展覧会『五木田智央「Lush Life」』を鑑賞しての備忘録
タカ・イシイギャラリー〔京橋〕にて、2026年6月27日~7月25日。
ハリウッド映画のワンシーンのような具象的な絵画と、鑑賞者が画面に何かしらモティーフを見出してしまうデカルコマニーのような半ば抽象化された絵画とで構成される、五木田智央の絵画展。タカ・イシイギャラリー〔六本木〕でも同題・同会期の展覧会が開催されている。
《Exhibitionist》(1818mm×2275mm)には、椅子に腰掛ける女性が描かれる。背凭れに背中を預け、両脚を大きく開いて坐る。下腹部に置かれる左手はミトンを嵌めているかのように大きい。瞳の無い眼は鑑賞者に向けられる。両耳にはイヤリングが光る。彼女がいるのは屋内ではない。暗い灰色の曠野だ。なだらかな稜線の丘が迫る。暗い焦茶色の「壁」は、彼女の髪と同じ色をしている。暗いモスグリーンの空に覆われる。女性の上半身、彼女の右側辺りがぼんやりと明るい。何が光源なのかは定かでは無い。彼女が左手を動かせば、洞が露わになるだろう。天岩戸なら、むしろ光が齎されることになるだろうが。
《Night Cruise》(1819mm×2275mm)は、ボートの舳先にいる男女を描いた作品。画面下端にボートが位置する。艫が画面から断ち切れているのは、浮世絵の影響が指摘されるクロード・モネ[Claude Monet]の《舟遊び[Sur le bateau]》などを連想させる。男女は夫婦か、それともそれ以外の関係か。半裸の男性がやや驚いた様子で鑑賞者の方を見詰める。横に坐るビキニの女性は男性の右腕を摑み、目を見開き僅かに口を拡げる男性とほぼ同じ表情を浮かべている。2人の背後に拡がる焦茶色の闇はどこまでも拡がるようで、あらゆる音を吞み込んでしまう。それでも、水面を滑るボートは白い波をあげている。2人は波瀾へと突き進んでいる。
《Port Night》(1818mm×2274mm)には、闇の曠野に狒狒のような顔を持つロバ(?)が佇む姿が表わされている。窓から明かりが漏れる建物を望む。波止場があるのだろう。港へと続く道は直線で曠野を突っ切っている。白い路側帯が闇に浮かび上がる。鑑賞者を振り返る「ロバ」の両もまた光っている。
《Jungle Honeymoon》(1303mm×1622mm)は、鬱蒼とした森の中に佇むトップレスの女性を描く作品。種々の木々に覆われた中、下草に膝の辺りまで埋まるように女性が立つ。花柄のスカート以外には何も身に着けていない。手を前で組み、正面を見据えている。葉叢の中には何かが潜んでいる気配が濃厚であるが、何がいるのかは定かでは無い。アンリ・ルソー[Henri Rousseau]の手掛けた《夢[Le Rêve]》を始めとするジャングルを舞台にした絵画と、マックス・エルンスト[Max Ernst]などのシュルレアリスムの絵画とが混合したような世界が立ち上がる。《Jungle Honeymoon》のジャングルを、恰もデカルコマニーのように、より混沌とした状態で描き出した作品群が小展示室に並ぶ。ネズミと鱏が対決するような《Foe》(655mm×530mm)、ペニスとヴァギナが結び合わされたような像が佇む《Chief》(653mm×531mm)など、黄泉巡りをするような、心の奥底に降りていくような感覚を味わえる。"Clinical Interview"を冠する作品(654mm×530mm)があることからも、深層心裡に迫る意図が窺えよう。
《Endless Love》(532mm×455mm)は見詰め合う裸の男女を描いた作品。背後の男性に凭れ掛かる女性は男性の眼を見上げる。男性は右腕で女性の右腕を支え左手を彼女の首筋に添え、俯いた女性の眼を覗き込む。女性の左手(左腕)が男性の左肩・左腕に半ば癒着することで男女の結び付きの強さを表現する。2人の頭部、腕がそれぞれ∞を描きもする。
《Sleepwalking》(1168mm×1167mm)には、夜道を歩く女性が描かれる。周囲に草木が生える、闇に続く道があり、最前面に、細い肩紐の黒のノースリーブを身に着けた女性が立つ。右奥では建物が白熱した焔を上げる。その光と、彼女の黒いドレスから覗くオレンジの下着とが呼応し、火と彼女とが結び合わされる。
《Confession》(1620mm×1300mm)は、部屋の中で坐る女性と立つ女性とを描いた作品。オレンジ色のワンピースの女性は後ろ向きに立ち、顔を横に向ける。半ば抽象化された女性は、寄木細工のピースのようにが湖面に嵌め込まれる。カウチに正坐する女性はチューブトップの衣装で、土気色の膚をしている。正面を向く顔の眼は落ち窪んでいる。坐る女性のものとは思えない、真横に向けた"「"の形の左脚と、その形に沿うように肥大化した右足(?)と、丸いクッションが坐る女性の太腿の周囲に並び、奇異な印象を生む。立つ女性が坐る女性の告白を耳にしているのであろうか。2人は暗い赤紫の床の部屋の隅に固まっている。