展覧会『大矢一穂「開かれた城」』を鑑賞しての備忘録
MEDEL GALLERY SHUにて、2026年1月16日~28日。
女性の身体をテーマとする絵画で構成される、大矢一穂の個展。
表題作《開かれた城》(1620mm×1300mm)は両腕を挙げた女性の裸体像に、男性の胸像を重ねた作品。画面左側に主に朱色で女性の身体が表わされている。持ち上げた右腕は肘から先が細くなり画面左端で、折り曲げた左腕は肘から先が画面上端でそれぞれ切れる。やや虚ろな表情で俯く女性の頭部も画面上端で切れる。やや前傾した姿勢で尖った乳房が突き出す。腰は背後に引かれ捻られ、開いた脚が∩型に表わされる。やや土偶的とも言える身体・姿勢である。画面右の中央から下側にかけて緑を基調に男性の胸像が表わされる右目が女性の胴体に透けて見える。複数のパーツを組み合わせ、補色を優先した色の選択、モンタージュを利用した大胆な画面構成が特色で、ドイツ表現主義絵画を連想させる。画面上端から3つの線が三角形状に降ろされ、その下端に男性の眼が位置する。プロヴィデンスの眼であろう。無防備な女性が神≒男性の眼に晒される状況を表わすのである。また、女性の背後に翼らしきものが覗き、他方、女性の右脚には手が重ねられる。女性の身体は恩寵と重力とによって引き裂かれるようでもある。そこに作家は創造の源泉を見出している。
《開かれた城たち》(1303mm×1303mm)は、《アヴィニヨンの娘たち[Les Demoiselles d'Avignon]》を下敷きにした作品である。5人の裸体女性の配置はほぼ踏襲されている。いずれも仮面を着けたような顔の右隅に脚を開いて坐る女性、右上から姿を現わす女性については比較的ピカソの作品に近い表現をされている。他方、ピカソの作品における横向きの女性、右腕を肘で折り曲げて挙げる女性、両腕を肘を曲げて挙げる女性については、それぞれ振り向くように顔を眼を重ねて表現された顔で身体は正面向きに、右手で顔の右側を隠すような女性、その女性に顎を触れさせるように寄り添う女性へとポーズが大きく改変されている。重量感を増すように現わされた乳房が持ち上げられた腕を排することで強調される。また、左側の女性の驚くような目つきと振り返る異時同図的表現、その隣の女性の憂いを帯びた左眼(右目は手で隠される)、その女性の頭部に顎を載せる女性の怪訝な眼差しなど、女性達が無表情な《アヴィニヨンの娘たち》に比して心情が伝わる。《アヴィニヨンの娘たち》のモデルが娼婦であったことを踏まえれば「開かれた城」は娼婦に比せられる。同時に、中央下には果物に代えて西洋絵画の伝統において貞節を表わす犬が描かれていることを酌むべきである。男性に利用される女性の身体が男性の一方的な眼差しにおいて評価されることを拒否することを犬によって訴えているのである。開かれるのは女性の身体ではなく、女性の存在の解釈である。