可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

本 津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』〔ちくま文庫つ-16-1〕筑摩書房(2009)を読了しての備忘録 映画『君は永遠にそいつらより若い』(2021)の原作。 堀貝佐世は京都にある束谷大学の文学部社会学科の4回生。2年生から講座に通い、社会福祉主事の課程を修…

本 ニエル『悪なき殺人』

コラン・ニエル『悪なき殺人』〔新潮文庫ニ-4-1〕新潮社(2023)を読了しての備忘録Colin Niel, 2017, "Seules les bêtes"田中裕子訳 村出身の富豪の妻の失踪事件をきっかけにして明らかになる村の人々の姿を連作短篇小説のスタイルで描く。本作を原作とする映…

本 桐野夏生『日没』

桐野夏生『日没』〔岩波現代文庫 文芸352〕岩波書店(2023)を読了しての備忘録 松重カンナは中央線沿線で一人暮らしをしている40代前半の小説家。筆名は「マッツ夢井」。世の中に絶望していると言いながらも、世間一般の常識とは懸け離れた事象にこそ人間の本…

本 山本文緒『自転しながら公転する』

山本文緒『自転しながら公転する』〔新潮文庫や-66-2〕新潮社(2022)を読了しての備忘録 与野都は32歳。以前は麻やオーガニックコットンなど自然素材を使ったブランドに勤めていた。高価でなかなか手が出せない服だが店員になれば着られるとアルバイト店員に…

本 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』〔文春文庫せ-8-3〕文藝春秋(2020)を読了しての備忘録 高校2年生の森宮優子は、近隣の短大に進学して栄養士になるつもりだ。進級前の進路面談で担任の向井から悩みを打ち明けるように促される。それというのも優子は…

本 グロフ『運命と復讐』

ローレン・グロフ『運命と復讐』〔新潮クレスト・ブックス〕新潮社(2017)を読了しての備忘録Lauren Groff, 2015. "Fates and Furies".光野多惠子訳 第1部「運命の神々」と第2部「復讐の神々」の2部構成。舞台の脚本家として成功したロット(ランスロット)・…

本 コニェッティ『帰れない山』

パオロ・コニェッティ『帰れない山』〔新潮クレスト・ブックス〕新潮社(2018)を読了しての備忘録Paolo Cognetti, 2016. "Le otto montagne".関口英子訳 序章と「子供時代の山」・「和解の家」・「友の冬」の三部構成。 ミラノで暮らすピエトロは、夏をモンテ…

本 高山羽根子『首里の馬』

高山羽根子『首里の馬』〔新潮文庫た-135-1〕新潮社(2023)を読了しての備忘録 沖縄の港川。アメリカ領時代に建設されたアメリカ人住宅が観光地と化している。その近傍にあるコンクリート素地のままの建物に「沖縄及び島嶼資料館」なる私設博物館がある。未名…

本 筒井康隆『モナドの領域』

筒井康隆『モナドの領域』〔新潮文庫つ-4-56〕新潮社(2023)を読了しての備忘録 河川敷で若い女の腕が発見された。その美貌で周囲の視線を惹き付ける上代真一警部が現場に向かうと、第一発見者は演劇装置のために葦を刈りに来た美大生の實石夏生だと井上巡査…

本 オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』

ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』早川書房(2020)を読了しての備忘録Delia Owens, 2018, "Where the Crawdads Sing"友廣純訳 1969年10月30日の朝、バークリー・コーヴの村の保安官エド・ジャクソンのもとに地元の少年ベンジー・メイスンとステ…

本 ウエルベック『セロトニン』

ミシェル・ウエルベック『セロトニン』〔河出文庫ウ-6-5〕河出書房新社(2022)を読了しての備忘録Michel Houellebecq, 2019, "Sérotonine"関口涼子訳 フロラン=クロード・ラブルストは、40代半ばで、農業食料省の契約調査員として高給取りだった。パリ15区の…

本 サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

J.D.サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ〔ペーパーバック・エディション〕』白水社(2006)を読了しての備忘録J.D. Salinger, 1951, "The Catcher in the Rye"村上春樹訳 ホールデン・コールフィールドが、ペンシルヴェニア州エイジャーズタウンにあ…

本 サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

トーマス・サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』〔角川文庫サ-5-1〕KADOKAWA(2021)を読了しての備忘録Thomas Savage, 1967, "The Power of the Dog"波多野理彩子訳 モンタナ州南西部。ボストンの名門に連なるバーバンク家のフィルとジョージの兄弟は、今…

本 チャペック『白い病』

カレル・チャペック『白い病』〔岩波文庫・赤774-3〕岩波書店(2020)を読了しての備忘録Karel Čapek, 1937, "Bílá nemoc"阿部賢一訳3幕劇の戯曲。付録として1937年刊の初版本に付された作者による「前書き」と生前未発表の作者による改題が収められている他、…

本 ヴェルヌ『海底二万里』

ジュール・ヴェルヌ『海底二万里 上・下』〔新潮文庫ウ-2-2・ウ-2-3〕新潮社(2012)を読了しての備忘録Jules Verne, 1870, "Vingt mille lieues sous les mers"村松潔訳上巻は第1部全24章、下巻は第2部全23章。エデュアール・リユーによる扉絵とアルフォンス…

本 コッローディ『ピノッキオの冒険』

カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』〔光文社古典新訳文庫K-A-コ-9-1〕光文社(2016)を読了しての備忘録Carlo Collodi,1883, "Le avventure di Pinocchio"大岡玲訳本編(p.7-305)の他、訳者による読み応えある解説(p.306-361)、カルロ・コッローディ年譜…

本 川端康雄『ジョージ・オーウェル 「人間らしさ」への讃歌』

本 川端康雄『ジョージ・オーウェル 「人間らしさ」への讃歌』(岩波新書新赤版1837/岩波書店/2020年)を読了しての備忘録 目次はじめに第1章 植民地生まれの奨学金少年 1903-1921インド生まれのイギリス人/セント・死ぷりアン校での学校生活/「あの楽しか…

本 スタインベック『怒りの葡萄』

ジョン・スタインベック『怒りの葡萄〔新訳版〕上・下』〔ハヤカワepi文庫epi80・81〕早川書房(2014)を読了しての備忘録John Steinbeck, 1939, "The Grape of Wrath"黒原敏行訳 殺人罪で収監されていたトム・ジョードが仮釈放になり4年ぶりに故郷に戻ってき…

本 オーウェル『動物農場』(2)あつまれ どうぶつの森

『あつまれ どうぶつの森』というゲームのヒットは、「あつ森」という略称が人口に膾炙していることからも知られた(信長を通じて「アツモリ」という響きに馴染みがあるせいもあろう)。このゲームでは最初に借金を背負わされたプレーヤーが孤島に送られると…

本 オーウェル『動物農場』

ジョージ・オーウェル『動物農場〔新訳版〕』〔ハヤカワepi文庫epi87〕早川書房(2017)を読了しての備忘録George Orwell, 1945, "Animal Farm"山形浩生訳本編の他、「報道の自由:『動物農場』序文案」(1945)と「『動物農場』ウクライナ語版への序文」を所収。…

本 毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』

本 毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』(光文社新書1038/光文社/2019年)を読了しての備忘録 目次はじめに発端は小池百合子・東京都知事のツイッター/次々と、”発見”される「バンクシーの作品かもしれない」落書き/世界が震撼した「シュレッダー事…

本 トカルチュク『逃亡派』

オルガ・トカルチュク『逃亡派』〔エクスリブリス〕白水社(2014)を読了しての備忘録Olga Tokarczuk, 2007. "Bieguni"小椋彩訳 116のエピソードが織りなす「巡り合わせ(コンステレーション)」の文学。 因果律にしたがい首尾一貫している論拠の連なりなどと…

本 大山エンリコイサム『ストリートの美術 トゥオンブリからバンクシーまで』

大山エンリコイサム『ストリートの美術 トゥオンブリからバンクシーまで』(講談社選書メチエ724/講談社/2020年)を読了しての備忘録 目次はじめに第1部 都市都市と歩行(フランシス・アリスのリズム―空間の占有、更新、中断/システムと横断―ニューヨークを…

本 森村泰昌『自画像のゆくえ』

本 森村泰昌『自画像のゆくえ』(光文社新書1028/光文社/2019年)を読了しての備忘録 目次はじめに「傘がない」、それはいいことだ/ルソー『告白』にさかのぼる/現代版「わたしがたり」のルーツはどこにある/20世紀は写真の世紀だった/21世紀人のための…

本 ウエルベック『闘争領域の拡大』

ミシェル・ウエルベック『闘争領域の拡大』〔河出文庫ウ-6-4〕河出書房新社(2018)を読了しての備忘録Michel Houellebecq, 1994, " Extension du domaine de la lutte"中村佳子訳 「僕」は、エコール・ポリテクニーク出身の30歳の中堅サラリーマン。ソフトウ…

本 大髙保二郎『ベラスケス 宮廷のなかの革命者』

本 大髙保二郎『ベラスケス 宮廷のなかの革命者』(岩波新書新赤版1721/岩波書店/2018年)を読了しての備忘録 目次はじめに~モノローグ~Ⅰ 画家の誕生~聖・俗の大都市セビーリャとボデゴン~画家の誕生と出自の謎/都市セビーリャの歴史/大航海時代/聖と…

本 宮崎克己『ジャポニスム 流行としての「日本」』

本 宮崎克己『ジャポニスム流行としての「日本」』(講談社現代新書2506/講談社/2018年)を読了しての備忘録 目次はじめに第1章 ジャポニスムの「見え方」山頂とすそ野/「ジャポニスム」という言葉/双方向の流れ第2章 開国のインパクト浮世絵の発見/アヘン…

本 ベル『ささやかな頼み』

ダーシー・ベル『ささやかな頼み』〔ハヤカワ・ミステリ文庫449-1〕早川書房(2017年 )を読んでの備忘録 Darcey Bell, "A Simple Favor"(2017) 東野さやか訳 女性誌で記者をしていたステファニーは、取材で建築家のデイヴィスと知り合い、結婚する。息子マイ…

本 三浦篤『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』

本 三浦篤『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』(角川選書607)KADOKAWA[2018年] はじめに マネの特異性について Ⅰ.過去からマネへ第1章 成熟するイメージ環境第2章 イタリア絵画 ティツィアーのとラファエロ第3章 スペイン絵画 ベラスケスとゴヤ第4章 フ…

本 碧海寿広『仏像と日本人』

本 碧海寿広『仏像と日本人 宗教と美の近現代』(中公新書 2499)中央公論社〔2018年〕 序章 仏像巡りの基層第1章 日本美術史の構築と仏教 明治期第2章 教養と古寺巡礼 大正期第3章 戦時下の宗教復興 昭和戦前期第4章 仏像写真の時代 昭和戦後期①第5章 観光…