展覧会『青木野枝「版画展 1997-2026」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2026年1月17日~2月14日。
水を想起させる円や渦が連なるイメージの版画で構成される、鉄の彫刻家・青木野枝の個展。最初期作から最新作までを見渡すことができる。
最初期の「雲垣」シリーズ(1997)はドライポイントによる。《雲垣 1》(291mm×230mm)で室内において、頂点をカットした円錐状に並んだ線を水平の輪により束ねるイメージが、《雲垣 3》(291mm×230mm)では下が窄まる円柱を環状に配したものが表わされる。《雲垣 4》(291mm×230mm)では漆黒の中にドームが、《雲垣 5》(291mm×230mm)ではコップが、それぞれ浮かび上がる。水(水滴ないし氷の粒)が集まって形成される雲の縁語として、湧き上がる、滴る、溜まるといった形がモノクロームで表わされる。
やはり1997年の《亀池・蓮池 7》(375mm×455mm)は、エッチングとドライポイントにより、複数の円錐が重なり合うモノクロームの作品。タンポポの綿毛が風に吹かれて飛んでいくような軽やかさがある。現世の亀池から極楽浄土の蓮池へと生命としての水が循環していくことを空想したのであろうか。
「水冠」シリーズ(1998)はメゾチントにより、暗闇からぼうっとイメージが浮かび上がるモノクローム作品。《水冠 5》(220mm×270mm)はドーム、《水冠 1》(220mm×270mm)は3つの円錐、《水冠 3》(220mm×270mm)は水を湛えた鋸歯状の縁の器の中に円錐が浮かぶ。しっとりとした雰囲気が湿度や水を感じさせる。ドームのような形は、《雲垣 4》、《水冠 5》のみならず、ドライポイントの青い渦の集積である《ひかりのやま 5》(365mm×365mm)(2019)、さらにリトグラフによる最新作《Cloud chamber Ⅱ》(520mm×420mm)(2026)の黒い渦の集積という形でもお目見えする。作家に不可欠の形であることが分かる。
《薬玉 5》(458mm×606mm)(1999)は木板・紙販による多色摺。濃淡の異なる白味を帯びた群青、水色にオレンジ色が重ねられ、渦の中に渦が散乱する。自転しながら公転する地球はもとより、万物は渦を描いている。薬玉とはビッグバンのことかもしれない。ならば、同心円の渦を表わしたドライポイント作品《寒天 9》(105mm×130mm)(2000)も宇宙の似姿であろう。同心円のイメージはエッチングによる《黒玉 2》(180mm×180mm)(2013)・《黒玉 1》(180mm×180mm)(2013)にも現われる。
木板画《玉響 3》(605mm×435mm)(2004)は大小の黒い玉が線で連なる様子を白黒の片身替の画面に表わした作品。水分子同士が引き合う力が線により表わされているようだ。エッチングの《白玉 7》(210mm×210mm)(2004)は大小の円が重なりながら連なるイメージを山吹色とオレンジ色の同系色の地に表わした作品。色味から光やエネルギーを感じさせる。
縦横1メートルの正方形の《水天 1》・《水天 14》は、エッチング、アクアチント、ドライポイントを併用した青い色味の作品。《水天 1》(1000mm×1000mm)(2007)では淡い青の無数の輪が取り巻く中を藍色の円ないし球が連なり、巻き網のような形が形成されていく。《水天 14》(1000mm×1000mm)(2007)では水底から浮かぶ(あるいは水底に沈み行く)青い色や白の球体を表わす。2作品は明暗及び集合・放散により対をなす。球の連なるイメージは《水天 11》(150mm×150mm)(2007)、さらにリトグラフによる最新作《Cloud chamber Ⅰ》(380mm×290mm)(2026)にも登場する。
《玉曇 7》(755mm×990mm)(2011)は、ディープエッチングとスピットバイトによる茶色を帯びた黒の作品。大小の輪や円が連なり拡がるイメージは顕微鏡を覗いた世界のようである。《玉曇 2》(333mm×333mm)(2011)は円錐台のような形が闇に浮かび上がり、凝集した水のようなイメージが茶色味を帯びた黒で表わされ、明るい水色の円が重ねられる。《玉曇 5》(333mm×333mm)(2011)は円錐台のような形を形成する黒いドットの上から水色の輪が泡のように覆い被さる。インクの濃度が粘着質な空気を醸す。
色鮮やかな木板「桃符」シリーズ(2015)。《桃符 5》(300mm×300mm)は円錐を底面で重ねた形が連なり画面全体を覆い尽す青い画面。《桃符 6》(300mm×300mm)には形の崩れた七宝紋のような形の連なりがピンクの中に赤、黄で画面一杯に拡がる。《桃符 1》(300mm×300mm)は朱の楕円と黄緑の楕円が散らばり、重なり合う。《桃符 4》(300mm×300mm)は黄色と水色とによる網のようなイメージ。天網恢々粗にして洩らさず。
エッチングとカーボランダムとによる《Plasmolysis 1》(406mm×586mm)(2015)は漢字の山の元となった形を表わしたような作品。無数に引っ掻いて描いた微細な輪の中にインクが濃く載り、山の象形文字が焼け付いたかのように表わされる。《Plasmolysis 6》(582mm×405mm)はイソギンチャクの触手のような形が気泡のような無数の輪や円の中に描かれる。