《Squaring》は公園で6人の男女に1枚の白い布を持ってもらい、宙空で正方形の形に張る作業を映し出した作品である。固定されたカメラの側に作家がいて、白い四角形が想定する位置に現われるよう指示を出す。引っ張っることで布には皺が寄り、正方形は歪む。
まずは白い正方形という絵画を制作する作品と捉えてみる。何も描かずとも絵画たり得るか。支持体に現われた陰影はイメージと言えよう。ミニマリズムの極致である。また、ルーチョ・フォンタナ[Lucio Fontana]の《空間概念[Concetto spaziale]》は画布を裂開して背後の空間へと鑑賞者の認識を導いたが、作家は支持体に手を加えることなく平面作品を彫刻(立体作品)へと変じさせている。さらに、完璧な正方形をイデアに見立て、人間の感覚認識がイデアに及ばないこと、延いては絵画がイデアに向けられた営為であることを表現するものとも解し得る。
白い布は未だ何も描かれていない可能性であり、何をも映し出す鏡に擬えられる。6人が白い布を引っ張り合っていると見て、領土の奪い合い、国旗の扱いを巡る議論を見出すことも可能だろう。白い布は、その拡げられる場所である広場[square]と入れ籠の関係に立っているとして、合わせ鏡の効果を読み込むこともできるかもしれない。
草地でコーヒーカップを傾け、コーヒーを両手で受けさせる様子を捉えた《ラストダンス》。コーヒーは掌から溢れ落ちてしまう。コーヒーカップの中のコーヒーが形を変じ、あるいは冷めていくといった縁語的事象を重ね合せれば、熱力学第二法則のメタファーと考えられる。"last dance"と題したのは、液体を掌で掬う「掬ぶ」を締め括りを付ける「結ぶ」として掛け合わせたからではないか。まだ飲めるコーヒーが捨てられてしまうのは、動的平衡を暗示する。エントロピーの増大に抗する生命の有り様を表現するのが《ラストダンス》である。
《ラストダンス》と同じ空間に展示されているのは、モルタルで出来た灰色のシャワーノズル《Cleaners-013》(245mm×180mm×150mm)、タオル《Cleaners-012》(375mm×420mm×70mm)・《Cleaners-011》(390mm×340mm×35mm)、ペイントローラー《Cleaners-03-01&02》(各340mm×170mm×47mm)、スリッパ《Cleaners-014》(110mm×29mm×45mm)である。
これらか繰返される日常の象徴であるのは言うまでも無い。それぞれに刻まれた、男女、コスパ、クリシェなどの言葉は生命の縁語である。そして、洗浄や塗り替えなど新陳代謝ないし動的平衡を暗示する働きを担っている。