可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 タムロアヤノ個展『Plants in the Room』

展覧会『タムロアヤノ「Plants in the Room」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店〔インフォメーションカウンター前〕にて、2026年8月1日~27日。

タイルや絨毯の模様をベースラインに鉢植えや家具が生み出すメロディが心地よい室内画で構成される、タムロアヤノの個展。装飾的で画中画が頻出するなどの特徴はアンリ・マティス[Henri Matisse]に通じる。 

《緑のタイル壁と猫のいる部屋》(727mm×606mm)は、ビリジアンのタイルで覆われた壁の部屋の絨毯を敷いた部屋にいる猫を描いた作品。塗り斑のあるビリジアンの正方形のタイルは1片が数十cmはある大きなものだ。壁に接して細い脚の付く木製のキャビネットが置かれる。マホガニーだろうか、茶色がビリジアンのタイルに映える。キャビネットの上には、左から右へ、ガーベラか何かを活けた明るい水色の陶磁器、果物を盛った脚付きの皿、茶色い花瓶、サボテンの鉢植え、シェードの付いた卓上ランプが並ぶ。壁面には円や渦などを表わした抽象絵画が飾られている。暗緑色の床には山吹の縁の内側にオレンジ色の幾何学模様を配し、その中に抽象的な植物文様を遇った絨毯が敷かれ、猫が坐る。絵画というフィクションの中の絵画(画中画)=フィクションにより、陰影の無いイメージを空間として起ち上げる。絨毯の植物文様の平面から花瓶の花の立体へと装飾を介し次元を移行させる。この仮想空間に鑑賞者を誘い込むのが、絨毯=平面に佇む猫である。緑のタイルは網[net]であり、作者の仮想空間に鑑賞者は絡め取られる。
《大きな葉の植物がある部屋》(530mm×455mm)は、室内に大きく茎を伸す観葉植物を植物を描いた作品。藍、水色、黄土色の植物文様の赤い絨毯を敷いた部屋には、本を積んだ上にサボテンの鉢植えを飾った無垢材の切り株のローテーブルと、背の高い台座に載せた黒い壺から四方八方に勢いよく茎・葉を伸すフィロデンドロン・セローム(?)が置かれている。観葉植物は繋がり[link]を求め伸す手だ。緑のカーテンを脇に寄せたガラス窓は磨りガラスなのか、観葉植物の葉と似た模様を浮かび上がらせる。硝子窓は鏡としてだけでなく画中画としても機能する。「フィロデンドロン・セローム」の手に手を差し伸べようとする存在が世界にいることを訴える。絨毯、観葉植物、窓ガラスの相似の形により画面に一体感を生む。
《サバトラ猫のいる部屋》(530mm×455mm)と《シャム猫のいる部屋》(530mm×455mm)とは対の作品。《サバトラ猫のいる部屋》は樹木に面した窓のある赤い壁の部屋の、七宝文様の絨毯に置かれた緑の椅子に坐るサバトラ猫を描いた作品。《シャム猫のいる部屋》は塔を望む窓のある緑の壁の部屋の、蔦模様の絨毯に置かれた茶色の椅子に坐るシャム猫を描いた作品。赤い壁と緑の壁、植物だけが覗く窓と塔や建物も見える窓、ランプの支柱が直線か曲がっているか、部屋の左隅か右隅かなどが対照的である。2つの作品は七宝文様と蔦とにより無限の拡がりを暗示する。2作品が鏡像的に互いに繋がり合うことで、鑑賞者はその世界のはざまに入り込んでいる。
《2匹の猫と庭を望む部屋》(606mm×910mm) は茶トラと三毛の2匹の猫がいる居間を描いた作品。正面奥には抽象画の掛かるクリーム色の壁面を背に茶色のカウチがある。座面にはクッションが置かれ、周囲には観葉植物の鉢とテーブルランプが配される。カウチの手前には茶色い床に緑の絨毯が敷かれ、茶トラと三毛が向かい合うように寛ぐ。左側は全面硝子張りで、草木が繁茂する。モンテスラ、テーブルヤシ、ドラセナなどの観葉植物と緑の絨毯の室内とガラスで隔てられた窓外とは繋がり合っている。《2匹の猫と庭を望む部屋》は、落ち着いた青い色のタイルの床にサンスベリアなど3種の鉢を置いた《3つの植物》(727mm×606mm)と、グレーのタイルの壁面の部屋にドラセナやアロカシア・アマゾニなどの鉢植えを置いた《黒猫と緑のサイドボードのある部屋》(910mm×727mm)とに挟まれて展示されている。タイルと観葉植物の絵画で挟み込むことで、三幅対的一体化を図るとともに、画中画による画面内の入れ籠を、作品同士による画面相互でも入れ籠の関係を築くのである。3点を飾る展示壁面の裏にかけられた《サバトラ猫のいる部屋》と《シャム猫のいる部屋》との鏡像的関係に立つ2枚組同様、鑑賞者を絵画世界へと引き込む仕掛けと言えよう。