可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『コート・スティーリング』

映画『コート・スティーリング』を鑑賞しての備忘録
2025年、アメリカ製作。
107分。
監督は、ダーレン・アロノフスキー[Darren Aronofsky]。
原作は、チャーリー・ヒューストン[Charlie Huston]の小説"Caught Stealing"。
脚本は、チャーリー・ヒューストン[Charlie Huston]。
撮影は、マシュー・リバティーク[Matthew Libatique]。
美術は、マーク・フリードバーグ[Mark Friedberg]。
衣装は、エイミー・ウエストコット[Amy Westcott]。
編集は、アンドリュー・ワイスブラム[Andrew Weisblum]。
音楽は、ロブ・シモンセン[Rob Simonsen]。
原題は、"Caught Stealing"。

 

地下鉄駅。列車が通過する。
野球場。ホームベースに滑り込む3塁走者。セーフ! ホームスティール成功で試合終了。
1998年。午前4時。未明のニューヨークのロウアー・イースト・サイド。ポールズバー。カウンターのヘンリー(Austin Butler)がラストオーダーを告げる。大丈夫、ポール? 大丈夫さ。リサ(Dominique Silver)と飲むオーナーのポール(Griffin Dunne)にヘンリーが声をかける。スポ(Shaun O'Hagan)が礼を告げて席を立つ。テレビでは野球の試合結果が流れる。ジャイアンツは終わったな。メッツはワイルドカードだ。アムトラック(Action Bronson)がジャイアンツ贔屓びのヘンリーを揶揄う。あんたは嫌いじゃ無いが、失せてくれ。ポールがヘンリーに踊っている連中を帰らせるよう指示を出す。ダンスは禁止なんだ、ジュニアーニ市長のせいだ。俺が一杯奢るから、帰ってくれ。ポールはヘンリーに閉店業務を任せるとリサを連れて詩を読んで朝陽を見ると言って屋上に向かった。ヘンリーは売上金を預かって地下へ。
ヘンリーが1人店内で片付けをしていると、ドアがノックされる。イヴォンヌ(Zoë Kravitz)がガラス越しにTシャツを捲り上げ、ブラジャーを見せる。顔ははっきり覚えてないけど胸なら見覚えがある。オーヴァードーズの患者を救ったの。凄いじゃないか。夜勤明けでムラムラしてるの。部屋に帰れば襲えるわ。すぐ行くよ。
ジャイアンツは昨日18点も取ったのに今日は全然点が取れない。これじゃ3ゲーム差をひっくり返すなんて無理だ。少しはエロい言葉を吐いてよ。何も言わなくてもエロいだろ。じゃあ黙ってて。
アパルトマンの入口でヘンリーとイヴォンヌが抱き合い激しいキスを交わす。早起きの老女(Kitty Lawrence)から部屋に入りなと咎められる。2人が階段を駆け上がると、隣室のラス(Matt Smith)が部屋のドアの前にいた。何やってんだ、ジジイ。ディック・ヴァン・ダイクでも気取ってんのか、この野郎。イヴォンヌは相変わらずそそるな。誘ってんのか? 私はいつも魅力に溢れてるからね。どうしたんだ? バドの世話を頼む。世話なんてできない。バドって? 同居人。こいちの猫だよ。私は猫好きだけど。噛むんだよ。お前に噛みついたことないだろ。他の奴に頼めよ。自分のことばっかりだな。親父が倒れたからロンドンに帰るんだ。餌をやってくれりゃいい。君たち、遅い時間だ。向かいの部屋のドゥエイン(George Abud)が顔を出し苦情を述べる。朝働きに出る者もいるんだ。通報はしたくない。ウォール街の仕事を捨てて失せろ! 親父が死にかけてんだ! ラスが激昂して立ち去る。俺はエリートビジネスマンじゃない。サイト設計者だ。いいね。おやすみ。おはようだろ。

 

1998年。ニューヨークのロウアー・イースト・サイド。カリフォルニア州パターソン出身のヘンリー(Austin Butler)は、ポール(Griffin Dunne)のバーで働きながら老朽化したアパルトマンでかつかつの生活を送る。熱烈なジャイアンツ・ファンの母親(Laura Dern)への電話と仕送りを欠かさない。高校時代にはメジャーリーグ入りの見込みのある野球選手だったが、交通事故で同乗していたティームメイトのデール(D'Pharaoh Woon-A-Tai)を亡くし、自らも膝を損傷して夢を絶たれた。以来、ハンドルを握ることができず、事故の悪夢を酒で誤魔化している。ある晩、交際相手の看護師イヴォンヌ(Zoë Kravitz)と自室に戻ると、隣室のラス(Matt Smith)から危篤の父親に会うためにロンドンに戻る間、飼い猫のバド(Tonic)の世話を押し付けられた。不在のラスの部屋を不審な2人組(Will Brill、Oleg Prudius)が訪ねて来る。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

ヘンリーは、交通事故を起こしてメジャーリーガーの夢を絶たれてしまった。その過去に囚われ続け、運転を避け、酒に逃げている。恋人のイヴォンヌは前に進むためには恐怖から逃げていては駄目だと諭す。何故か。ヘンリーは、交通事故でティームメイトのデールの命を、意図しなかったとは言え、奪ってしまった。だが苛まれるのはメジャーリーガーになれなかったという自分のことばかりだ。亡くなってしまったデールのことは考えられていない。イヴォンヌはそんなヘンリーの自己中心的な思考を見抜いており、発想の転換を促しているのだ。さもなければ、デールが犠牲になってしまったように、周囲の人間を不幸に陥れ続けることになるだろう。
ジェントリフィケーションの進む前のロウアー・イースト・サイドが舞台。老朽化したアパルトマンを初めとした街並も主題なのだろう。映画『キムズビデオ』(2023)に描かれるレンタルヴィデオ店も通りに姿を見せる。