可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 植田陽貴個展『小さい声、それぞれの言葉で』

展覧会『植田陽貴「小さい声、それぞれの言葉で」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店〔インフォメーションカウンター前〕にて、2025年12月6日~26日。

主に森や雪原の人や動物の姿を描いた絵画14点で構成される、植田陽貴の個展。

《夜の共通語》(910mm×727mm)は、森の中で焚火を囲む1人の男と1匹の犬とを藍色、黄、緑を基調色に描き出す作品。木々に囲まれた開けた場所で薪は大きな炎を上げ、火の粉が舞い上がる。その煙と熱せられた空気とで照らし出される樹影は歪む。光のコントラストにより浮かび上がった木々の背後には闇が拡がる。画面手前、焚火から離れた位置に左手にカンテラを提げた男が立つは半ばシルエットとして表される。その左側で小さな犬が炎を見詰める。
《トランス》(410mm×318mm)は焚火を囲む人とお化け(幽霊?)をやや緑味を帯びた藍色のモノトーンで描く作品。中央の焚火は左側に立つ男の背丈の高さに炎を上げる。焚火の右側に(ミッフィーごっこ遊びで扮装するような)白い布を被ったお化けが現われる。裾が右端で切れることにより男ないし焚火の前に現われた動きが表現される。おそらくは森の中なのだろうが、煙と温められた空気のためか、樹影は形をなさない。因みに「お化け」は《whispering》(410mm×318mm)にも登場し、雪の積もった木々の中に溶け込む。

《whispering》(910mm×727mm)は針葉樹林の中に佇む(男女と思しい)2人の人物を緑味を帯びた藍色と黄色を基調色に描いた作品。針葉樹の密集する場所に2人がそれぞれカンテラを提げて立つ。その姿は横に走る白っぽい藍色の描線によってシルエットで表現され、白い2つの点で表された目が黄色いカンテラの光同様に光る。手前は開けているが鬱蒼とした森に道はない。奥に向かって高い樹影が霧(あるいは雪)に霞む。2人は深い森の中から現われた亡霊のようだ。雪景に溶け込む「お化け」と同題・同サイズの《whispering》(410mm×318mm)は、雪を被った針葉樹林のから姿を現わした人物を描く、藍色のモノトーンの作品。左手にカンテラを提げ、2つ点で表された目だけが光る、シルエットの人物が1人佇む。《サテライト》(273mm×220mm)は海岸(あるいは湖岸)にカンテラを手に佇む人物をシルエットで描くモノトーンの作品。波立つ水面、島影(あるいは山並)の向こうに拡がる空に満月が登る。月とカンテラとがほぼ垂線上にあり、呼応する。
《whispering》(410mm×318mm)には雪の森を進む2人の男が描かれる。それぞれカンテラを提げ、垂直の幹が立ち並ぶ雪道を進む。《予感》(410mm×318mm)は草生した池畔をカンテラを提げて歩く男を描く作品。円形の池の対岸には鬱蒼とした木々で覆われた島がある。男は左から右へと歩いて行く。《不確かな測量》(333mm×222mm)は雪の森を分け入ってく男の後ろ姿を描いた作品。

《願いを言え》(492mm×425mm)は六角形の画面に森を背にした草原に現われた2匹の鹿を描く作品。1匹は鑑賞者の方に顔を向け、寄り添うもう1匹は頭を下げている。2匹の目が光る点で表される。森の中にも光がポツポツと見える。森に現われた1匹の鹿をビリジアンのモノトーンで描いた《願いを言え》(273mm×220mm)もある。

焚火、カンテラ、月(月光)、さらには雪(雪明かり)や水面(水光)とほぼ全ての作品は光の縁語で統一されている。初めに言葉があり、言葉に命があり、人の光であるという『ヨハネによる福音書』の冒頭を踏まえれば、光は言葉となる。光を描く作品を集めた展覧会に言葉を冠しているのも頷ける。人と犬や鹿といった動物、人とおばけ(死者)、人と森(自然)を遍く照らす。それはともに太陽によって照らし出される地球と月(衛星[satellite])にも擬えられる。但し、作家は光を言葉のように世界を切り分ける道具としても用いようとするのではない。むしろ言葉を光とすることで世界を繋ぎ合せようとするのである。無論、作家にとって光とは絵画である。焚火もカンテラも、月も雪もまた絵画なのだ。絵画の光が切り刻まれた世界を包み込む。作品を目にする者の目は、作中の存在たちの目と同様、絵画の光を浴びて輝くだろう。