展覧会『後藤有美展「静物のストローク」を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋本館6階美術工芸サロンにて、2026年1月9日~19日。
練込により西洋の名画を表わした陶器で構成される、後藤有美の個展。練り込みのモザイクの鮮やかさに加え、元となったイメージとの関係を考えさせる楽しみのある作品群である。
《Cezanne's vase》の器面にはサクランボやナプキンなどがモザイク状に表わされる。ポール・セザンヌ(Paul Cézanne)の絵画《サクランボと桃のある静物[Nature morte au plat de cerises]》を下敷きに、そのモティーフを花器に仕立ててある。尤も絵柄を再現することが狙いではないだろう。とりわけ具象的なイメージを写すには練上の陶器は余りにも迂遠な手段であるからだ。支持体に描く絵画の存在を梃子に、却って陶芸の独自性を立ち上げるかの探究である。《セザンヌの花器》では青や黄のモザイクを背景にリンゴがボコボコと器面から浮き出す。セザンヌ描くリンゴが転がり落ちそうな不安定な世界を、器から飛び出すリンゴに仮託しているのだ。
《ヒップ・ヒップ・フーレイ!》は、クリーム、青、赤、などのモザイクのフルート型に近いゴブレット。ピエール=オーギュスト・ルノワール[Pierre-Auguste Renoir]の《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会[Bal du moulin de la Galette]》などを連想させる色味であるが、ペーダー・セヴェリン・クロイヤー[Peder Severin Krøyer]の《スケーエンの美術祭の乾杯[Hip hip hurra! Kunstnerfest på Skagen]》を元にしている。木立の近くに出したテーブルを囲む人々が乾杯する姿を描いた作品で、参会者が手にするグラスの形を模した器に、そのグラスが映し込んでいるであろう世界の色味が組み込まれたものである。
把手の2つ付いた器《商人たちの到着》は、都市の城壁から商船の着いた港へと群衆が繰り出す、ヴァシリー・カンディンスキー[Wassily Kandinsky]の《商人たちの到着[Ankunft der Kaufleute]》に取材したもので、同作の右下の描かれる種々の器の1つを器形に、無数の人々の群れる姿を茶や青のモザイクに落とし込んでいる。《カンディンスキーの水差し》は、赤、黄、青などの顔料をのせた半磁土を組み上げる練込技法による、首から胴にかけて方耳が付いた花瓶。赤、青、黄、白などの微細な色のモザイクはカンディンスキーの抽象画を喚起する。