映画『NEW GROUP』を鑑賞しての備忘録
2026年、日本製作。
82分。
監督・原案は、下津優太。
脚本は、下津優太と佐原百子。
企画は、田中翔、金鮮伊、水野裕基。
撮影は、西岡徹。
照明は、渡邉秀悟。
録音・整音は、小林圭一。
美術・装飾は、小林楽子。
スタイリストは、橋爪里佳と福田亜由美。
ヘアメイクは、板垣実和 小山佳穂。
銀河。地球。日本列島。
夜の住宅街。報道陣が待機する。来るか? 来た来た! マンションから人気俳優と人気女優が連れ立って出て来た。すいません、お話しを! 記者たちが2人を取り囲む。事務所を通してもらえますか? やはり昨年のドラマ共演がきっかけですか? 妻帯者だって分かってますよね? 口々に質問を浴びせられるが2人は答えようとしない。激昂した記者たちは2人を袋叩きにする。
駅前の広場。屯する高校生たち。ピラミッド状の彫刻の周囲を騎馬戦の騎馬を組んで馬鹿騒ぎしている。近くを歩いていた老女が倒れ込む。助けて下さい。高校生たちが近寄りすかさずスマホを向けて撮影する。
アーケードの商店街。貧困に苦しみ坐り込む人たちの脇を、支持者に神輿のように担がれた政治家がニッポン最強とシュプレヒコールを上げながら通り掛かる。政治家は国民の代表だ!
佐藤愛(山田杏奈)が自室のベッドで悪夢に魘され目を覚ます。
愛が階下のリヴィングダイニングに向かう。おはよう。母親(坂倉なつこ)は朝食と弁当の用意に忙しい。父親(足立智充)は既に新聞を読みながら朝食を取っていた。妹の心はお気に入りのぬいぐるみにご飯を食べさせている。テレビの情報番組は運勢が最悪なのは蟹座で、待ち受け画面を金色にするようアドヴァイスしていた。トップニュースは未明に宇宙から地球に向かって発せられたという信号について。コメンテーターの清水崇(清水崇)が宇宙人による侵略の可能性を指摘する。聞いていた母親は怖がる。これ、お昼。食卓に着いた愛に母親がお弁当を渡す。愛はラップに包まれたおにぎりを手に取ると、三角形から丸へと握って変形させる。
高校。教室。チャイムが鳴る。愛の隣の席に坐る親友の春(駒井蓮)が滑り込む。 教壇に立ったクラス担任(細井じゅん)がクラス委員に指示を出す。起立! 気を付け! 礼! おはようございます! 着席! 今日から転校生が来ます。静かに。担任の先生に呼び込まれて男子生徒(青木柚)が姿を見せた。まだ制服を着ていない。小林優です。親御さんの都合で海外にいたらしい。英語の発音でも教わったらいい。Nice to meet you! 揶揄うような声をかける男子生徒に女子生徒が止めなよと止める。優は春の前に坐った。春がよろしくねと声を掛けると、優は頷く。
愛がトイレで個室から出たところ、咲希(ロジャース歌乃)たち3人が花子(佐々木ありさ)に貢がせた金を数え、配分する。来週もよろしくね。愛は花子を助けようとして躊躇っていた。おい、見てんじゃねぇよ。愛は咲希にガンを飛ばされる。愛ちゃん、ここにいた! 春がやって来た。次、移動教室だよ。愛は花子を助けるのか、春とともにこの場を立ち去るのか迷う。愛ちゃん、こっちだよ。春に促された愛は後ろ髪を引かれながらもトイレを出て行く。
美術室。1人の女子生徒を皆が囲んでイーゼルに向かいデッサンしている。話さない! 集中する! 見廻る美術教師(島田桃依)が生徒に注意する。愛は濃淡でなく輪郭で陰影を表現する優のデッサンのオリジナリティに感嘆する。美術教師は優の作品に目を留める。これは悪い例です。デッサンは見たままを描き出すこと。デッサンに個性は要りません。美術教師は優の作品を破り捨てる。ハイ、戻って!
グラウンド。体育教師(松本亮)の笛に合わせ隊列を組み行進する生徒たち。全体、止まれ! イチ、ニ! 右向け 右! イチ、ニ! 左向け、左! イチ、ニ! 回れ、右! イチ、ニ、サン! 回れ、左! イチ、ニ、サン! 体操隊形に、開け! 生徒たちが両腕を拡げてお互いに間隔をとって並ぶ。直れ! 右向け、右! 小林、頼むって。転校してきた小林は周囲に合わせて行動できず体育教師に注意される。そのとき、愛が倒れる。どうした? 大丈夫?
佐藤愛(山田杏奈)は高校3年生。母親(坂倉なつこ)と父親(足立智充)が幸せな家族を無理に取り繕う姿が鬱陶しい。進路を決定する時期だが特に希望はない。親友の春(駒井蓮)から同じ大学・学部に行こうと言われ、気持ちが傾く。海外生活を送っていた転校生・小林優(青木柚)からは自分のことは自分で判断するように言われる。花子(佐々木ありさ)が咲希(ロジャース歌乃)のグループに恐喝されている現場に遭遇したとき、優が花子を助け出す。見て見ぬ振りをするのはイジメに加担してるのも同然だと優に指摘された。グラウンドで1人の男子生徒が銅像のように跪いて動かなくなった。教師たちは気にせず下校するよう生徒に促す。校庭で動かない人間が増えて3段6人のピラミッドになる。生徒全員がグラウンドに集められ、ピラミッドに参加するよう言われる。従わない生徒を体育教師(松本亮)は容赦なく殴った。愛、優、春、健司(木下暖日)は集団を抜け出し様子を窺う。校長(ピエール瀧)は生徒たちのピラミッドを見て満悦の表情を浮かべる。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
主体性無く空気を読んで行動し、事件や事故をネタとして写真に撮り、SNSで渦中の人物に天誅を加える気取りで中傷する現代の日本人を諷刺する。地球外生命体の影響や、とりわけ人々が組み体操をして彫像のように動かなくなるという突飛な設定でオブラートに包んであるものの、直截な批評である。
校長は、恐怖が人を支配するときに一番大切な感情だと言い放つ。学園祭のお化け屋敷の企画は、学校が生徒を支配する機関であるという本性を包み隠さなくなったことを示す。とりわけ妖怪・百目は、相互監視社会を表現する。校長は、集団は幸せを与えるものだと、学校の方針に靡かない愛と優を諭す。校長の言う幸せが一体何なのかは不明である。愛と優とが納得しないのも当然である。そんな2人を校長の命令で集団が呑み込んでいく。
殖産興業を図る近代国家によって整えられた義務教育制度は、兵士と労働者との育成を主眼とする。体育や図画は戦争に資するものとして採用された。体育教師は憲兵のように振る舞い、行進や体操など隊列を組ませる練習ばかりさせる。美術教師が忠実な描写だけを指示し個性は要らないと命じるのは、地図製作など斥候養成の受容が根源にある(美術は戦意昂揚のためのプロパガンダに存在したことは言うまでも無い)。
愛は友人に流されることで、幼い頃、ある悲劇を経験する。にも拘らず、高校3年生になった今でも親友の春に「愛ちゃん、こっちだよ」と言われると、従ってしまう。皆がピラミッドに組み込まれていくのを目の当たりにした愛は、そのトラウマのお蔭で反撥することができ、集団に呑み込まれまいと奮闘することになる。
ピラミッドはヒエラルキーを象徴するかのようで、意外とそうでもないようだ。
物理教師(前野朋哉)は、ニュートンの運動方程式「F=ma」を解説し、人類は方程式に基づく二元論的な思考で科学・技術を発達させてきたこと、もし鼎立的思考を行えば価値判断も違っていたのではないかとの説を紹介する。
(以下では、全篇について言及する。)
愛の家族の抱える問題は、愛の妹・心を事故で亡くしたことに起因する。両親は文字通り心を失ってしまい、心がいなくなった今でも、心が恰も存在するかのように振る舞う。心の死を受け容れない白々しさが愛には耐え難いのである。心は発達障害があった。愛の友達は心が一緒であることを拒んだ。愛は友人たちと一緒に遊びたいがために、心に1人で帰るよう言い付ける。結果、1人で帰ろうとした心は車に轢かれてしまった。愛は目の前で心の事故死を目撃している。両親は、愛の精神的負担を軽くしたいとの思いから、心の死を拒絶する面もあったろう。尤も、心のいる家庭という仮定を愛が崩すとき、両親は極端な行動に走ることになる。
ピラミッドの集団は「ヤー」を掛け声とする。それに対し、対抗する球体の集団は「ポー」を掛け声とする。ヤポネシア[Japonesia]を踏まえているのだろう。
物理教師の紹介した二元論から鼎立的思考への展開可能性を踏まえるなら、△(=ピラミッド)に対する○(球)に加えて、□(立方体)が求められる。空所=□を補いなさいというのが監督からのメッセージではないか。