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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 エルネスト・ネト個展『Dreaming Beings(夢見る存在たち)』

展覧会『エルネスト・ネト「Dreaming Beings(夢見る存在たち)」』を鑑賞しての備忘録
小山登美夫ギャラリー六本木にて、2026年5月2日~6月13日。

壁や天井、床に貼られた、綿糸を編んだ網による生命体のような立体造形物「SymbioZooEthicalBeings」シリーズと、紙にうねる線を泥で描いた「Clay drawings dancing on Paper」 シリーズとで構成される、エルネスト・ネト[Ernesto Neto]の個展。生成りの糸と赤茶色の泥とがアニミズムの儀礼的空間を起ち上げる。

「SymbioZooEthicalBeings(szeb)」シリーズは、綿糸をかぎ針で網状に編み連ねたものを数箇所で竹の棒を支柱に紐で引っ張り張った、網の四角錐状のタープが連続する形状の作品。最初の展示空間の正面には、5つの支柱を12箇所で引っ張る《szeb-insepa 5》(2110mm×1130mm×220mm)が僅かに蛇行しながら縦に張られる。"insepa"は不可分[inseparáveis]ということだろうか。5つの部位がくねり壁を這う様子はムカデなど節足動物のようだ。生成りの綿糸を編み張っだけでの簡素な作品は、清浄な印象を与える。
《szeb-insepa 5》に向かい左右の壁面には、泥を用いた赤茶色のドローイング「Clay drawings dancing on Paper」シリーズの《you and me》(595mm×1260mm)と《joy dance us》(595mm×1260mm)とがそれぞれ掲げられる。いずれも3枚の紙に跨がって描かれている。《you and me》は、幅の狭い筆を用いて中央から左の紙へ、左の紙でヘアピンカーヴして緩やかに波打ちながら中央、右へと次第に擦れながら延びる。幅の広い刷毛によるもう1本の線は、中央から右へ上がり、右の紙でUターンして中央の紙から左の紙へと延びる。大小2匹の蛇が向かい合うようなイメージである。《joy dance us》も2本の蛇行する線が紙の上で同様の動きをするが、筆の太さは同じである。また、擦れている部分が多く、下を走る線はほとんど見えなくなる。泥によるドローイングは洞穴壁画のような始原的な印象で、蛇行する線と相俟って、アニミズムのような呪術的な力を喚起する。
《szeb-insepa 5》と《you and me》・《joy dance us》とは、何れも線・連なりの表現であり、揺らぎあるいは蛇行し、、円錐やシートといった部分から構成されている点で共通する。オーストラリアなどに伝わる、蛇の泳ぎ、虹、降雨、川の流れに連なる虹蛇[Rainbow Serpent]の神話に思いを到らせる。

受付のある主展示室への羨道の壁面には《Infinite Dance》(420mm×595mm)、《life flow》(420mm×1190mm)、《We Dance Us》(420mm×595mm)といった泥の蛇たちが踊る。受付の天井には、「SymbioZooEthicalBeings」シリーズの《szebs-Flutua Inse》(550mm×1000mm×2000mm)がぶら下がるが、他の作品とタイトルが異なる。"Inse"は「不可分」を指すのではなく、昆虫[inseto]を意味するのだろうか。

主展示室の奥には床に《Ritual dance》(420mm×3000mm×3000mm)が設置されている。「SymbioZooEthicalBeings」シリーズのテントのような構造12個が円形に連なり、円の中央には米を持った円盤を、円の外には中に土を入れた素焼きの壺が配される。円形は太陽(放射)であり、12ヶ月=1年を表わすのは疑いない。太陽からの光エネルギーが植物を介して循環し生命を支えていることが、大地(=土)からの恵みである穀物(米)によって表現されている。周囲の壁面には、「SymbioZooEthicalBeings」シリーズの、ムカデのような《szeb-insepa 18》(2320mm×4300mm×220mm)、《szeb-insepa 9》(2720mm×1230mm×220mm)、《szeb-insepapaté 13》(2500mm×1600mm×120mm)や、Y字状の《szeb-insepabi 8》(1930mm×1560mm×220mm)が飾られる。《szeb-insepapaté 13》は天井から2つの壁面へと跨がって展開する。また、幅の広い蛇行線と幅の短い蛇行線とが向かい合う《I can'T beleive we met》(420mm×595mm)、太い波線から細い2つの蛇行線が派生する《We are Life》(420mm×595mm)、波打つU字を向かい合わせて楕円状にした《we flow joy dance we flow》(420mm×595mm)、2つの壁面に跨がり貼られた8枚の紙に蛇行する線を引いた《linha viva quando olhei já foi vermelha》(350mm×2070mm)、6枚の紙を2枚の壁面に跨がらせて描いた蛇行線の《あなたを見たとき、それがあなただとは気づきませんでした》(365mm×890mm)が飾られる。

さらに、独立した小さな展示室の中には、《szeb-insepa 3》(1330mm×1060mm×220mm)とともに、太い蛇行線の先端から2本の蛇行線が派生して再び後端に戻って来る《We are Life》(420mm×595mm)、2本の蛇行線が先端で向かい合う《twist dance dantwi》(595mm×1260mm)や《Dance Encounter Us》(420mm×595mm)が組み合わされて展示されている。

「SymbioZooEthicalBeings」シリーズの生成りの糸により組み立てられる生命の組織に対し、「Clay drawings dancing on Paper」 シリーズの赤茶色の泥との震える線が太陽放射という波によって活かされる。命に対する讃歌を奏でる儀礼的空間が、展示空間ごとにで繰り返され、展覧会全体が永遠へに対する祈りという結構である。