展覧会『石橋志郎「Vision」』を鑑賞しての備忘録
藍画廊にて、2026年7月13日~18日。
灰色を地に白で抽象的なイメージを表わした膠彩画で構成される、石橋志郎の個展。
入口を入ると、正面に窓があり、左側の壁面には《Around》(425mm×200mm)、《Alter》(900mm×288mm)、《Internal》(214mm×440mm)の3点が、右側の壁面には《Area》(700mm×800mm)が、それぞれ掛けられている。墨を混ぜた白い顔料で灰白色の地として、そこに白い顔料で描画されている。いずれの作品も白いイメージが浸潤するように拡がる模糊としたイメージである。大掴みにすれば左右対称に近しく、デカルコマニーを髣髴とさせるかもしれない。《Around》と《Area》では、中央に垂らした絵具が拡がっていくに任せたように、筆触を感じさせないイメージの拡がりである。地と図との境界に極細の黒い線が引かれており辛うじて描画されている作品と知れる。《Alter》は三角屋根のある建物を、《Internal》は羊ないし山羊の頭部を連想させもするが、モティーフを見出したい鑑賞者の欲求の投映に過ぎない。
右側壁面のスリットからもう1つの展示室に入ると、《Reverb》(1160mm×783mm)と《Tone》(910mm×1250mm)とが向かい合う。《Reverb》の灰白色の地には上端から左端に向かって7本の弧が並ぶ。いずれの弧も幅があり震えている。並んで飛行する7機の飛行機から生まれた飛行機雲が空に融けていくようである。《Tone》は灰白色の画面の下半分に白い絵具が拡がる。《Reverb》が飛行機雲なら、《Tone》は雲海である。白い顔料の茫漠としたイメージは画面を超え、白い壁面へと拡がっていく。その効果を高めるのが展示室の窓に貼られたシートである。半透明の窓は外光の強さの変化により作品のイメージに漸近する。作品を鑑賞する者は、作品と、作品と一体化した壁・窓とにより包まれる。等伯《松林図屏風》の霧に捲かれたかの如くである。鑑賞者は松樹となり立ち尽くす。視覚[vision]から聴覚[audition]へ。その場のvibesが体感される。作品が表わすのは生きていることそのものであった。個々の画題(around, alter, internal, area, reverb, tone)はいずれもその縁語である。