映画『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』を鑑賞しての備忘録
2024年、ニュージーランド製作。
104分。
監督は、ジェームズ・アッシュクロフト[James Ashcroft]。
原作は、オーウェン・マーシャル[Owen Marshall]の小説"The Rule of Jenny Pen"。
脚本は、エリ・ケント[Eli Kent]とジェームズ・アッシュクロフト[James Ashcroft]。
撮影は、マット・ヘンリー[Matt Henley]。
美術は、ザーラ・アーチャー[Zahra Archer]。
衣装は、ガブリエル・スティーブンソン[Gabrielle Stevenson]。
編集は、グレッチェン・ピーターソン[Gretchen Peterson]。
音楽は、ジョン・ギブソン[John Gibson]。
原題は、"The Rule of Jenny Pen"。
法廷。裁判官席のステファン・モーテンセン(Geoffrey Rush)がちり紙を丸めて机を這う虫を潰す。裁判長! 事態は明白と思料する。弁護人が被告人(Orlando Stewart)に反省の色が見えると主張するとは笑止千万。大変申し訳ありませんでした、もう二度と犯行に及びませんと訴えながら、それでも再犯に及ぶ。良心に従い行動する機会はいくらでもありながら活かされることはなかった。被告人は起立しなさい。8件の未成年者に対する性的暴行により16年の自由刑に処す。仮釈放の無い最低刑期は9年。ステファンが被告人を説諭する最中、被疑者の母親(Nikki MacDonnell)が裁判長に感謝の言葉を洩らす。ライオンがいない場所だからこそハイエナが君臨できるのでは? 感謝など不要だ。5人の子供たちを危険に晒した。あなたは状況を理解していながら行動を起こさなかった。あなたは被害者ではない…。ステファンの頭は朦朧として、同じ言葉を繰り返す。落ち着こうと水を呑むが口から溢れてしまう。ステファンが卒倒する。廷内がどよめき、すぐさま廷吏がステファンの救出に向かう。
特別養護老人ホーム・ロイヤルパインミューズ。車椅子に乗ったステファンが入所する。血圧を測定し、視力、聴力などの検査が行われる。
相部屋のトニー・ガーフィールド(George Henare)はタブレットで孫とヴィデオ通話を行っている。孫から文字盤が鳥になった時計をプレゼントされて嬉しそうだ。音声を耳障りに感じたステファンはカーテンを閉め切る。
車椅子で通路に出たステファン。歩行器を使って歩くナイジェルは職員に親しげに言葉を掛けられる。カードキーで扉が開かないため、集会室に廻る。外で喫煙する車椅子のハウィー・ウィカー(Ian Mune)がいた。ハウィーは噎せながら煙草をステファンに薦める。ステファンは遠慮無く一服させてもらう。窓辺に猫が姿を現わしていた。この猫は死期の迫る人間に近寄るから気を付けろとハウィーは言う。ハウィーからスキットルを差し出されるが、ステファンは断る。地元の人間じゃ無いだろ。都会で判事をしている。何故先生がこんな辺鄙な所に? 私の懐事情では受け入れ先がなくてね。ギャンブルですっちまったか? まさか。投資の際は、今度こそ間違いないに引っ掛かってはらなない。長い付き合いになるだろうよ。いや、一時だけだ。ステファンが車椅子で芝生の広場に出る。ハウィーは噎せた際に口にしたブランデーを服に溢し、煙草の火が一瞬にして燃え広がる。猫が火に巻かれて踊るハウィーを見ている。ステファンが気付くが大声で助けを求めることしかできない。
夜。ステファンは起き上がり、尿瓶を取り出し、放尿する。そのときドアの隙間からデイヴ・クリーリー(John Lithgow)が覗いていた。
判事のステファン・モーテンセン(Geoffrey Rush)は刑事事件の審理中に脳卒中で倒れ、郊外にある特別養護老人ホーム・ロイヤルパインミューズに入所した。猫が来たら死の知らせだと忠告してくれたハウィー・ウィカー(Ian Mune)は溢した酒に煙草の火を引火させて火達磨になって死んだ。確かに傍には猫がいた。10月初旬にも拘らずクリスマス休暇中だけ入所していると言い張るユーニス・ジョイス(Hilary Norris)からは、与えられた人形で喜んでいる連中は気が触れていると警告される。左手に人形を嵌めて放さないデイヴ・クリーリー(John Lithgow)は傍若無人に振る舞っていた。ステファンはラグビー選手として名を馳せたトニー・ガーフィールド(George Henare)と同室だった。相部屋について事前について事前の説明が無かったと個室に移すよう管理者のマデリン・シェパード(Holly Shanahan)に訴えるが、病室に個室が無いが恢復後の個室待機リストには登録しておくと斥けられる。認知症の進んだ入居者と同じ扱いに絶えられないステファンだが理学療法士(Catie Noble)とのコップを摑む訓練では失敗を繰り返し、自尊心を大いに傷つけられる。入浴中、介護士のメイ(Ariadne Baltazar)が目を離した隙にステファンは湯の中に沈んだ。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
ステファンは判事として長らく司法権力を握ってきた。その見識に自負がある。ところが脳卒中で倒れ入所した特別養護老人ホームでは長らく入居しているデイヴ・クリーリーが隠然と権力を握っていた。ラグビーの花形選手だったトニーでさえデイヴにひれ伏していた。ステファンはデイヴに屈従するなど真っ平ご免と反抗するが、デイヴに尿瓶の尿を撒かれたステファンは失禁したものと思われ、デイヴがユーニスから盗んだ物がステファンのベッドの下に隠されいて、ステファンが盗みを働いたと疑われる。判事は冤罪を被らされた被告人の役回りとなる。逆転がある。
ステファンやトニーのようなエリートに対するデイヴの激しい劣等感が、デイヴをして立場の逆転の愉悦に浸らせる。デイヴの差別的ななぞなぞ(月に先住民を1人、2人行かせるのは「問題」だが、全員送り込めば「問題解決」)も逆転が主題になっている
デイヴは認知症治療に用いられるハンドパペットにジェニー・ペンと名付け、常に左手に嵌めている。デイヴではなくジェニー・ペンとして誰が支配者であるか入居者に尋ねる。ジェニー・ペンが支配者だと答えない場合には暴力を振るい、嫌がらせをすることで、ジェニー・ペンを推戴しなくてはならない状況に追い込む。デイヴはジェニー・ペンを介することで自らの責任感を回避し、残酷な仕打ちに対するハードルを下げるのだ。
デイヴがお気に入りのレコード"Knees up, Mother Brown"をかけて軽快に踊るシーン(こんなに楽しい嫌な踊りがあるだろうか!)。デイヴは左手にジェニー・ペンの人形を嵌めているが、もはや嬉々として踊るのはデイヴ自身だ。そこに急所がある。生身のデイヴは喘息持ちであり、発作に襲われるのである。受付嬢にちょっかいを出す職員のアーティチョークのジョークが効いてくる。
アーネスト・ヘミングウェイ[Ernest Hemingway]の『武器よさらば[A Farewell to Arms]』の一節をステファンが諳んじる。
John Lithgow(やってやったぞという笑顔が最高)とGeoffrey Rushとの対決に痺れる。
Paul Lewisによるジェニー・ペンのパペットも素晴らしい。