映画『隣人たち』を鑑賞しての備忘録
2024年、アメリカ・ベルギー・フランス・イギリス合作。
94分。
監督・撮影は、ブノワ・ドゥローム[Benoît Delhomme]。
原作は、バーバラ・アベル[Barbara Abel]の小説"Derrière la haine"をに基づく、オリヴィエ・マッセ=ドゥパス[Olivier Masset-Depasse]監督の映画"Duelles"(2018)。
脚本は、サラ・コンラット[Sarah Conradt]。
美術は、ラッセル・バーンズ[Russell Barnes]。
衣装は、ミッチェル・トラバーズ[Mitchell Travers]。
編集は、ジュリエット・ウェルフラン[Juliette Welfling]。
音楽は、アン・ニキティン[Anne Nikitin]。
原題は、"Mothers' Instinct"。
草叢に救急車のミニカーが落ちている。
アリス(Jessica Chastain)が裏庭に面した2階の窓からカーテン越しに隣家のセリーヌ(Anne Hathaway)の姿を観察している。セリーヌは花束を抱えて歩いている。ミニカーを拾う。アリスは階下へ降り、セリーヌが車で出て行くのを確認する。アリスは隣家に向かい、合鍵でから入ると、遮光カーテンを閉ざす。抽斗から庖丁を取り出す。
セリーヌが小学校の駐車場に車を駐める。妊娠中の母親に挨拶してお腹の子は元気かと尋ねる。お楽しみ会の企画について明日話せるかと尋ねられ、明後日ならと答えて息子のマックス(Baylen D. Bielitz)とアリスの息子テオ(Eamon Patrick O'Connell)の迎えに行く。落ちていたわとミニカーをテオに渡す。
後部座席にマックスとテオとを乗せて、セリーヌが車で帰る。みんなで童謡「女の子を見かけなかった?」を歌う。「やった」じゃなくて「行った」でしょとセリーヌが子供たちの歌詞を正す。
3人が到着し、セリーヌの家に入っていく。すぐに子供たちは階上へ駆け上がる。ちゃんと手を洗ってよ! セリーヌはカーテンが閉まっていて風に揺れているのを不審に思う。カーテンを開ける。誕生日おめでとう! 親しい連中が揃っていた。セリーヌが興奮してアリスに抱きつく。大袈裟なのは嫌いよ。そんなことないでしょ。続いて、ピッツバーグに出張していた夫のデイミアン(Josh Charles)の姿もあった。ぎりぎり間に合ったよ。セリーヌがキスする。に抱きつく。マックスが薬が売れたか尋ねる。お前さんの玩具を買えるくらいにはね。ママ、驚いた? すっごく。親子3人がキスを交わし合う。ジーン(Caroline Lagerfelt)にも挨拶する。お会いできて嬉しいわ! ケーキを焼く係が必要だからね。私はケーキは焼けないけど、お酒なら注げるわ。アリスがシャンパンを開け、溢れるほどグラスに注ぎ、セリーヌに差し出す。みんな、ありがとう! これはみんなから。アリスがセリーヌにプレゼントを渡す。真珠のネックレスだった。やり過ぎよ。着けてみて。アリスがセリーヌにネックレスを着けてやる。アリスがジーンがシャンパンで薬を飲むのを咎める。シャンパンが心臓を活性化させるのよ。息子には言わないでおくれ。
アリスが名を呼びながらテオを探す。どうしたの? セリーヌが尋ねる。マックスのクッキーを持ち出したわ。テオは食べられないって分かってるでしょ。7歳よ。食べようとするかもしれないわ。ケーキをあげないわよ! こっちにいるよ! 生垣の反対側から声がした。何なの? 秘密のトンネル。マックスとテオが生垣を潜って出て来る。クッキーは? 向こう。食べた? 食べてない。呼んだら返事しなさい。アリスはテオにきつく言い付ける。ごめんなさい、心配だったのよ。アリスはテオを解放する。食べてた? いいえ。でも万が一があるから。テオは分かってるわ。酷い母親ね。素晴らしい母親だわ、それに素晴らしい友達。
子供たちは既に階上のベッドで眠っている。階下では、アリスは夫のサイモン(Anders Danielsen Lie)と、セリーヌはデイミアンと、酒を飲み、煙草を吸いながらレコードに合わせて踊る。
1960年代アメリカ。郊外の住宅地。アリス(Jessica Chastain)は元新聞記者で、経理部長を勤める夫サイモン(Anders Danielsen Lie)との間に7歳の息子テオ(Eamon Patrick O'Connell)がいる。アリスは幼い頃に両親を事故で亡くしたトラウマを持ち、ナッツアレルギーのテオに神経を尖らせる。サイモンはもう1人子供を欲しがるが、アリスは記者としての職場復帰をこそ臨んでいる。アリスの隣家のセリーヌ(Anne Hathaway)は元看護師で、製薬会社の営業マン夫デイミアン(Josh Charles)との間に7歳の息子マックス(Baylen D. Bielitz)がいる。セリーヌは産科危機により2人目を持つことが叶わない。アリスとセリーヌとは同じ7歳の息子を持つ母親同士、家族ぐるみで親しくしている。ある日の午後、セリーヌがテオとマックスを小学校から連れ帰ると、セリーヌの誕生日を祝うサプライズパーティーがアリスにより催された。デイミアン、デイミアンの母ジーン(Caroline Lagerfelt)、サイモン(Anders Danielsen Lie)を始め親しい顔ぶれが集まった。翌日、体調崩して登校しなかったマックスは鳥籠を木の枝に掛けようとバルコニーの手摺に上がっていた。偶々隣家のアリスが気付き、マックスに部屋に戻るよう言うが聞きいれてもらえない。セリーヌの名を連呼しながら隣家に走り、慌てて2階に駆け上るが間に合わず落下してしまう。セリーヌは動顚して息絶えたマックスを抱き抱える。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
アリスがセリーヌが出て行くのを確認して合鍵を使って隣家に忍び込む場面で始まる。アリスの行動はサプライズの誕生日パーティーの準備のためのものであることが判明するが、ケーキをカットするためのナイフなどを映し出すことで、犯罪的な行為が行われる疑念を鑑賞者に生む仕掛けである。不信に目が曇ってしまうと、どんなことも疑わしく見えてしまうという、後のアリスとセリーヌの眼差しを鑑賞者は先取り的に体験させられるのだ。
アリスは幼い頃に両親と車に乗っていて事故に遭う。アリスは後部座席に坐っていただけだが、両親の死に対する責任を強く感じている。肉親の死を回避しなければならないという衝動が、ナッツアレルギーのテオに対する不安を増大させる。また、記者として職場に復帰したいという考えを、2人目を欲しがるサイモンは受け容れない。記事が書きたいなら学校新聞にでも寄稿すればいいというサイモンの口調には、何不自由ない暮らしをさせてやっているのだという傲慢さが潜んでいる。良心を早くに失い、結婚後に精神病院に入院していたアリスには、隣家のセリーヌ以外にめぼしい交際相手がおらず、閉鎖的な環境に監禁されているのに等しい。職場復帰の願いは、アリスが息苦しさからの解放を求めていることの表われだが、サイモンが気付くことはない。
セリーヌはマックスを出産した際に2人目の子供を持つことができない体になってしまう。事故によるマックスの喪失は自らの不注意によるものだとの自責の念に加え、もう二度と自らの子供を抱き締めることができないという悲しみがセリーヌを苛む。セリーヌにとって愛情を注ぐ相手は自然、家族ぐるみの付き合いのテオに向けられていくことになる。
ほとんどの出来事が家(の敷地)の中で起こる。アリスやセリーヌらの顔に寄ったカメラワークと相俟って、鑑賞者にも息詰まる感じを味わわせる。「家」は言わば共鳴装置として、アリスとセリーヌの不安・不信を増大させていき、悲劇的な結末をもたらすことになる。