展覧会『Yohta Matsuoka「Life on the Table」』を鑑賞しての備忘録
FOAM CONTEMPORARYにて、2026年5月23日~6月10日。
モノクロームなど限られた色味であったり、時にノイズが入ったりあるいは歪んだり、融けたりする効果を与えつつ、テーブルクロスを敷いた卓の上に置かれた器や果物などを描く静物画で構成される、Yohta Matsuokaの個展。
《Almost Blue》(1455mm×1129mm)は、青と白との2色で表わされた静物画。皺の寄るテーブルクロスを敷いた卓の上に金属製(?)の花瓶とリンゴ、洋梨が置かれる。光源は左手前にあり、左側の洋梨の影と、右側のリンゴの像とが金属的な光沢を放つ花瓶に映る。花瓶の口からは、花瓶に比して小さな一枝だけが挿され、3つの葉を覗かせる。上方から吊された電球が点灯しているが、左手前から射す光の方が遙かに強く、昼行灯となっている。卓の奥の左右には白いカーテンが左右に引かれている。
《Have a Nice Day》(1455mm×1455mm)は、モノクロームの静物画。卓上に暗い色味のガラスの花瓶、リンゴ、オレンジ、バナナが置かれる。花瓶の脇に落ちるチーズをリンゴの傍にいる鼠が狙い、その鼠を目掛けて、猫が画面の外から手を伸ばす。輪切りにされたオレンジには小鳥が留まる。花瓶にはスマイルマークの付いた棒と1輪の花とが挿されている。2頭の蝶が周囲を舞い、紙飛行機が飛ぶ。右手前から射す光により影が壁面に映る。ブラインドか窓の格子か、細い斜線の影が3本平行して走り、右上方向に視線を引っ張るとともに、蝶と飛行機とを浮上させる。生物と無生物とが影として等価となる。
《Light and Shadow》(1455mm×1129mm)は、布を敷いた卓の上に置かれた黒い壺、リンゴ、バナナ、ブドウ、オレンジを描いた作品。これらが天然色で描かれる一方、壁面に三角形を形作る強い光は、花瓶の口縁に留まるかのような小鳥と、周囲を舞う3頭の蝶との影を浮かび上がらせる。「ヴァニタス」としての静物画は、「壺中の天」を想起させる黒い壺を介して、片身替わりのように、「洞窟の比喩」の世界を起ち上げる。同時に、その変化とは、「胡蝶の夢」でもある。西洋と東洋とが入れ籠の世界である。
テーブルクロスを掛けた卓上に白い花瓶、洋梨、マスカット、レモンを並べた《Still in Life》(1303mm×970mm)でも、《Light and Shadow》同様、壁に三角形の光が当たる。デジタルイメージのノイズが画面全体に描き込まれる。
《Still Life #404》(1167mm×1167mm)は、卓上に置かれたリンゴ、オレンジ、バナナ、ブドウを盛った壺を描いたモノクロームの絵画で、一部に着彩がある。但し、その色はピンク、青、緑を呈し天然色ではない。画面全体に散らされたデジタルイメージのノイズの表現と相俟って、バグったイメージである。類例作品に、サイアノタイプのような青いイメージで壺に盛った果物を描いた《Ice Blue Objects》(410mm×318mm)や、桃色の背景に台上のオレンジとブドウと、ブドウの上に留まる小鳥を天然色で描いた《Moment Before Noise》(300mm×300mm)がある。《After the Silence》(902mm×453mm)には、布を敷いた卓上にチューリップを活けた花瓶、リンゴ、ブドウ、オレンジ、レモンを並べ、花の上を2頭の蝶が舞う場面をモノクロームで表わされている。ノイズの一部に色が差してある。縦長の画面により茎の長いチューリップの存在が強調される。ノイズ[Noise]をテーマにした作品は、世界をデジタルデータのイメージで捉える日常を反映するとともに、静物画[Still life]のstill[静寂]との対象をも意図されている。
《Soft Noise》(1167mm×910mm)は、赤い布を敷いた卓上に、リンゴ、イチゴ、ブドウ、サクランボを盛った磁器の壺を描く。大きく波打つ布とともに、器やリンゴなどモティーフも歪む。《Soft Morning》(530mm×803mm)では、波打つテーブルクロスの上にオレンジジュースの入ったグラス、リンゴとオレンジ、バゲットが置かれる。中央のリンゴとオレンジが小麦粉を捏ねた生地を伸すかのように大きく歪む。《Warm Curve》(438mm×300mm)では、テーブルクロス、リンゴ、ブドウ、バナナが緑色のガラス瓶とともに大きく歪む。とりわけワインボトルのS字が山吹色の背景に映える。《Everuthing is Fine》(727mm×606mm)には、テーブルクロスの上の花を活けた花瓶、ペットボトル、バスケットボール(?)がモノクロームで描かれる。花瓶、ボトル、ボールが揺れるように歪む一方、花瓶の脇にあるスマイルマークは歪まない。《Slow Blue》(300mm×300mm)は、壺、リンゴ、ブドウが歪む様をサイアノタイプのような青い画面に表わしてある。イメージの加工が容易になった時代の視覚像を露悪的に表現している。
《Not All Beauty Honest》(1000mm×803mm)は、テーブルクロスを敷いた卓上のボトル、グラス、リンゴ、オレンジ、バナナ、イチゴを描いた作品。2個ずつあるリンゴとオレンジは、1個を写実的に、もう1個は黒の太い輪郭線で平板に、それぞれ表わしてある。イチゴはグラスに入れられた2個を写実的に、布の上に直に置かれた1個を黒い輪郭線で平板に表わしてある。長い頸を持つガラスのボトルには白いワイヤーをクシャクシャに折り曲げることで白薔薇を模す一方、黒い輪郭線の白いボトルには白バラを写実的に描いてある。人間の視覚認識を探究する石場文子が空間に輪郭線を介入させるシリーズを想起させる。写実とイラストレーションとの2つの描法の混在は、いかに写実的に描かれていようとも全てがフィクションであることを浮き彫りにする。
"table"には「一覧表」の意味もあるため、展覧会タイトル"Life on the table"はメリトクラシーを揶揄するようにも解釈可能である。数値化(≒デジタル化)されない能力は捨象される世界は歪んでいる。