可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『レンタル・ファミリー』

映画『レンタル・ファミリー』を鑑賞しての備忘録
2025年、アメリカ製作。
110分。
監督は、ヒカリ[HIKARI/光]。
脚本は、ヒカリ[HIKARI/光]とスティーブン・ブレイハット[Stephen Blahut]。
撮影は、タクロー・イシザカ[石坂拓郎]。
美術は、ノリヒロ・イソダ[磯田典宏]とマサコ・タカヤマ[高山雅子]。
衣装は、メグ・モチヅキ[望月恵]。
ヘアメイクは、ヒロミ・モモセ[百瀬広美]。
編集は、アラン・ボームガーテン[Alan Baumgarten]とトーマス・A・クルーガー[Thomas A. Krueger]。
音楽は、ヨンシー[Jónsi]とアレックス・ソマーズ[Alex Somers]。
原題は、"Rental Family"。

 

フィリップ・ヴァンダープルーグ(Brendan Fraser)が駅へ駆け込む。自動改札を抜け、階段を降り、プラットフォームへ。一歩遅れで電車は出てしまう。
山武監督のオーディション。フィリップは部屋から出て来たリックに挨拶する。I made it. フィリップ? これで最後ですとスタッフが部屋に案内する。長机の審査員を前に英語で演技するフィリップ。アリガトウゴザイマシタ。フィリップが上手くいかなかったといった顔で会場を後にする。
映画の撮影スタジオ。樹木の着ぐるみを着たフィリップが、紙カップの飲み物を手にする。
バーで1人飲むフィリップにマスターがショットグラスの飲み物を差し出す。How did you know? Your face. フィリップが酒を呷る。
下北沢で新宿行きの急行列車に乗り込む。シートに酔っ払ったサラリーマンが横になって寝ている。
誰も待つ者のいない暗い部屋に帰る。郵便受けの手紙を取り出す。部屋には演劇関係の書物などが積まれている。窓際に坐り、缶ビールを飲みながら、向かいのマンションの部屋を眺める。乾杯する2人組を見てフィリップも思わず缶を上げる。独居老人が洗濯物を取り込む。赤ん坊をあやす若い夫婦。
スマートフォンが鳴る。フィリップが目覚める。You have a black suit? Sonia? I got you a gig at 10:00 am in Saitama. どんな仕事なのか尋ねるがソーニャ(Helen Sadler)は詳細は不明だがギャラはいいと言う。What's my role? A sad American.
黒いスーツを身につけたフィリップがホールに入り、受付ににこやかに向かう。オハヨウゴザイマス。受付係(水木薫)が空いている席に坐るよう告げる。会場では喪服姿の参列者が棺を囲んで着席する中、司会者・多田信二(平岳大)が電報を読み上げていた。…続きまして、故人様のご友人である中島様よりお別れの言葉を…。フィリップが何とか空いていた席を見付けて坐る。…あなたのことが大好きでした。いつも抱き締めてくれたこと、下校中に手を繋いでくれたこと、二人乗りでいろんな所へ行ったこと…。中島愛子(山本真理)が打ち拉がれた様子で切々と訴えると、棺からご遺体(宇野祥平)が感動の余り起き上がる。中島様、ありがとうございました。故人様とのお別れの時間となりました。ご起立の上、前へお進み下さい。参列者が次々に棺に向かって手を合わせる。
葬儀終了後、ご遺体の男性は死に装束のまま父(山下ケイジ)・母(溝口園枝)とともに参列者を見送り、多田に自分の存在を肯定できたと感謝を述べた。お役に立てて光栄です。中島が一家を控え室に案内する。フィリップは会場に戻ると、棺の中に入ってみる。手を胸の前で合わせて目を閉じる。そこへ多田が現われる。日本では火葬するんだ。だからゾンビはいない。遅刻した分、ギャラから差っ引くからな。キヅイテタンデスカ? 気付かない方がおかしい。
お疲れ様! 多田がホールを出て行く。ゼンブヤラセデスカ? フィリップが尋ねると、多田は生前葬を行った当人にとってはフェイクじゃなかったと説明した。日本にはどれくらい? 7ネンデス。100年住んだところで分からないことだらけだ。今度、ウチの事務所においでよ。多田はフィリップに名刺を差し出した。名刺には「レンタルファミリー 代表取締役 多田信二」とあった。
フィリップが雑居ビルの1室にレンタルファミリー社を訪ねると、中島に迎えられた。多田は電話で問い合わせに対応中だったが、フィリップにカウチに坐るよう合図する。I knew you would come. 電話を終えた多田がフィリップの向かいに坐る。

 

フィリップ・ヴァンダープルーグ(Brendan Fraser)はミネソタ出身で、日本滞在7年の俳優。かつて歯磨き粉「クリアブライト」のテレビCMで一世を風靡したが、今は鳴かず飛ばず。オーディションを受けつつ端役をこなして孤独な日々をやり過ごす。ある朝早く所属事務所「EZタレント」のソーニャ(Helen Sadler)から急な仕事の依頼が舞い込む。生前葬の参列者の数合せだった。依頼主であるレンタルファミリー社の代表・多田信二(平岳大)から顧客の希望に応じて両親、兄弟、恋人、親友など何でも演じる仕事に演技経験を活かしてみないかと誘われたフィリップは躊躇するものの引き受ける。早速、池田佳恵(森田望智)が親元を離れるための偽装結婚の相手ブライアン・キャラハンを演じることに。結婚式当日、式場まで出向いたものの他人の人生を左右する責任の重さに怖じ気付いたフィリップはトイレに逃げ込んでしまう。スタッフの中野光太(木村文)から新郎の失踪を報告された中島愛子(山本真理)に発見されたフィリップは、やり遂げなければ佳恵の人生を台無しにすることになると説得される。

(以下では、全篇について言及する。)

フィリップはレンタルファミリー社の仕事を通じ、池田佳恵の「夫」となり、川崎美亜(ゴーマン・シャノン眞陽)の「父親」となる。
授業参観でフィリップは美亜の期待に応えることで、彼女の心を開かせることに成功する。授業で作ったクラゲのモビールをフィリップはプレゼントされる。クラゲは贋物だ。だが、フィリップの心を間違いなく動かした。フィリップは美亜に伝える。作った当人にとっては現実なのだと。ソープランドでのフィリップとLOLA(安藤玉恵)とのプレイは「自由恋愛」に基づくが、恋愛がフェイクであっても、性的欲求の充足は現実である(LOLAもフィリップ同様、レンタルファミリ-的な役割を演じている)。

フィリップは、認知症の進む名優・長谷川喜久雄(柄本明)の回顧録のインタヴュアーを喜久雄の娘・長谷川雅美(真飛聖)の依頼で行うが、フィリップは実の父親の葬儀に出なかった後悔から、依頼内容を食み出して喜久雄の「息子」の役割を演じる。
生前葬を行った大東(宇野祥平)はレンタルファミリー社とともに生前葬を行ったことで自分の存在を肯定できたと喜ぶ。レンタルファミリー社の中島も、眼を見て自らの存在を確認させてくれる誰かが時に必要なのだとフィリップに告げる。
ところで喜久雄は、フィリップに八百万の神という汎神論について話す。その際、私たちの中にも神は存在すると言う。そして、フィリップに神社で何に祈っているのか問われた喜久雄は、自分で確かめるように言われる。
フィリップは後に神社に参詣し、そこに鏡を認めるだろう。自らを省みることこそ、祈りの霊験なのだ。それは、彼岸の立場から自分を眺めるということである。フィリップは、大東の生前葬で自ら窮屈な棺桶の中に入り込んでいた。彼岸から眺める発想の素地をフィリップは持っていたのだ。

表情豊かなBrendan Fraserが素晴らしい。ゴーマン・シャノン眞陽演じる美亜との擬似父娘が本作の肝だ。中島を演じた山本真理も印象に残る。