可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 衣真一郎個展『山と道』

展覧会『新世代への視点2021 衣真一郎展「山と道」』を鑑賞しての備忘録
藍画廊にて、2021年7月26日~8月7日。

絵画12点で構成される衣真一郎の個展。

縦長の画面(910mm×727mm)の《道》(2019-2020)は、鳥瞰図のような作品。緑の広がる風景を道が左半分と右上、右下の3つの画面に区切る。右上の、水田の広がる中にある濠で囲われた前方後円墳が印象的である。画面の左側の区画にも、いくつか小さな前方後円墳が描きこまれている。水色の画面(410mm×318mm)に記号的モティーフを鏤めた《風景と静物》(2021)でも、瓶やマグカップ、煉瓦などとともに「前方後円墳」が配されている。前方後円墳の鍵穴のような形は、強い印象を残す。前方後円墳は、平面的な絵画の中に時間を封印する装置として描きこまれているのかもしれない。その解釈は、横長の画面(1303mm×1940mm)の《山と道》(2021)から導かれる。《山と道》は画面下部の4分の3を蛇行する道に、画面上部の4分の1を横から見た山並みに与えているが、茶色で覆われた画面において、道は、断面図のように表された前方後円墳から地下に向かって伸びているようにも見えるのだ。前方後円墳という鍵穴の向こうには、歴史(=時間)が折りたたまれてしまわれている。
縦長の画面(1455mm×970mm)の《積み重なる風景》(2021)は、明るい白を背景に、山並みや樹木、雲や水辺などを表すと思われる図像を、緑(黄緑)、茶、灰色、水色で縦に描いたものを、横方向に並べた作品。左隣に展示されている横長の画面(455mm×652mm)の《風景―家・馬・古墳―》(2018)では、画面上半分に小さな色のパネルをモザイク状に並べる一方、画面下半分に置物あるいはフィギュアに見える家や馬を俯瞰で描くことで、抽象化されつつもジオラマ的な風景画として表現されている。それに対し、《積み重なる風景》は、抽象化が一段も二段も進み、山容や樹木、壁や流れ、雲や天体などがエジプトのヒエログリフを想起させるような風景の「象形文字」へと転化され、縦方向に「風景」を読み取った後に「改行」し、次の「風景」を前の「行」との関係で解釈するよう迫る。そして、「行」は「道」であり、歩きながら風景を眺める際の「変化」すなわち「時間」を画面に表す手法と解される。展覧会タイトルの「山と道」とは、「風景と時間」のことでもあった。