可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『YADANG ヤダン』

映画『YADANG ヤダン』を鑑賞しての備忘録
2025年、韓国製作。
123分。
監督は、ファン・ビョングク[황병국]。
脚本は、キム・ヒョソク[김효석].
撮影は、イ・モゲ[이모개]。
照明は、イ・ソンファン[이성환]。
美術は、イ・モクウォン[이목원]。
衣装は、クァク・ジョンエ。
編集は、キム・ハナ[김하나]とキム・ウヒョン[김우현]。
音楽は、キム・ホンジプ[김홍집]とイ・ジンヒ[이진희]。
原題は、"야당"。

 

インチョン西南警察署。手錠を掛けられたオ・ジェチョル(우지현)がウォーター・サーヴァーから直に水を飲む。取り押さえろ。麻薬捜査斑班長キム・スンファン[이서환]の指示で同班所属の女性らがジェチョルを捕まえようとする。じっとしてろ! 喉が渇いた! ジェチョルが暴れる。
警察署に黒のハマーで乗り付けたイ・ガンス(강하늘)がキム班長と通話しながら署内に入る。どんな奴? ドンイン製粉の御曹司オ・ジェチョル。お前さんをご指名だ。すっかり全国区だな。弁護士なんかより俺の方が遙かにマシだよ。奴には密売や製造のマエがある。
取調室。ジェチョルがガンスの差し入れたコーラを飲み干す。麻薬捜査班の面々が見守る中、ガンスがジェチョルに話しかける。ヤクの売人には見えない。500gもどうやって手に入れた? 500gだとどれくらいになりましたっけ? ガンスがキム班長に尋ねる。5年だな。黙れ! 叫ぶジェチョルにガンスが取引を申し出る。ジェチョルが囮となって入手したブツの一部をキム班長に引き渡し密売組織を摘発させ、手元に残ったブツの末端価格の半分をガンスにビットコインで送金すれば、ジェチョルは捜査協力の見返りに放免され、警察はメディアで称讃され、ガンスには大金が転がり込むという算段だった。
繁華街。擦れ違う2台の車。クラクションを鳴らし停まる。運転手がショッピングバッグを受け取り、後部座席のコ・チャンラク(임성균)に渡す。チャンラクが中身を確認する。OK。運転手が車を走らせた途端、急ブレーキで停まる。目の前の黒いハマーからガンスが降りてチャンラクの車に乗り込む。お前も偉くなったもんだな。ムショから出してやった俺のことを忘れるなんて。羽振りがいいらしいな。ショッピングバッグを奪う。これ何kgだ? 3kg? 2kgくれよ。馬鹿言わないで下さいよ。ヤクチュウに限れば韓国人が一番長生きするんだ? 何故か分かるか? 警察がムショに投げ込んでくれるお蔭でヤクが抜けるからだよ。ガンスがペットボトルの水にブツを溶かす。混ぜものなんてするなよ、安物じゃ商売は続けられないって。何なんですか? 供給元から売人まで流通網をセットで教えろよ。捕まりたくなきゃ、きっちりやれよ。
囮となったチャンラクが車にブツを届ける。確認してください。運転手が中身を確認し、ショッピングバッグをチャンラクに渡す。車を発進させたところ前に停まっていた車がバックしたのと衝突した。前の車を運転していた女性が降りてくる。すいません、降りて車を確認してもらえますか? そのとき助手席の男がちょっと待てと告げる。何かおかしい。バックさせろ! 男は逃走を指示する。周囲で張っていた警察官が一気に逮捕に向かう。後ろから警察車両が突っ込む。警察官がバットで逃走車両を叩く。チャンラクは近くで待機するガンスに義務は果たしたとブツを渡すよう確認して立ち去る。逃走車は商店に突っ込んだりしながら何とか警察官を振り切る。そこにガンスの黒いハマーが突っ込んできた。ハマーは逃走車に乗り上げて動けなくした。

 

イ・ガンス(강하늘)はインチョンで運転代行をしていた28歳のある日、客に渡された栄養剤にドラッグが混入していたために麻薬使用の現行犯で逮捕され服役した。出世競争に敗れ薬物事犯担当となったインチョン地検検事のク・グァニ(유해진)から暗記能力を見込まれたガンスは同房の囚人に接近させ麻薬取引に関する情報をリークするよう求められた。大規模な麻薬密売組織の摘発に成功したク検事はグァンジュ地検に栄転、ガンスもグァンジュ刑務所に移送され、「義兄弟」2人で麻薬犯罪の撲滅に邁進する。それから3年。ソウル東部地検に配属となったク検事はガンスの働きで大規模な麻薬犯罪組織のトップであるヨン・テス(유성주)を逮捕する。痩せる薬と言われ麻薬に手を出してしまった女優のウム・スジン(채원빈)から情報を得てヨン・テスを追っていたソウル警察庁麻薬犯罪捜査班班長オ・サンジェ(박해준)は手柄を横取りされたと憤る。オ班長スジンを使ってドラッグパーティーの場所を突き止めるが、やはりク検事とガンスのコンビに先を越された。ク検事とガンスが現場に踏み込むと、パーティーの主催者はチョ・フン(류경수)、未来統一党の大統領候補チョ・サンテク(홍서준)の息子だった。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

麻薬犯罪組織と捜査当局との戦いに大統領選絡みの政治権力闘争が加わり、犯罪者や捜査機関などが自らの利益と生き残りをかけて争う。キャラクターは魅力的でスリリングな展開。タイトルから中身が捉えられないのが惜しい。
ク検事は収監中のガンスを使って同房の麻薬犯の情報をスパイさせ大規模な麻薬密売組織摘発に成功し、出世の糸口を掴む。ク検事はガンスに便宜を図り、母親にまで贈り物をする。ク検事は兄と呼べとガンスと義兄弟の契りを結び、出所したガンスに麻薬犯罪組織と司法当局とを仲介する「ヤダン」を専業とさせる。ドラッグパーティーの主催者が有力な大統領候補チョ・サンテクの息子チョ・フンであったことから、ク検事に捜査を中止するよう首脳部から圧力がかかる。ク検事は捜査の続行と中断とを天秤に掛け、後者を選択する。
大統領の生殺与奪も握ると口走るク検事は邪魔な者は罪名を挙げ、罪人に仕立て、逮捕する。ソウル警察のオ・サンジェク班長も違法捜査で起訴される。他人との関係は自己に利益になるかどうかで容易に反転する。だからガンスと簡単に義兄弟の関係を結ぶことができる。ク検事がガンスの母親に贈り物をするのも、本人だけでなく身内の情報も隈なく掴んでいることを誇示するためのものであったようだ。
母親の苦労を偲び苦学して検事になった温厚なク検事は権力に蝕まれてしまった。権力とはドラッグなのだ。