可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『新しい日本画―Japanese Modern―』

展覧会『新しい日本画―Japanese Modern―』を鑑賞しての備忘録
Artglorieuxにて、2025年12月18日~24日。

戯画の伝統に今日的要素を当て嵌める因幡都頼、浮世絵版画のデフォルメを技法ごと持ち込むカナイミユ、3次元空間を現代的に表現する鈴木康太、揚羽蝶をモティーフに存在を探究する外山諒、童話を題材にしたアニメーションのキャラクターのような動物を描く中西瑛理香、掴み所の無い流体の形に表現を求める和田宙土の6名の作家を取り上げる企画。 

因幡都頼《対岸は火事》(450mm×530mm)は青緑の画面をアルミ箔の直角三角形が分断する。画面下端の左側から炎が上がり黒い煙が直角三角形の鋭角に近い部分を跨ぎ伸びていく。犬を頭の上に持ち上げて支える男が火元に背を向ける形でアルミ箔の三角形の中に描かれる。あらぬ方向を見据える男の姿に諧謔を、シャープな画面が引き立てる。《みーむ》(190mm×333mm)には、黄や橙にアルミ箔を重ね、青い円や緑の垂れるような線を重ねた背景に、左上に日輪のような朱の円を覗かせ、百鬼夜行図のように白蛇、「みーむ」の幟を持つ猫、河童、白い布を被った狐、金棒を両手に持った鬼などを表す。付喪神百鬼夜行を、附和雷同の人々への揶揄へと転換している。舞台を真っ昼間に置き換えるのも皮肉が効いている。《河登り》(190mm×330mm)は箔の画面の中に擬人化された川の流れが横たわり、両手で犬を支え自ら持ち上げた場面を描く。犬は嬉しそうではない。《一斉奏者》(605mm×800mm)は河童がセーラー服を着た女性を背負って、画面右上から左下へと走り去る場面を描く。1人の女性は河童を恰も馬のように騎手として操っている。男は河童に投げ飛ばされる。《鳥獣戯画》の相撲の場面の引用だろう。

カナイミユは、版画を貼り付けた画面に岩絵具で描き加えた、主にモノクロームの作品である。町田久美の絵画を連想させる、シンプルな画面の中に不穏を漂わせる作品群が並ぶ。《くろいきもち》(530mm×530mm)は女性の頭部を断片的に表した作品。上下に右後ろから捉えた女性の頭部を縦に並べる。上部は頭髪の右側に耳、目より下から顎にかけて、下部は頭髪の右側に耳から目の辺りまでが見える。画面右端にはそれぞれ顔の左端が上部・下部で描かれた位置に合せて鏡像のように並び、右側下では右目が覗く。至近距離で向き合う目が印象的である。《新しい洋服もない》(530mm×727mm)には女性の頭部を両手で挟む様子が表される。前髪を揃えおかっぱの頭部は鼻の下辺りで切れ、ヘルメットのよに表される。そのヘルメット的頭部を挟んで支える誰かの両手が描かれる。指の曲り方は、写楽の歌舞伎役者の大首絵に見られる、デフォルメされた手を髣髴とさせる。黒いマニキュア(ないし爪)も印象的である。より印象的なのは、版画を重ねることによる手振れ写真のような表現である。《やさしく》(333mm×530mm)は女性の目から上の頭部を横長の画面に表した作品。この作品でも頭部は版画により二重で表現されている。頭頂部の流れる髪を銀箔により表し、風を表現する。《うそほんと》(318mm×410mm)は擦り剥いた膝を抱える様子を、膝と両手を中心に切り抜いた作品。傷にほんのり差した差した黄・赤が効いている。《自転》(318mm×410mm)は頭頂部と両手とを描く。灰色の線で雨が表されるが、沢山の傘の花が咲く中降り注ぐ雨を描いた、小村雪岱が「おせん」の挿絵を連想させる。

鈴木康太は「空間松林図」シリーズ3点(各500mm×606mm)において、複数の白い矩形の配置により鳥瞰する風景の視角を別々に表現し、松のシルエット墨で、霧を茶や緑青で表現する。「EMERGE」シリーズでは木片を切り出して着彩して重ね、平面の層を立体化させる。

外山諒は揚羽蝶と枯木を闇の中に表したシリーズにより閑寂や時間を表現する。《Contact》(530mm×455mm)は同題同サイズの2点があり、僅かに葉叢が見えるほぼ闇に白く浮かび上がる枯木と鮮やかなモルフォチョウ(?)とを描く。枯木の形が異なるので別の場を舞台にしているようだが、1点では蝶を木に留まらせ、1点では木から離れ舞うことで静謐な世界と動的な世界との対照が浮かび上がる。《This World》(727mm×500mm)では闇の中で枯木の周りを2頭のモルフォチョウ(?)が舞う。蝶の羽の周囲には蝶の羽搏きを表現するための残像を僅かに描き込む。

中西瑛理香《まだかえりたくない》(652mm×652mm)は金地に松(?)に登る仔虎と傍らの黒兎とを満開の梅と小鳥とともに表した作品。童話をモティーフとしたアニメーションのキャラクターのように愛らしく表現された仔虎が黒兎の方を振り返る。仔虎の優しさが眠そうな眼差しと頭に留まる小鳥とで表現される。《かわひらこ》(606mm×500mm)は蝶を追って歩く白虎を描く。書割のような山や川に対してメルヘンチックな花の表現が童話的世界を印象付ける。《たくさんあるんだね》(652mm×652mm)は親の大きく太い尻尾にもたれかかかり眠る仔虎を表す。弧状の尻尾に囲われた金色の影に休らう仔虎の安心感が、周囲を飾るパステルカラーの大ぶりな花によって強調される。

和田宙土は「形象」シリーズ5点(各455mm×380mm)により、白ないしピンクの地にマゼンタないしピンクにより、水に何か別の液体が溶け込むような捉えどころない形を表す。それでも《形象61「狂」》では頭部が表現されているのが分かる。《形象「人」》は人体というより咆吼する獣のよう。中島敦の小説「山月記」の李徴である。やはり狂人なのだ。芸術家の苦吟の表現であろう。