映画『マッド・フェイト 狂運』を鑑賞しての備忘録
2023年、香港製作。
108分。
監督は、チェン・ボウソイ[鄭保瑞/Pou-Soi Cheang]。
脚本は、ヤウ・ナイホイ[遊乃海/Nai-Hoi Yau]とリー・チュンファイ[李春暉/Melvin Li]。
原案は、アオ・キンイィ[歐健兒/Kin-Yee Au]。
撮影は、チェン・シウクン[鄭兆強/Siu-keung Cheng]。
美術・衣装は、ユゥ・ガァアン[餘家安/Bruce Yu]。
編集は、ロン・ジンロン[梁展綸/Allen Leung]。
音楽は、チョン・チーウィン[鍾誌榮/Chi Wing Chung]とチャン・シゥホン[張兆鴻/Ben Cheung]。
原題は、"命案"。英題は、"Mad Fate"。
香港。墓地。ハイ・イェンサン[許陽燊](林家棟/Gordon Lam Ka-tung)が墓穴にシャベルで土を投げ込む。辛丑8月23日、ラウ・メイメイが安息のうちに眠ります…。供え物を並べ、蝋燭を灯し、埋葬の儀式を進める。土から手が飛び出す。ラウ・メイメイ[劉美美](黃呈欣)が叫びながら土の中から姿を現わす。無理、死にそう。土は軟らかいですし、保護シートもありますから心配しないで下さい。暗いし息が出来ないし、あんたがやれば。これはあなたの運命ですから。本当に厄災が起こるの? 今年が最悪です。立春から状況は良くなかったですよね? 今晩11時には死にます。分かったわ、あんたの占いは当たるからね。早く埋めて頂戴。メイメイに土を被せ、儀式を行う。メイメイが再び土の中から姿を現わす。神の前では死んだふりをしなければ。虫が這うのに耐えられなかったのよ。手を縛ります。何すんのよ、変態。時間がありません。11時になってしまいます。今は耐えて下さい。本当に埋葬されてしまいますよ。メイメイの手を縛り再び土に埋める。袋が燃え尽きるまでの辛抱です。イェンサンが鉦を叩き呪文を唱える。俄に天が掻き曇り稲光がすると土砂降りになる。途中で火が消えないように木陰に逃れる。雨水が墓穴に流れ込む。慌ててメイメイを掘り出すと、気を失っていた。息を吹き返したメイメイは正気じゃ無いと怒り、イェンサンが運命が変わっていないと訴えるのを聞かずにタクシーの乗り墓地を後にする。袋は燃えずに残ってしまった。
福和ビル。借金取り(張智行/Jonas Cheung Chi-Hang)が部屋の前で怒鳴る。開けろ! 見付からないと思ったのか? 金を払え。連れの男はスプレーで壁に落書きをする。そこに巡査部長(吳廷燁/Berg Ng)が署員を率いて現われる。署員が警察手帳を示すと男たちは立ち去ろうとする。そこに立ってろ。開けてください、警察です。女(伍詠詩/Wing Sze Ng)が顔を出す。シンナーと布はあるか? 女がすぐに持ってくる。刑事さん、貸した金の催促に来ただけですよ、犯罪じゃないですよね? 脅迫と器物損壊だ。シンナーで男たちに落書きを消させる。巡査部長は女に防犯カメラ映像のマスクをかけた男の写真を見せる。この男に見覚えは? あの殺人犯? 仲間が2人も殺された! みんな怯えてるよ。見かけてないか? いいえ。もし見かけたら通報してくれ。怪しいと思ったらドアを開けるなよ。怖いなら深夜に営業するな。お金が無いから仕方ないの。何日か待ってくれない? 女が借金取りに声をかける。聞えたか、行け! 巡査部長が男たちを立ち去らせる。ありがとう、刑事さん。気を付けるわ。女は写真をスマートフォンで撮る。署員たち福和ビルの部屋で売春する女たちに連続殺人犯についての聞き込みをするとともに注意喚起をして廻る。7Aの女は不在だったため、ビラを置いて立ち去る。
大雨の降る駅。傘の無い男(陳湛文/Charm Man Chan)は新聞を傘代わりにする。傘の人の列に並びバスを待つ。ネズミの鳴声が男の頭の中に響く。新聞広告に出ていた福和ビル7Aのメイメイの文字が雨に濡れたために手に写った。男は新聞を捨てるとマスクをかけ、福和ビルに向かう。丁度刑事たちが向かいのビルに向かうのと入れ違いに男が7Aを目指す。ベルを鳴らすが7Aは反応がない。ビラが置かれているのを見て男は引き返す。そのとき入れ違いに入って来たメイメイが7Aのドアを開ける。男がメイメイを襲い、部屋の中に押し入る。
自転車に乗った配達員(楊樂文/Lokman Yeung)が雨を凌ごうと屋根を求めてバスを待つ列の間に無理矢理侵入してきた。煙草を吸って小やみになるのを待つ間、届け先の福和"9"Aの文字が滲み、福和"7"Aに変わる。雨が小やみになったタイミングで配達員は福和ビルに自転車を走らせる。
メイメイを心配するイェンサンがタクシーを降り福和ビルに向かう。
香港。辛丑8月23日。占い師のハイ・イェンサン[許陽燊](林家棟/Gordon Lam Ka-tung)は娼婦のラウ・メイメイ[劉美美](黃呈欣)が午後11時に死ぬと知り、葬儀を行うことで運命を変えようとする。だがメイメイは息苦しさから土に埋まっていられず、折りからのの急な豪雨も相俟って、殺す気かと怒り中途で帰ってしまう。娼婦2人を殺した男(陳湛文/Charm Man Chan)は激しい雨に打たれ、ネズミの叫びの幻聴から、手にした新聞の広告からメイメイ殺害を思い立つ。殺人鬼は福和ビル7A室に帰宅したタイミングでメイメイを襲う。好到底食堂のシウドン[少東](楊樂文/Lokman Yeung)は福和ビルに出前を届ける途中、雨で文字が滲み誤って7Aを訪れる。ちょうどメイメイを心配して現われたイェンサンが室内の悲鳴を聞き扉を蹴破って中に入ると、殺人鬼に拘束され切られたメイメイの大量の血が床に溜まっていた。殺人鬼はイェンサンとシウドンを蹴散らし逃走、シウドンは血に恍惚となる。娼婦連続殺人を捜査する巡査部長(吳廷燁/Berg Ng)の事情聴取を受けたイェンサンは同じく取り調べを受けたシウドンに占わせて欲しいと訴えるが逃げられてしまう。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
シウドンは刃物に魅入られた少年(郭梓奧)で、姉(袁綺雯)の顔を傷つけ、猫を殺して服役した過去がある。父親(古天農/Ko Tin Lung)と母親(黃文慧/Man-Wai Wong)はシウドンが罪を犯しはしないかと気が気でない。イェンサンはシウドンを卜して殺人を犯す運命を読み取り、その回避のために風水や経文などあらゆる手立てを尽す。
イェンサンは精神を病んだ母親(千雪)に育てられ、父親は自殺した。精神病患者の子はそうでない親に育てられた子に比べ精神疾患を発症する確率が遙かに高いとイェンサンは自らの発狂を極度に恐れる。恋人ロン・サンイン[梁心言](趙伊禕/Yiyi Zhao)を失ったのも幸福になるほど恐怖が募った末のことだった。故にイェンサンは風水その他の呪術的行為に過剰に執着するのである。
イェンサンとシウドンが卜して見えた運命に抗うことができるのか。あるいは運命に呑み込まれてしまうのか。それこそが娼婦を付け狙うサイコパスのサスペンス映画の主題である。