可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 藤森哲個展『後史幻景』

展覧会『藤森哲展「後史幻景」』を鑑賞しての備忘録
コバヤシ画廊にて、2026年2月2日~7日。

山水と都市の廃墟を織り交ぜたSF的なイメージをモノクロームで表す油彩画で構成される、藤森哲の個展。

《後史幻景》(1620mm×2273mm)には、岩山の周囲に剥き出しになった鉄骨の構造、人工基盤など打ち棄てられ朽ちた建築・構造物が、モノクロームで表される。黒はやや茶色がかっているのか、白とのコントラストが微妙に抑えられている。屹立する岩山、磯、樹木などの自然物は、山水画を思わせよう。自然の景物に、立体格子やアーチ、あるいは人工基盤や屋根・柱などの構造物が組み込まれている。しかし、部分部分では具体的なモティーフを捉えられても、全体では自然物と人工物とが渾然一体として模糊となり、表象を掴みかねてしまう。
《遭遇者》(1120mm×1940mm)は、寺院建築のような建物の廃墟の中に宇宙服のようなスーツを纏った人物が佇む姿が、茶色がかったモノクロームで表される。寺院建築と思しき屋根や床や階段、屋台のような構造物、サーキュレーターや剥き出しになった配管・配線などが朽ちて半ば崩れ落ちる。左側に立つ人物の周囲が比較的安定を保っており、奥にある例外的に何も無い広間へ、あるいは階段を介して地下の空間へと視線を誘う。それに対し、彎曲して右下へと傾斜する屋根(鬼瓦が載る)が崩壊の感覚を生じさせる。
《時点探査[界]》(652mm×910mm)には、岩石と半ば一体化した逆さの円錐状の構造物が宙空に浮いている。ジョナサン・スウィフト[Jonathan Swift]の『ガリヴァー旅行記[Gulliver's Travels]』に登場する空飛ぶ島、ルネ・マグリット[René Magritte]の《ピレネーの城[Le Château des Pyrénées]》、岩崎貴宏の《Reflection Model》などを連想させる。波のような構造物あるいは煙の流れによっ逆円錐の層に竜巻ないし颱風といった渦ないし回転のイメージを付与する。鉄骨や配管が剥き出しになった先には、鳥のような造型物も接続して、飛翔のイメージを高める。
山水画を思わせる自然の景物は、「国破れて山河在り」的な視点に立てば、悠久を思わせる。しかし、作家が自然物と人工物とを混淆させて表現するのは、桑田変じての地質学的な時間観念である。流体の存在論を採用するのである。否、宇宙飛行士的人物や宙空に浮かぶ岩山からすれば、宇宙のスケールで世界を捉え、リニアな時間感覚を排するのであろう。歴史は脆弱な人工基盤に立つ者の見る束の間の幻である。自然と人工とは同根、未来と過去とは現在と混淆する。