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芸術鑑賞の備忘録

映画『明日に向かって笑え!』

映画『明日に向かって笑え!』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のアルゼンチン映画。116分。
監督は、セバスティアン・ボレンステイン(Sebastián Borensztein)。
原作は、エドゥアルド・サチェリ(Eduardo Sacheri)の小説"La noche de la Usina"。
脚本は、セバスティアン・ボレンステイン(Sebastián Borensztein)とエドゥアルド・サチェリ(Eduardo Sacheri)。
撮影は、ロドリゴ・プルペイロ(Rodrigo Pulpeiro)。
編集は、アレハンドロ・カリージョ・ペノーヴィ(Alejandro Carrillo Penovi)。
原題は、"La odisea de los giles"。

 

雷鳴が轟き、雨の降り頻る夜。木立の前に停めた白いピックアップトラックの周りには、レインジャケットを身につけた男たちが立っている。遠くを見詰めている顔が、稲光で浮かび上がる。その視線の先で大きな爆発音がする。一瞬にして炎が燃え広がり、黒焦げになったシャーシが吹き飛ばされる。
2001年8月。ブエノスアイレス州の農村アルシーナ。サイロが建ち並ぶうち捨てられた建物。傷んだ看板には"ラ・メトーディカ(LA METÓDICA)"とある。草花が生い茂る中に立って、フェルミン・ペルラッシ(Ricardo Darín)が妻リディア(Verónica Llinás)と友人のアントニオ・フォンターナ(Luis Brandoni)に農業協同組合設立を訴える。アントニオは道路建設のためにアルシーナにやって来たが、建設計画が頓挫した後もタイヤの修理工としてこの値に留まっていた。不況の今こそチャンスだ。でも農協は破綻したじゃないか。30年は続いてただろ。それに30人の雇用は生み出せる。30人もか? 作業員だけでなく管理部門にも人が必要だからな。
計画に賛同したアントニオが今は廃止になったアルシーナ駅の元駅長ロロ・ベラウンデ(Daniel Aráoz) を勧誘する。ロロはフェルミンがフットボールのチャンピオンであったことを話題にする。30年前のことだが、アルシーナではまだ伝説は生き延びていた。
フェルミンはリティアとともにブエノスアイレスに、「ラ・メトーディカ」の相続人であるデルーカ(Germán Rodríguez)を尋ねた。譲渡価格を30万だと告げられ動揺する2人。子供の頃、父のオフィスでポスターをよく目にしていたというデルーカが、終了間際1分での伝説のシュートについてフェルミンに尋ねる。ペナルティエリアの外から蹴ったら枠内に決まったまでですよ。ディフェンダーに当たってコースが変わったのよね。フットボールの話題で打ち解け、譲渡価格は27万になった。帰宅した2人は久々に夫婦の営みを交わす。
フェルミンはアントニオとともに金属加工工場が倒産した後、養豚を始めたエラディオ(Alejandro Gigena)と ホセ(Guillermo Jacubowicz)のゴメス兄弟を訪ねる。農協って何だ? みんなでチョコレート・ケーキを分け合おうって話だ。トルコ出身の雑貨商サファ(Ramiro Vayo)など、話を持ちかけた相手からは次々と出資を得ることに成功していく。だが、大口の出資が無かった。増水のたびに救助が必要なため住居の移転費を支給されたアタナシオ・メディナ(Carlos Belloso)のもとを訪れた。元工兵のアタナシオはダイナマイト漁の最中。出資はしてくれたが、移転費のほとんどは散財して、期待したほどの金額にはならなかった。そこで、フェルミンは、運送会社を経営するカルメン・ロルヒオ(Rita Cortese)を頼ることにする。カルメンは息子のエルナン(Marco Antonio Caponi)がフラフラしているのはロール・モデルとなる男が身近にいないからだと、フェルミンに息子にもできる仕事はないかと持ちかける。フェルミンが請け合うと、カルメンはぽんと10万を出資してくれた。フェルミンはビジャグランの銀行の貸金庫に出資金を預ける。
リディアが興奮してフェルミンを呼ぶ。銀行から、融資の件で電話よ。銀行に向かうと支店長のアルヴァラード(Luciano Cazaux)が預金額の関係で融資に応じられないと切り出す。もっとも、「農協」名義で貸金庫にある資金をフェルミンの口座に移せば、本店に掛け合って融資を得ることができるという。自分の金ではないので出資者に相談しなければ移せないと答えると、融資の処理がいったん締め切られるので、営業時間内に移さないのであれば、融資は先延ばしになると告げられる。フェルミンは貸金庫から資金を取り出し、口座に移す決断をする。

 

フェルミン・ペルラッシ(Ricardo Darín)と妻リディア(Verónica Llinás)が友人のアントニオ・フォンターナ(Luis Brandoni)らを誘って農協を設立する計画を進める。フェルミンの信用もあって順調に資金が集まるが、融資の関係で支店長のアルヴァラード(Luciano Cazaux)の言うがままに貸金庫の出資金を口座に移したところ預金封鎖となり、皆が虎の子の資金を工面して設立しようとした農協設立の夢が泡と消えてしまう。アントニオは、アルヴァラードが計画的に口座に資金を集めていたとの確かな情報をつかむ。

サファがフェルミンのもとに押しかけ金を返せと訴える。そのとき、フェルミンの妻リディアが銃を持って飛び出してきて、夫に文句を言うのは筋違いで、悪いのは政府だと叫ぶ。怒りの矛先が間違っていないか。虐げられている者同士が争っていてどうする、そのとき加虐者は枕を高くして寝ているだろう、とのメッセージが明快だ。リディアの存在は、この映画の通奏低音として鳴り響いており、それが魅力の源泉となっている。