可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『メタル展』

展覧会『メタル展』を鑑賞しての備忘録
銀座メゾンエルメス ル・フォーラムにて、2025年10月30日~2026年1月31日。

金属の両義性をテーマに、エロディ・ルスール[Élodie Lesourd]、遠藤麻衣子、榎忠の作品を展観する企画。

榎忠は、旋盤を回し磨き上げた金属部品を組んだ、武器や弾薬にも、都市や墓標にも見える《RPM-1200》、赤い台に穴を穿った硯のような鋼鉄を横一列に墓石のように並べた《ベロ耳》、地獄の入口のような砂鉄でできた穴《砂鉄》という3点のインスタレーションと、壁に掲げられた5点の写真を出展している。

エロディ・ルスール[Élodie Lesourd]は、ヘヴィメタル悪魔崇拝をモティーフとした作品を提示する。その象徴が床に置かれた損壊されたエレキギターである。悪魔と契約を結んだ錬金術ファウスト博士のイメージをシンボル化した《ファウストⅠ》、穴を穿った銅板で女性像を覆った《サタン崇拝(埋葬されぬ)》などが並ぶ。革のベルトを円柱状に連ねて吊り下げた作品に《出口なし(Huis clos)Ⅱ》と題する。ジャン=ポール・サルトル[Jean-Paul Sartre] の戯曲をタイトルに冠するのは「地獄とは他人のことだ[l'enfer, c'est les autres]」により地獄に通じさせるためだろう。

遠藤麻衣子の《識》は、レンゾ・ピアノ[Renzo Piano]設計のメゾンエルメスやその立地する銀座を舞台に、奪われてしまった身体に宿る何かを時空を超えて取り戻そうとする青年の姿を描く。箱の中に鏡を内蔵した《キャリブレーションNo2》、迷路を内蔵したハート型のオブジェ《キャリブレーションNo3》は心の象徴であろう。心を構成するのが種々の識である。《識》には転がる水銀とのたうつ蛇の鱗のイメージを繰り返し挿入される。水銀は砂鉄とともにたたら製鉄に必須であり、また赤色顔料という点でベンガラ(酸化第二鉄)と水銀朱とが結び付く。蛇は鱗の光沢がメタリックであるということだけでなく、たたら製鉄に必要な砂鉄の大量採取が川の氾濫を招いたことに由来する八岐大蛇を介して鉄に通じる。製鉄を巡るストーリーであることはサラリーマン姿の青年が数寄屋橋ダウジングを行う場面から窺える。また僧侶の姿は、製鉄技術等に通じた佐伯氏出身である空海が想起される。ラーメン屋の割烹着姿は(登場しないが)丼によく見られる龍に通じるのかもしれない。メゾンエルメスの建物を特徴付けるガラスブロックは鱗のようでもあり、夜に放たれる輝きは製鉄の火を連想させよう(トライアングルに五円玉を吊した《キャリブレーションNo1》は火と水の象徴であろうか)。会場建物に昇竜のイメージを重ね昇竜のイメージにより浮上させる手練は見事である。