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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 関根直子個展『もうひとつのイメージ』

展覧会『関根直子「もうひとつのイメージ」』を鑑賞しての備忘録
上野の森美術館ギャラリーにて、2026年3月14日~29日。

鉛筆の走らせ方や塗り込める密度を違えて多様な黒色を見せる作品や、描かれた線と描かれてない線を対照させる作品など9点の絵画で構成される、関根直子の個展。

《面影》(579mm×487mm)は、塩を撒いて掌で拭いた鏡を12本の水平線で切り分けたようなイメージの作品。白い粉は塩ではなく大理石の粉末である。アクリル板に白い大理石の粉末をまぶし、中央付近の粉末を掌で拭き取った上で、定着させる。そのアクリル板を13枚に分割し、等間隔に上から下に水平に枠に取り付ける。各アクリル板の断片と同サイズの鏡の断片を手前に向かって45度上がる形でアクリル板の奥側に設置する。結果として、白い粉が一部拭き取られた鏡面が垂直の画面に現われる。実際は水平に存在するバラバラのものが連続的に立ち現われたものを鑑賞者は眺めることになる。実体とイメージとの間のズレが提示されている。
《Lines(412)》(395mm×338mm)は、黒い画面に8本の白い水平線が描かれた作品。4つの木製パネルの側面を白いガッシュで塗装する一方、表面を鉛筆で黒く塗り、白線を描き込んで組み合わせてある。黒い画面に引かれる白線が5本に過ぎないにも拘わらず8本の水平線が見えるのは、重ねた木製パネル相互の隙間が白い線として覗くからである。描いた線と描かれていない線。数学では点は、従って点の集合である線もまた、大きさを持たないとされる。実体とイメージとの間のズレを通じ、存在(する)とはどういうことかとの問いを投げ掛ける作品である。ブロックの形・組み合わせ方が異なるが《Square Image(409)》も《Lines(412)》と同主題の作品である。
《面影―The Shadow on the Face》(450mm×430mm)では、表面を恰もステンレスのようなメタリックな光沢の銀色に加工し、側面を白で塗布した3つの形の異なるパネルが組み合わされている。その際、敢て左側の長方形(直方体)のパネルの上端を僅かに持ち上げるように組み合わせ、側面の白を覗かせてある。曇った鏡のような画面の向きの違いにより異なる表情が生み出さされるとともに、隙間から覗く白い線が出現する。
《Mirror Drawing―Straight Lines and Nostalgia》(2945mm×2945mm)は、それぞれを鉛筆の線で塗り潰した4種の長方形7枚と1種の正方形2枚とを組み合わせた正方形の絵画。荒々しい鉛筆の線が引っ掻かれるように引かれ、濃淡・明暗を違えてある。一見すると冷たい抽象絵画であるが、鉛筆によって引っ掻かれた画面には激し感情が漲る
。模糊とした灰色はメタリックな印象で、光を孕むようにも見えるため、『創世記』の冒頭が想起させられる。よく見ると、画面の左側には藍色が、右側には黄色が僅かに塗り重ねられている。本作に比べ黒の密度を全体に高めた《黒の振動 Black Vibration》(2945mm×2945mm)では、村上友晴の黒い絵画、さらに遡り、カジミール・マレーヴィチ[Казимир Малевич]の《黒い正方形[Чёрный квадрат]》を連想させる。