可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ワンダーウーマン 1984』

映画『ワンダーウーマン 1984』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。151分。
監督は、パティ・ジェンキンス(Patty Jenkins)。
原作は、ウィリアム・モールトン・マーストン(William Moulton Marston)のコミック『ワンダーウーマン(Wonder Woman)』。
原案は、パティ・ジェンキンス(Patty Jenkins)とジェフ・ジョンズGeoff Johns)。
脚本は、パティ・ジェンキンス(Patty Jenkins)、ジェフ・ジョンズGeoff Johns)、デビッド・キャラハム(Dave Callaham)。
撮影は、マシュー・ジェンセン(Matthew Jensen)。
編集は、リチャード・ピアソン(Richard Pearson)。
原題は、"Wonder Woman 1984"。

 

地中海にあるという、女性だけが住む島セミッシラ。幼いダイアナ(Lilly Aspell)が一人野山を駆け巡り、鍛錬に励んでいる。統治者ヒッポリタ(Connie Nielsen)臨席の下、島を挙げての運動競技大会が行われ、女性戦士達が日頃の訓練の成果を披露している。花形の複合競技のスタートラインには、年長の女性たちに混ざって身長も体格も明らかに見劣りするダイアナの姿もあった。他の選手を差し置いて勝手に参加を決めたらしい。叔母のアンティオペ(Robin Wright)が近づく。熟練の戦士にとっても過酷な競技なのよ。私ならやれるわ。自信を見せるダイアナ。スタジアム内の多様な障害物が設置されたコースでは脱落者も出るが、ダイアナはトップでくぐり抜けて海へ飛び込む。岸に泳ぎ着くと馬に跨がり、弓で発煙筒を兼ねた的を射貫いていく。山腹の葛折のコースで油断したダイアナは枝にぶつかって落馬してしまう。斜面に設置された排水溝に気が付くと、ダイアナはそこを滑り降りて騎手のいないまま疾走する馬に追いつき、スタジアムへ。最後の槍投げに取りかかろうとしたダイアナはアンティオペに腕を捕まれる。近道をしたルール違反を指摘して真実を追求する重要性を説くとともに、ヒロインとしての精神的な準備がまだできていないと諭される。
1984年、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.。テレビではブラック・ゴールド社の社長マックスウェル・ロード(Pedro Pascal)が派手なパフォーマンスで石油採掘への投資を繰り返し呼びかけている。人でごった返す活気ある通りでは、事故に巻き込まれた女性たちが間一髪で救われる。そのような場には常に謎の女性の影があった。あるモールでは、買い物客で賑わう白昼堂々、宝飾店に二人組の強盗が押し入る。バッドスキン(Ryan Watson)はブラック・マーケットで扱う商品を並べたバックヤードに通すよう店員に要求、フラット・トップ(Jimmy Burke)とともに骨董品をバッグに詰める。逃走に当たって運び屋の二人にバッグを渡すが、バズカット(Lyon Beckwith)が銃を落として犯行が発覚し動顛、スカウラー(Brandon Thane Wilson)の制止も聞き入れず、刑務所へは戻りたくないと少女(Oakley Bull)を人質にとる。少女を階下へ落とすように抱えているところを、ワンダーウーマンのスーツに身を包んだダイアナ(Gal Gadot)がヘスティアの縄を使って少女に飛び付き救出する。すぐさま強盗団の捕縛を開始すると、警察車両に4人まとめて突き落とす。その様子を目を輝かせて見守っていた幼い少女(Rey Rey Terry)に、ワンダーウーマンは秘密にしてねと合図を送るのだった。
ダイアナは国立自然史博物館の文化人類学部門に上席研究員として勤務している。第一次世界大戦で亡くなったパイロットのスティーヴ・トレバー(Chris Pine)の想い出を胸に、孤独な日々を過ごしていた。モールの強盗事件から間もなくして、バーバラ・ミネルバ(Kristen Wiig)がダイアナの職場を訪れた。怖ず怖ずと歩くバーバラは履き慣れないヒールのために転んでしまうが、手を差し伸べたのはダイアナだけだった。管理部門のキャロル(Natasha Rothwell)が初出勤のバーバラを探しに来る。地質学や宝石学を研究するバーバラに、早速FBIからの依頼が割り当てられる。モールの事件に絡んで押収されたブラックマーケットの流通品の鑑定を依頼されたのだ。バーバラの仕事場に様子を見に来たダイアナは、台座にラテン語が記された模造鉱物に注目する。

 

ワンダーウーマンであることを秘匿し、国立自然史博物館の文化人類学部門の上席学芸員として勤務するダイアナ(Gal Gadot)が、あらゆる願いを叶える「ドリームストーン」の力を手に入れた人物を相手に奮闘する姿を描く。
マックスウェル・ロード(Pedro Pascal)は、移民の子としていじめられ、長じて一廉の人物たらんと会社を興す。だが事業は破綻寸前、離婚した妻が親権を持つ息子(Lucian Perez)に良いところを見せたいのに、その息子の眼前で出資者にペテン師だ負け犬だと罵倒される始末。バーバラ・ミネルバ(Kristen Wiig)は研究一筋だが不器用な性格で誰からも相手にされず、ダイアナのような輝かしい女性を羨望していた。だからこそいったん手にした魅力(ある種の魔力によるが、変貌が精神的である点で『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』(2018)タイプの描き方がなされている)を手放すのが恐ろしい。かつての立場に戻ることを恐れて、浮浪者に対して持ち合わせていた同情も失ってしまう。ダイアナもかつて愛した亡きスティーヴ・トレバー(Chris Pine)を引きずって暮らしている。登場人物たちが抱える弱みが世界を歪め、破滅させかねない原因となる。他人からすれば些細な悩みも本人にすれば大問題で、その克服は容易ではない。ダイアナ=ワンダーウーマンの戦いは弱点の克服に擬えられている。
「真実」ということが強調されるのはドナルド・トランプ的現実の揶揄としてではなく、もとい、だけではなない。原作者のウィリアム・モールトン・マーストンが嘘発見器の実現に血眼になっていた過去を踏まえている。もともと「真実」の探求がワンダーウーマンの底流となっているのだ。