映画『TOVE トーベ』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のフィンランド・スウェーデン合作映画。103分。
監督は、ザイダ・バリルート(Zaida Bergroth)。
原案は、エーバ・プトロ(Eeva Putro)とヤルノ・エロネン(Jarno Elonen)。
脚本は、エーバ・プトロ(Eeva Putro)。
撮影は、リンダ・バッスベリ(Linda Wassberg)。
編集は、サム・ヘイッキラ(Samu Heikkilä)。
原題は、"Tove"。
トーベ・ヤンソン(Alma Pöysti)が部屋の中で1人激しく踊っている。
凄まじい爆裂音がする。ヘルシンキの防空壕に退避していたトーベは、持ち込んだ紙にキャラクターを描いて時間を潰していた。サイレンが鳴り、空襲警報が解除される。建物や道路は、ソ連軍の空爆により激しく損傷していた。トーベは、8月の夕暮れ時にムーミン・ママとトロールとが花の明かりを頼りに森を歩く姿を思い描きながら、街を歩いた。
アトリエでは、彫刻家の父ヴィクトル・ヤンソン(Robert Enckell)が人物の立像に石膏を塗り付けている。お前はもう長いこと絵画を制作していないな。絵を描くには時代が良くないわ。机に座ってペンを走らせるトーベ。父さんみたいに愛国的な作品でも作るべきかしら? イラストは芸術じゃないだろう。父が娘のドローイングを石膏の付いた手で触れる。コーヒーは後にした方がいいかしらね。シグネ・ハンマルステン=ヤンソン(Kajsa Ernst)は夫と娘の対立に心を痛める。
角地に立つ建物の上階にある天井の高い部屋。大きな窓ガラスはところどころ割れている。トーベが大家の女性(Liisi Tandefelt)に案内されて、爆撃被害を受けた部屋を内見している。窓の修理はかなりの出費になりますよ。暖房装置は壊れてしまっていますし、水も出ません。それでもトーベはその部屋を気に入り、借りることにする。木材を加工して棚やテーブルを拵え、電気の配線を修復し、アトリエ兼住居として部屋を再生させた。トーベは絵画の制作に打ち込む。
展覧会場で、父は、タバコを燻らせる自画像を外すべきだと提案する。トーベはそれを受け容れずに、展示することにした。1人の女性(Krista Kosonen)がトーベのもとにやって来て、父の誕生日パーティーの招待状にイラストを描いてほしいと依頼される。私は画家だからと断るトーベに、気が変わったらと名刺を置いていく。ヴィヴィカ・バンドラー。市長のエリック・フォン・フレンケル(Dick Idman)の娘だった。
トーベは画家仲間のサム・ヴァンニ(Jakob Öhrman)とマヤ・ヴァンニ(Eeva Putro)とともに、政治家のアトス・ヴィルタネン(Shanti Roney)が自宅で開催したパーティーに参加した。諷刺イラストを描いているトーベさん? 画家です。ヒトラーのカリカチュア、良かったですよ。皆が酒を飲み、レコードに合わせ激しく踊る。トーベとアトスは意気投合し、語り合う。トーベはサウナに誘う。モロッコに芸術家の共同体を作るという話をしながら、トーベは衣服を脱ぎ捨てていく。妻帯者のアトスはトーベに溺れてしまうことを恐れていた。それでも覚悟を決め、ご尊父の作品のような肉体美は持ち合わせていないよと、ネクタイを外す。
展覧会の選考結果を発表する芸術家の会合に出席したトーベ。彼女が落選する一方、父は入選した。トーベは父を祝福するが、父はお前がアドヴァイスを受け容れないから入選できなかったと言いたげであった。
ヴィヴィカの父親の誕生日パーティーの招待状にイラストを描いたトーベは、パーティーに参加した。バルコニーでヴィヴィカと2人で飲んでいたトーベは、女性とキスをしたことがあるかと尋ねられる。
画家のトーベ・ヤンソン(Alma Pöysti)は、政治家で哲学者のアトス・ヴィルタネン(Shanti Roney)と恋に落ちる一方、脚本家兼演出家のヴィヴィカ・バンドラー(Krista Kosonen)に出会って、同性愛に目覚める。ヴィヴィカは、ともにパリに行くことや、トーベの父で彫刻家のヴィクトル・ヤンソン(Robert Enckell)が否定的な評価を下すムーミンの価値を見出して芝居にすることを提案する。だが、トーベは躊躇して引き受けることができない。
冒頭のダンスや、中盤の薪割りのシーンで表されるように、トーベの中には激しい感情が渦巻いている。けれども、臆病な彼女は不安からその激情を表に表すことがない。劇中では、そんなトーベと穏やかなムーミンとを重ね合わせる演出がなされている。