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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山﨑結以個展『孤影と群像』

展覧会『山﨑結以「孤影と群像」』を鑑賞しての備忘録
ARTDYNEにて、2026年6月18日~7月5日。

レトロフューチャーのSF映画のように時代も場所もどこか曖昧な舞台に群像を青を基調に描き出す、山﨑結以の個展。因みに、顔の表現には一部朱線が用いられている。

《整定》(1303mm×1940mm)は、周囲を暗い藍色で塗り込めることで、生地との対照により、淡い青で描き出した室礼に従事する人々をぼんやりと明るく浮かび上がらせた作品。木の箱を組んだ棚に花を活けた壺を置こうとする男性、膝を突き花を活ける男性、布を用意する女性、木箱を運ぶ男性、両手で花を持つ女性、床を拭き掃除する男性が登場する。花瓶の男性は修道士風の衣装で、花を活ける男性や花を抱える女性の衣装は中世ヨーロッパ風、布を選定する女性はパフショルダーのワンピースドレス姿、箱を抱える男性はウィンドブレーカーの上下のようなものを着用している。衣装こそ全体的にヨーロッパ風だが、格子の袖垣、風炉先屏風、芭蕉の葉など和風のモティーフが和される。舞台となる場所が判然とせず、なおかつ古いようで古くなく、新しいかと言えば新しくはない。6人中4人が後ろ向きや横向きであったり、花に隠れたりする上、淡い青の細線と地に対する相対的な明るさにより、人物の表情は暈かされている点も、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。その中で、男性が抱える箱は木目が表わされて明確に表わされているのが目を惹く、左手に組まれている木箱に加えられ、祭壇にするのであろう(女性は木箱の上から布を被せるのかもしれない)。
箱は重要なモティーフである。《自食を解く》(273mm×220mm)は高さが40~50cmほどの箱中から白い蛇(腸管?)を取り出す(あるいはしまう)女性を表わす。修道士風の衣装の女性、木目のある箱以外にモティーフはなく、彼女は密室で粛々と作業を進める。彼女が「自食を解」かせるのがウロボロスであるなら、不死や永遠、完全といった状態からの離脱することになる。蛇は宇宙の創成に関わる神話にしばしば登場することを踏まえれば、人間が死や老いを避けられない存在で有ることの起源を示す物語として提示されているのかもしれない。
《箱を持ち寄って話す》(500mm×606mm)には、天井灯が点る集会所に集う人々が現わされる。奥では鉢植えが飾られた円卓の周囲に3人の人物が椅子に腰を降ろす。そのうちの1人の膝の上には高さ十数cmの木箱が載っている。本作の主人公たる女性は、画面手前でやはり木箱を膝に載せ、植物を前に坐る。その左側にも木箱を手にした男性(画面右端で切れて顔はほぼ見えない)が坐るが、女性と場を共有しているようには見えない。彼女の背後には背中合わせで坐る女性の姿も覗く。画題に反して、話し合っている様子ではない。木箱は変数[variable]を象徴し、数値化された人間の姿を表わそうとしているのかもしれない。数値に見合う者同士でなければコミュニケーションは成立し得ない。
《箱を持ち寄って話す》に近いイメージが、《共有された空間、三つの箱》(410mm×318mm)である。木箱を手に椅子に坐る、恰幅の良い中年男女3人が表わされる。3人とも宗教者が着用しそうな衣装であり、新興宗教の施設を舞台にしているようにも見える。3人ともやや沈鬱な表情を浮かべており、衣装に拘らなければ、普段疎遠だった兄弟が遺産について話し合っているかのような場面。遺産分割協議であれば、箱の数値は被相続人(被相続財産)に対する寄与となろう。
《累積する歩幅》(318mm×410mm)は、倉庫の中と思しい場所で、箱を抱える父親らしき人物の後をやはり箱を抱えて付いていく少年の姿を表わした作品。背後には木箱や板が並ぶ。努力は必ずしも報われる訳では無い。だから努力は難しい。それでも努力を積み重ねることが唯一の道であると、「父親」は「息子」に背中で語る。箱の中身は努力の量となる。
《定点》(273mm×220mm)は、箱を前に物思いに耽る青年を描く。大きな木箱を前に坐り、左膝に肘を着けて頰杖を突く。《累積する歩幅》を踏まえれば、自らの来し方を振り返っているのだろう。もはや子供では無い。
《相柳》(180mm×140mm)は、『山海経』に記載のある、9つの頭を持つ蛇「相柳」を描いた作品。会場を箱に見立て、蛇が飛び出すびっくり箱と洒落たらしい。