展覧会『立ち止まり振り返る、そして前を向く vol.4 髙橋耕平個展「逆・様」』を鑑賞しての備忘録
gallery αMにて、2025年12月13日~2026年2月21日。
鑑賞者が社会に対する問いを触発される「美術のための場所」を起ち上げることを目論む大槻晃実キュレーションによる展覧会シリーズ「立ち止まり振り返る、そして前を向く」。第4回展は、髙橋耕平。都心の再開発地域で行き当たった刑死者慰霊塔を起点に、大逆事件で「新宮グループ」として処断された人々の故郷・和歌山県新宮市などで撮影した写真を、同地産の杉の丸太に挿し込んだインスタレーション《逆・様》を展観する。
コンクリートの床に、長さや太さの異なる20本の丸太が、向きを違えて横たわる。皮の付いたままのものも剝いだもの、いずれも半分にカットされている。貯木場に浮く丸太のイメージである。それぞれの丸太には切れ込みがある、紙に焼いた写真が刺さる。道路やトンネル、交通標識、建物や什器、川や山、墓石などイメージは様々である。写真は敢て正立したものと倒立したものとを混在させている。展示室の奥にあるディスプレイでは、1961年に日弁連によって建てられた大逆事件(1910)に慰霊碑(「東京監獄市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔」)が映し出され、作家が新宿と市ヶ谷の間の再開発地域で偶然目にしたこと、大逆事件が社会主義者弾圧のための国家ぐるみの冤罪事件であったことが語られる。大逆罪は、予備や陰謀などの計画段階でも既遂犯と同等の扱いで、法定刑は死刑のみ、三審制が適用されない(大審院の審理のみ)。24名が死刑判決を受け、天皇の仁慈により無期刑になった者を除いた12名が死刑に処された。
大逆事件についての再審請求は、最高裁判所で大逆罪廃止を理由に免訴(有罪・無罪を判断しない)の判決が出されている。その宙ぶらりんの状態が水に浮く丸太のイメージに重ねられている。なおかつ丸太が水に浮くイメージは、逆様の写真と相俟って、白が黒に容易にひっくり返されてしまう危険を象徴する。木材は柱として死者に重ねられもしよう。また、映像では慰霊塔はその所在地附近に立つタワーマンションによりオーヴァーラップされる。タワーマンションはパノプティコンの監視塔を想起させずにはいない。大川原化工機事件(2020)など冤罪事件は後を絶たない。塀の中へと突き落とされることが誰にも起こり得るのである。慰霊碑が都心の再開発地域に立つことは、記憶継承の容易ならざる点を訴える。
奇しくも会期中の2026年2月12日には法制審議会が再審制度の見直しを法務大臣に答申したところである。
木材の輸送ルートは、南海路により江戸=東京ないし大坂=大阪へという地方が中央に収奪される仕組みとも言える。紀州産木材を東京に運び込んだインスタレーションは、美術における中央・地方の構造について「地方に根差した視点から中央を見返す行為である」とする大槻晃実の指摘にも膝を打つ。パノプティコン=中央からの一方的な眼差しをひっくり返さんとする発想である。
「窓」(スマートフォンやPCのディスプレイのことだろう)を介した限られた視野、視覚偏重の知覚に対する警鐘を鳴らし、現場に足を運ぶことの意義も訴えられる。その際、地図の無いように歩くこと。設定されたルートをなぞる(見せられているものを見る)だけでは、権力の求める価値判断を内面化するだけに留まってしまう。見せられていないものにこそ目を向けるべきなのだ。