映画『白の花実』を鑑賞しての備忘録
2025年、日本製作。
110分。
監督・脚本・編集は、坂本悠花里。
脚本協力は、田中幸子と大江崇允。
振付・ダンス指導は、寺杣彩。
撮影は、渡邉寿岳。
美術は、中條芙美。
録音は、織笠想真。
リコーディングミキサーは、伊藤建介。
音響効果は、畔蒜亮平。
特殊効果音は、東岳志。
装飾は、大平真亜行。
スタイリストは、竹本健一。
衣装は、阿部有希。
ヘアメイクデザインは、有路涼子。
音楽は、フジモトヨシタカ。
CGIアーティストは、西山理彦。
雨に濡れた展望台。制服に身を包んだ少女が1人で階段を上がって来る。湖の対岸には町の灯が見える。彼女は右手の白い布を振りかざす。
車の後部座席に不機嫌そうな次原杏菜(美絽)が坐る。大丈夫か? 緊張してるのか? 運転席の父親・次原広道(岩瀬亮)が声を掛けて水のペットボトルを差し出す。拗ねてるのよ。勝手に転校先決めたって。助手席の母・次原麻衣子(河井青葉)が口を出す。杏菜は黙ってシートベルトを締める。坂道を車が走り出す。窓外に流れる森を杏菜が黙って見詰める。
木造校舎に入る。趣のある学校ね。母親は感心する。杏菜は相変わらずむっつり黙り込んだまま。いい加減、シャキッとして。ご機嫌よう。次原さん? 杏菜さんの担任の澤井です。出迎えた澤井(門脇麦)が2人に声をかける。校舎を案内しますね。ふてくされたままの杏菜に母親が告げる。この学校が最後だから。ここが駄目なら本当に行くとこないからね。イギリスのボーディングスクールを手本にプロテスタントの教義・精神に基づいた教育を行っていまして、毎朝礼拝が行われます…。先生の説明を聴く母親から離れ、杏菜は食堂に入り込む。壁に掛かる《最後の晩餐》の複製画を見詰める。テーブルクロスの掛けられたテーブルには燭台が立つ。杏菜は暗い廊下を抜けテーブルランプだけの灯る暗い部屋に迷い込む。
どこ行ってたの! 杏菜は階段を降りたところで鉢合わせた母親に叱られる。何で何にも喋らないの! すいません、先生。我が校では3年生のダンスイヴェントが重要で、2年生から準備を始めています。どうぞお入り下さい。澤井がダンス練習室に2人を案内する。ステージ前へどうぞ。グループに分かれ自主的に練習をしていた生徒たちに澤井が転入生を紹介する。次原杏菜さん。来週から通う予定ですが、今日は見学に来ています。大野さん、少し踊りを見せてもらってもいいですか? 澤井に促されて大野莉花(蒼戸虹子)が中央に進み出る。右手には白い布。軽く胸を叩くのを合図に、1人で踊り始めた。莉花のダンスを見ていた杏菜は明滅する照明に気付き、舞台袖の壁に吸い寄せられるように向かう。杏菜は壁の声に頷き、ごめんと謝る。丁度莉花がダンスを終えたところで拍手が起こる。母親が杏菜を叱る。あそこに幽霊が…。生徒たちが笑う。そのとき扉がバタンと勝手に閉じる。途端に動揺する生徒たち。皆さん、落ち着いて下さい。澤井が生徒たちを沈める。
1年後。寮の2人部屋。杏菜は部屋でクローゼットの鏡を前に制服を身につけている。リボン、まだないの? 同室の莉花が机に向かい鏡を見ながら尋ねる。私のリボン、貸してあげるよ。要らないよ。そんなこと言わない! 莉花と杏菜がじゃれ合う。
寮の廊下。部屋の前に生徒が立ち、順番に澤井から身嗜みのチェックを受ける。次原杏菜さん、ご機嫌よう。リボンはどうされましたか? これで何回目ですか? リボンは消えました。何のためのリボン何ですか? 制服にリボンは必要ないです。規則は規則です。意味の無い規則に従いたくはありません。だだをこねるんじゃありません! 今すぐ探して着けなさい!
次原杏菜(美絽)は妥協しない芯の強さが災いして周囲に馴染めず転校を繰り返す高校2年生。自宅でフラワーアレンジメントの教室を開く母・次原麻衣子(河井青葉)からここが最後と念を押され、湖畔にあるプロテスタント教育の全寮制女子高に転入することに。1年が経ち、ルームメイトで何事もそつなくこなす気立ての良い容姿端麗の大野莉花(蒼戸虹子)とはうまく付き合えているものの、他の生徒とは折り合いが悪い。担任教師の澤井(門脇麦)からも反抗的な態度で目を付けられていた。ある未明、湖畔に立つ展望台から1人の生徒が身を投げた。
(以下では冒頭以外の内容についても言及する。)
杏菜は自分が納得できないことに妥協できない。制服のリボンは不要と着用しない。しかも着用したところで他の生徒に盗られてしまうのだ(3年生の集合写真の撮影の場面に描かれる)。装飾のために花を殺す、フラワーコーディネーターの母親に対する反発もある。生きるために必要のない殺生は必要ないというのが杏菜の考えだ。因みに父親は杏菜に愛情を持ってはいるものの、母親との言い争いなどに口出ししない。極力関与しない姿勢は、莉花の父親・大野幸男(吉原光夫)と対照的である。
杏菜は、周囲の誰も目にすることの出来ない存在を見る。この能力が、一本気の性格と相俟って杏菜を周囲と打ち解けることを難しくさせている。
莉花が命を絶った後、杏菜は自らのバッグに莉花の日記が隠されていることに気付く。杏菜が日記を繙くと、莉花の存在を思わせる青白い光の球を目にするようになる。
穂乃川栞(池端杏慈)は親友の莉花が命を絶ったことに動揺する。自分に落度があったのではないかと思い悩む栞が杏奈の部屋に手掛かりを探すうち、杏奈との交友が始まる。
何より美絽、池端杏慈、蒼戸虹子の美しさが作品を引っ張る
少女達の蔭、あるいは彼女たちが向き合う内面を象徴するやや薄暗い湖。その縁語的な雨や霧。白い花とそして白い実としての青白い球体と月。基調色が物語全体を纏め上げるのに効果を発揮している。
ダンス、あるいは少女たちのスクラム的なポーズによる心情表現も見られる。コンテンポラリーダンスが不可分に組み込まれたホラー映画『サスペリア[Suspiria]』(2018)に比べればかなり控え目だが、同作の影響もなしとはしない。
他人に野次馬的な関心を示す前に自分の頭の蝿を追えという杏菜の直球のメッセージが放たれる。