映画『シラート』を鑑賞しての備忘録
2025年、スペイン・フランス合作。
115分。
監督は、オリベル・ラシェ[Óliver Laxe]。
脚本は、オリベル・ラシェ[Óliver Laxe]とサンティアゴ・フィロル[Santiago Fillol]。
撮影は、マウロ・エルセ・ミラ[Mauro Herce Mira]。
美術は、ライア・アテカ[Laia Ateca]。
衣装は、ナディア・アシミ[Nadia Acimi]。
編集は、クリストバル・フェルナンデス[Cristóbal Fernández]。
音楽は、カンディング・レイ[Kangding Ray]。
原題は、"Sirāt"。
地獄と天国とに架かる橋シラートは、髪の毛よりも細く、剣よりも鋭いと言う。
モロッコ。沙漠。炎天下、岩壁の手前で男たちがスピーカーを一列に組んでいる。コードを繋ぎ、スイッチを入れる。沙漠に重低音が鳴り響く。徐々に日が傾く。
日が落ちるに連れて大勢の人々が集い、思い思いに身体を動かす。アクロバティックな動きをする者、酩酊する者、歓喜に飛び跳ねる男、揺蕩うようにビートに身を委ねる者など。
ルイス(Sergi López)は息子のエステバン(Bruno Núñez Arjona)とともに人混みの中で娘のマールを捜す。通りすがる人たちにビラの娘の写真を見せて見かけなかったか英語で尋ねる。日が落ちても捜索を続ける。エステバンはカウチで眠りこけるカップルの1人が姉ではないかと近付くが違った。ビラを置いて立ち去る。2人は3人組の女性にビラを渡し尋ねる。If you see... You think she's here in Morocco? Yes. Your daughter? Yes. Your sister? Yes. I'm sorry. 女性はもし見かけたらとビラを貰ってくれた。ルイスはビラの電話番号に連絡するよう伝えた。ルイスはエステバンをヴァンに乗せる。もう少し当たってみる。ルイスは上着を着ると、1人で娘を捜す。
岩壁にレーザー光線が当てられ、階段のイメージが表示される。会場には色取り取りのライトが明滅する。踊る人々の中でルイスが娘を探す。
エステバンは犬のピパとともにヴァンで横になっている。車内に重低音が漏れ伝わる。
日が昇っても人々は踊り続けてている。ルイスはエステバンとともにマールの捜索を続ける。エステバンを見失う。すぐに見付けるが、捜したんだと注意する。2人は斜面を登り、会場を見下ろす場所にいる4人組に近付く。You know this girl? スペイン語でいいよ。娘と連絡が取れなくなって5ヶ月になる。娘が来ているかもしれないと聞いてやって来たんだ。マールって名前。悪いけど、知らないね。別のヤツがある。これが終わったら、もう1つ。そこにいるかもね。
スピーカーの目の前に立つ金髪の女性。スピーカーの中に十字が見える。
照りつける太陽の下、スピーカーの前で踊る男たち。フロアでも大勢の人たちがダンスを楽しんでいる。会場の外に兵士を乗せたトラックが現われ、武装した兵士たちが会場を取り囲み、PAのテントに入った兵士が音楽を止めさせる。ベレー帽を被った指揮官が拡声器で訴える。避難命令が出ている。非常事態宣言が発令された。EU市民は車に戻れ。兵士たちが人々を会場から押し出すように前進する。頼むよ。踊ってるだけじゃないか! 懇願する者も抗議する者もいるが、兵士たちによって退去を余儀なくされる。
車が長い列を作っている。ジェイド(Jade Oukid)がトラックを降りて道の脇に向かう。見張りの若い兵士が何処へ行くと咎める。トイレだよ。下着を下ろしてしゃがむ。見ないでくれる。放尿したからって撃たないよね。ヴァンにいたエステバンが高台で別のイヴェントがあると言っていた女性だと気付く。ジェイドが駆け戻ると、2台のトラックが急発進した。エステバンは父親に跡を追ってと迫る。他の車も何台か追随する。ルイスは迷うが息子に強く促されて列を離れて跡を追う。
モロッコの沙漠で行われるレイヴにルイス(Sergi López)は息子のエステバン(Bruno Núñez Arjona)ととも姿を現わす。5ヶ月前に姿を消した娘のマールが参加するとの情報を摑んだためだ。2人はマールを捜しながら来場者にビラを配り協力を求める。軍の部隊が会場に突如現われ、非常事態宣言が発令されたから即刻退去するようにと命じる。人々は車に乗り込み、軍の誘導に従い一列になって進む。突然、2台のトラックが車列を離れる。エステバンは、別のレイヴの開催を教えてくれた女性ジェイド(Jade Oukid)のグループだと気付くと、父親にトラックを追うように訴える。ルイスは迷ったが、息子の言葉に従う。ルイスのヴァンに気付いたステフ(Stefania Gadda)やジョシュ(Joshua Liam Herderson)はトラックを降りて、何の装備もないヴァンで沙漠を走行するのは無謀だから引き返すようルイスに忠告する。だがルイスは説得に応じず、ジェイド、トニン(Tonin Janvier)、ビギ(Richard 'Bigui' Bellamy)、ステフ、ジョシュのトラックを追跡する。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
スピーカーの中の十字が映し出される点に着目し、ルイスをキリストに擬え、彼の死と復活として本作を解釈してみたい。
ルイスは失踪した娘マールを連れ戻そうとする。言わば迷える仔羊を救う羊飼い(≒キリスト)である。ルイスが求めるのは秩序の回復である。
ルイスはジェイドがスピーカーを修理しているところに出会す。ルイスはレイヴで流される重低音の鳴り響く音を聞いても何も聞えないと言う。ジェイドはそれは当然で、聞くためではなく踊るためだからだと返答する。
音楽は秩序を象徴する。ルイスが求めるのは秩序であり、音楽である。それに対し、ジェイドが沙漠でレイヴに身を委ねるのは、丁度軍隊の指示に従わず車列を離れたように、秩序から外れる自由の愉悦に浸るためだ。
エステバンがジェイドを追うことを訴え、ルイスが応じた時点で、秩序から離れていたのだ。そのルイスはエリ、エリ、レマ、サバクタニと嘆かざるを得ない悲劇に見舞われる。ルイスは言わば一度は死んだのである。そして、ルイスが沙漠で倒れるとき、既にルイスは死者同然だったのだがから、死者の状態に終止符を打ち、蘇ったのだとも言える。
ルイスの復活は、秩序の回復と同義である。ならば沙漠に走る鐵路=鐵道は、秩序のメタファーであるとして間違いない。