありながらを三次元空間で捻れるメビウスの輪である。ここに"Between Dimensions"が存在する。
《反転と均衡》(727mm×606mm)は卵色の格子の中に藍、赤、黄の矩形が3つずつ配された作品。卵色の格子は縦に3つ、横に3つ走り、横の方が幅が広い。また、上端と左端には線が入らないために、3色の矩形が左上に寄る。上段には擦れたような赤い線の上に藍の線を重ねている。左端の1つだけ白味が強く横方向の描線で、のこり2つは縦方向に筆を運んでいる。中段の赤はごく僅かに藍を差した上に明るめの赤を縦に塗り込める。右端の1つだけ横方向の描線である。下段には黄の矩形が並ぶ。《反転と均衡》(727mm×606mm)は白味がかった灰青の格子の中に黄の矩形を配する。格子の灰青や矩形の黄は明暗が異なり、また筆触を残す。《反転と均衡》(530mm×455mm)は卵色の格子の中に主に黄ない白の上に赤、1つだけ赤の上に黄を重ねた9つの矩形を配した作品。《反転と均衡》(727mm×606mm)は暗赤色の上から白を重ねた部分をやや縦に長い矩形9つに分割し、それぞれの右上に暗赤色の長方形を配する。さらに中段中央の矩形の辺りに吸殻のようにねじけた赤い長方形が9つ斜めに散らされる。《反転と均衡》(380mm×280mm)は木炭で8本の直線による格子を描き、9つの区画それぞれの左端を淡く塗り潰した作品。
色の三原色に比せられる藍・赤・黄の《反転と均衡》と、明暗の対照が際立つ。黄と灰青の《反転と均衡》や木炭の《反転と均衡》とから、反射光で鑑賞する絵画と透過光で見るディスプレイとの関係が浮かび上がる。色の明暗に加え、擦れた描線で絵具を重ねる様が強調されるため、重なりにより暗くなる反射光=絵画でいかにディスプレイの透過光の世界に包まれた世界を覆すかという問題意識が作家にあるのではなかろうか。ならば絵具という物質の三次元、液晶ディスプレイの二次元の関係が"Between Dimensions"の謂いとなろうか。