映画『判決、ふたつの希望』を鑑賞しての備忘録
レバノンの首都ベイルートで自動車修理工場を経営するトニーは、「レバノン軍」という政党の支持者。出産を控えた妻シリーンからは部屋に掲げた指導者の写真を外すよう頼まれるが取り合わない。
トニーの家のバルコニーは違法な増築で、配水管が中空に飛び出していて竪樋に接続されていない。近隣で改築工事に当たっているパレスチナ人の現場監督ヤーセルらが路上にいるにもかかわらず、トニーはバルコニーで散水をはじめ、彼らに水がかかる。バルコニーの点検をさせて欲しいと自宅におしかけたヤーセルは、トニーに追い返されると、バルコニーの配水管と竪樋との接続作業を独断で行う。それに気がついたトニーにハンマーで配水管を破壊されてしまうと、ヤーセルはトニーに悪態をつく。トニーはヤーセルを雇っている会社の社長に対し、ヤーセルによる謝罪を要求する。
訴訟になることも辞さない姿勢でヤーセルの謝罪を要求してくるトニーに対し、社長は揉め事によって政府の事業を受注できなくなることを懸念して、ヤーセルを伴いトニーの工場へ赴く。不本意なヤーセルは謝罪の言葉を発することがなく、しびれを切らしたトニーはヤーセルに暴言をはき、ヤーセルは我を忘れてトニーの肋骨を折るほどのパンチを見舞う。
自首して逮捕されたヤーセルは、法廷で傷害の罪に問われると、進んで自白する。裁判長はヤーセルが暴行に訴えた原因にトニーの暴言があることを見抜くが、ヤーセルもトニーもその暴言の内容を明かさない。すると、裁判長は証拠が不十分であるとしてヤーセルの無罪を宣言し、閉廷する。承服できないトニーは裁判長に悪態をついて退廷を命じられると、控訴を求めることにする。
ヤーセルが仕事に熱心でとにかく生真面目な人物として描かれるがゆえに、なぜトニーがそこまでヤーセルを目の敵にし、怒りに燃えなければならないのかが疑問になるのが、第一審までを描く前半部分だ。だが、控訴審を軸にした後半では、次第にトニーの怒りの原因が明らかになっていく。
そして、トニーがヤーセルに対してとる行動、さらにヤーセルがトニーに対する行動があって、社会の注目を浴びることになった控訴審の行方は、判決としては(法的には)第一審と同じ結論に到るものの、その効果は鮮やかな対照を示す展開が素晴らしい。