可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『怪速急行■■行き』

映画『怪速急行■■行き』を鑑賞しての備忘録
2025年、韓国製作。
95分。
監督は、タク・セウン[탁세웅]。
脚本は、チョ・バルン[조바른]。
撮影は、クォン・ヨンイル[권영일]。
美術は、イ・ナヨン[이나연]。
編集は、キム・ウイル[김우일]。
音楽は、チョ・ソンジン[조성진]。
原題は、"괴기열차"。

 

地下鉄グァンリン駅近くのトンネル。駅長(전배수)が人影を見たと言うのでジェゴル(윤정로)が確認に向かった。見付かったか? 無線で駅長から確認される。まだです。もっと奥まで行ってくれ。確かにいる。ジェゴルがトンネルを進む。懐中電灯の接触が悪くなる。無線の音声も擦れた。そのとき足音が聞える。誰か? ジェゴルが振り返ったところ、列車が高速度で侵入して来る。
地下鉄グァンリン駅のホーム。キム・ダギョン(주현영)が自撮り棒に付けたスマートフォンで撮影している。鈍い音がする。近くの自動販売機にサラリーマンが頭を打ち付けていた。ダギョンはホームの清掃をする駅長に声をかける。連絡した、キム・ダギョンです。
駅事務室。壁面にはモニターが並んでいる。テーブルを前に坐るダギョンに駅長が紙カップでお茶を出してくれた。ありがとうございます。一口飲むと、火傷しそうだった。熱いですね。ユーチューバーだとか? 正確には、動画クリエイターです。名刺を差し出す。ホラークイーン? ダギョンが起ち上がり叫ぶ。警告します! 心臓が悪い人は今すぐ離れて下さい! ホラークイーン、ダギョン。ダギョンがポーズを決める。駅長の反応はない。…ご存じないですよね。お訪ねになった理由は? この駅で怪奇現象が起きているという噂を耳にしたんです。本当ですか? 出て行って下さい。金のために他人の痛みを利用するような人間に話すことはない。お金の問題でしたら…。金の問題などではない。ダギョンは贈り物を用意したと言ってバッグから酒瓶を取り出す。絹酒! 朝鮮王朝時代にチョルラドとファンヘドで製造されていた。何故こんな高級酒を? 祖父が醸造業を営んでおりまして。話してくれますか? 駅長は渋る。残念ですね。バッグに酒瓶をしまおうとすると、駅長が慌てて1つだけならと妥協する。ダギョンがスマートフォンをテーブルに置いて録音を始める。ある青年から始まる話だ。
地下鉄が急停車して、立っていたハンヤン(김우겸)が派手に倒れる。近くの乗客に助け起こされるが酔っ払うハンヤンは礼の1つも言わない。座席に坐ると周りの客が彼を避け席を移った。緊急停車は反対方向の線路でトラブルがあったためで、間もなく安全確認が取れて電車が動き出したハンヤンは鈍い音を聞く。扉の前に立っている女性が窓硝子に頭を打ち付けていた。
コンヴィニエンスストア。ハンヤンがカウンターにドリンクを持っていき、女性店員(김지인)に煙草のレゾン・フレンチブラックを頼む。彼女はスマホをいじりながら、ホームレスの男性(진성찬)に買わないなら商品に触らないよう注意する。ホームレスは店を出て行く。店員は違う煙草を出した。これはヨゴ、頼んだのはブラック。彼女が見付けられないので、ハンヤンが指し示す。どこの大学? 同じレゾンなんだから同じ列を探しゃいいだろ。9500ウォンです。支払いに出したカードを返された。誤って予備校の生徒証を差し出していた。ソウル大学のロゴの入ったパーカーを着ているハンヤンは笑って誤魔化す。店を出るとすぐに飲み物を呷る。
地下鉄で眠っていたハンヤンが目を覚ます。間もなくヨンダム、ヨンダムです。出口は右側です。乗客は少なくなっていたが、頭を打ち付ける女はまだ扉の前に立っていた。ヨンダムでほとんどの乗客が降りたが、女性はまだ立っていた。次第に強く頭を硝子窓に叩き付ける。気味悪がった老人が隣の車両に移った。ハンヤンも老人に倣うことにした。スマートフォンでゲームをしていると、母親から電話が入った。夕飯は食べた?また飲んだの? 講義のヴィデオを見てる。2ヶ月、予備校行ってないでしょ。通話が途切れる。ハンヤンは流れてきた動画を見る。グァンリン駅のホームドアに頭を打ち付ける女性の姿が映っていた。今、隣の車両にいる女性と同じだった。気付くと、車両を移った老人も頭を壁に叩き付け始めた。女もいつの間にか貫通扉にやって来ていて頭を叩き付け始めた。車内の照明が落ちた。

 

マルチチャンネルネットワークYOUNIVと業務提携する動画クリエイターのキム・ダギョン(주현영)は「ホラークイーン」名義で心霊スポットを紹介してきた。最近は再生数が伸びず、密かに憧れるプロデューサーのウジン(최보민)も、美容情報で人気を博すチェ・リナ(정한빛)の対応に忙しそうだ。ダギョンは梃入れのため、自殺者が多く出ている地下鉄駅グァンリム駅を訪れ、駅長(전배수)を高級酒で懐柔してインタヴューを行う。予備校生ハンヤン(김우겸)の事件を扱った動画は評判となり、再生数は改善する。眼鏡を外してイメージチェンジを図ったダギョンは再びグァンリン駅を訪問し、駅長から女子高校生イ・ミジュ(김나연)の事件を聴き取る。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

心霊スポットを紹介する「ホラークイーン」を名乗るキム・ダギョンは、10万再生を誇ったが人気に翳りが出ていた。近時16人もの自殺者が出ているグァンリン駅を訪れ、駅長から事故について聞き出し、投稿すると、再生数は回復し始めた。
地下鉄は1日730万人が利用する公共交通機関であり、1人当たりの平均利用時間は35.1分である。そんな地下鉄をグァンリン駅の駅長は人生だと言った。本作で、地下鉄は心の裡、心の闇を象徴する。そして、自らを襲うのは、自らの欲望であり、それに囚われるとき、惨劇が生じる。
ダギョンは美容系動画チャンネル「リナワールド」のリナに激しいライヴァル心を燃やしているが、ホラー動画のダギョンと視聴者を奪い合う関係にはない。駅長は、理由無く憎む相手には自らの姿を見るからだとダギョンに指摘する。実際、プロデューサーのウジンに気に入られたいと必死なところが、ダギョンとリナとで共通しているのである。
学歴、容姿、収入など自分に欠けているものを手に入れたいという欲求。ネット上に溢れる普通の人たちの成功物語は彼我の格差を痛感させ、飢餓感を増大させる。その欲求が満たされれば幸福になれるのに、満たされないから不幸なのだと考える。その思考が悲劇をもたらすのである。