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芸術鑑賞の備忘録

映画『ルース・エドガー』

映画『ルース・エドガー』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のアメリカ映画。110分。
監督は、ジュリアス・オナー(Julius Onah)。
原作は、J・C・リー(J.C. Lee)の戯曲『Luce』。
脚本は、J・C・リー(J.C. Lee)とジュリアス・オナー(Julius Onah)。
撮影は、ラーキン・サイプル(Larkin Seiple)。
編集は、マドレーヌ・ギャビン(Madeleine Gavin)。
原題は、"Luce"。

 

ヴァージニア州のノーザン・ヴァージニア・ハイ・スクール。生徒用のロッカーに紙袋がしまわれる。
同校の月例集会。ホールの壇上では、ルース・エドガー(Kelvin Harrison Jr.)が模範生としてスピーチを行っている。学校を代表してディベートの全米大会への出場経験もあるルースの語りに、生徒・教職員・保護者ら聴衆が惹き付けられている。会場には母エイミー(Naomi Watts)と父ピーター(Tim Roth)の姿もあった。集会からの帰途、車中で3人は「厳格な」世界史教師ハリエット・ウィルソン(Octavia Spencer)を話題にする。ルースはハリエットと馬が合わないらしい。ピーターは「ビッチ」だと茶化し、エイミーが差別語を使わないようにと夫を窘める。帰宅するとルースはラップトップに向かい、討論会に向けた準備に余念が無い。朝早く登校して授業前に勉強会も行っている。翌日、ルースがケニー(Noah Gaynor)と廊下を歩いていると、コーリー(Omar Shariff Brunson Jr.)が通りがかり、またスピーチを行ったルースをネルソン・マンデラの再来だとからかう。彼らは陸上部のチームメイトでもあった。
エイミーがハリエットから電話で呼び出された。ハリエットの教室でエイミーはルースの子育てについて話を向けられる。ルースはエリトリア出身。戦火の中で育った彼は幼くして火器の扱いを学んでいた。7歳のときにエイミーとピーターに引き取られ、エイミーが発音できなかった名前は「光」を意味する"Luce"に変わった。戦場で精神を病んでいた彼を両親が辛抱強く精神療法を受けさせ、今日の優等生としてのルースがあった。エミリーを讃えるハリエットに対し、エミリーは本題に入るよう促す。するとハリエットは、授業で課した歴史上の人物に関するレポートについて、ルースがフランツ・ファノンを取り上げたことを告げる。聞き慣れない名前に戸惑うエミリー。ハリエットは、フランツファノンが目的達成のためには手段を選ばない過激なアフリカの革命家であり、もちろん授業では扱っていないと告げる。そして、ハリエットは紙袋をエミリーに示す。ルースがテロリズムに染まっているのではないかと危惧し、彼のロッカーを捜索して見つけたものだという。紙袋には壁に穴が開く破壊力のある花火が入っていた。ハリエットがエミリーに内々に知らせたのは、ルースを知らない人であったら彼を危険人物だと判断するだろうから、また、もしもルースが優等生でなかったら学校にとって大きな損失になるからだという。帰宅したエミリーはハリエットから渡されたレポートと紙袋をピーターに見せる。ピーターはあくまでも歴史の授業のレポートと花火に過ぎないと意に介さない。エミリーもそう思いたかったが、動揺は抑えがたかった。二人の会話の最中に当人が帰宅する。エミリーは慌てて「紙袋」をキッチンの戸棚にしまい、息子を迎え入れるのだった。

 

非の打ち所のない優等生のルース。その模範的な姿は、演技が得意だと自認するルースが装う表の顔に過ぎないのか。黒人の理想像をルースに期待するハリエットによってもたらされた疑惑が、エミリーとピーターの「息子」に対する信頼を揺るがせていく。真実を知りたいと告げる口が愛情から事実を歪め、現実を見るための目は見たいものしか見ようとしない。最後までルースに揺さぶられ続ける。
様々な点で対照的なルースとハリエットが黒人同士でありながら対立しているのがポイント。ハリエットの家での両者の対峙が象徴的。
ハリエットの妹ローズマリー(Marsha Stephanie Blake)を登場させた理由が最初よく分からなかったが、妹が学校にやって来るシーンで、ハリエットの信念が形成される背景が浮かび上がった。そして、その信念は一層強化される。
Geoff BarrowとBen Salisburyによる音楽が、不穏な雰囲気を効果的に高めている。