展覧会『李鎮雨「潤[윤]」』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2025年11月22日~12月27日。
麻布に重ねた韓紙を細い竹の棒で引っ掻くなどして作られた、いずれも無題の絵画で構成される、李鎮雨[이진우/Lee JinWoo]の個展。
会場に入ると正面に横幅3mの青い絵画《Untitled》(3000mm×1500mm)が目に入る。やや白んだ青い画面に右上から左下に向かう無数の線が刻まれている。斜めの線に、広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》の雨を見るのは、水を連想させる青味や降り頻る雨で烟るような暈けのためであろう。無論、作家の名「李鎮雨」も響いている。白く霞む効果は、韓紙が顔料に染まっていない部分による効果である。画面に近付くと樹皮のような微細な凹凸や、全体がやや撓んでいることが分かる。唐紙を重ねてあることは、入口脇に展示された《Untitled》(360mm×230mm)が一番把握しやすい。横から眺めると青く染まった紙の層がはっきり見える。もっとも、同作は展示作品中一番白い表面を持ち、滑らかな表面を流れ落ちる水に見られる衣紋のような緩やかな線が印象的である。《Untitled》(700mm×350mm)など右上から左下への斜線を入れた作品が多い中、青みが強い《Untitled》(470mm×200mm)は垂直線が刻まれる。また上側は青味が薄く、下の方は青味が強くなるよう顔料を調整してある。
白みがかった青い画面の《Untitled》(720mm×920mm)は、中段から下段にかけて次第にゴツゴツした塊が増え、厚みを増す。岩場を流れ落ちる水を思わせる、半ばレリーフと化した作品である。黒い画面の《Untitled》(1670mm×1390mm)ではより岩場の印象が強まる。
1点だけ壁に掛けず、台の上に水平に置かれた《Untitled》(720mm×920mm)にはクレーターが半ば立体的に表される。黒い画面は韓紙のために白味を帯びるがクレーターの内部は黒い。但しよく見ると底には暗紫色が覗く。この作品には水を感じない。むしろ火星に生命の痕跡を求めるように、かつての水の存在を想起させるための仕掛けである。他の作品も、このクレーターの作品と構造は同じだからである。「水の記憶」を喚起させる装置たらんと作家は企図する。記憶という時間は変化であり、生命である。
「潤」とは、「生きていること」のもう一つの名。
目に見えないけれども感じられ、存在感を残しつつ消える——
私が視覚化しようとするのは、この流れの感覚である。(アーティストステートメントより)