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芸術鑑賞の備忘録

映画『LOVE LIFE』

映画『LOVE LIFE』を鑑賞しての備忘録
2022年製作の日本映画。
123分。
監督・脚本・編集は、深田晃司
撮影は、山本英夫
美術は、渡辺大智。
音楽は、オリビエ・ゴワナール(Olivier Goinard)。

 

郊外の団地の1室。大沢妙子(木村文乃)が、パーティーの飾り付けをしている。息子の敬太(嶋田鉄太)がオセロの大会で優勝したお祝いをするのだ。息子にせがまれ、その最中にもオセロの対戦を強いられている。妙子の電話が鳴る。勤め先の自立支援センターの近藤洋子(三戸なつめ)から、炊き出し中に喧嘩が起きたとの連絡だった。今から向かうから無理な仲裁はしないでと伝え電話を切る。妙子はベランダに出ると、下の広場にいる夫・二郎(永山絢斗)に向かい大声で叫ぶ。二郎さん、ちょっと出てくるー! 二郎は福祉課の後輩たちを集めてプラカードでお祝いメッセージを表示する準備をしていた。確認してもらえる? 二郎の合図でプラカードを掲げる。3番目と4番目が逆! 妙子が部屋を出ると、向かいの建物に住む義母の明恵(神野三鈴)が大声で妙子を呼ぶ。お父さん行ってない? 来てませーん! 妙子は自転車に乗って出て行く。
広場に色取り取りの風船を持った山崎理佐(山崎紘菜)がやって来る。先輩、風船、来ましたよ。風船を持ってきたのが理佐だと知って、二郎は動揺する。二郎は出番まで近所の喫茶店で待機するよう後輩たちに伝えて、自宅に戻る。
すいません、お休みのところ。洋子が妙子を喧嘩の現場へ案内する。スーツの男が妙子たちにホームレスの1人にスマートフォンを叩き落とされたと訴える。ホームレスの男は断り無く写真を撮ったからだと反論する。妙子が場所を変えて話しましょうと提案するとスーツの男は立ち去っていった。妙子はホームレスの男に酒を飲んでいることを注意することも忘れない。
妙子が自転車で帰宅する途中、喫茶店に向かう二郎の同僚たちに出くわす。そこへ敬太がキックスクーターに乗って母親を迎えに来る。敬太君、大きくなりましたね。敬太、覚えてる? 皆さんとは1度結婚式で会ってるんだよ。敬太は3人の名前を覚えていた。妙子が敬太が覚えていなかった2人の名前を教えるが、一緒にいる女性は見覚えが無い。山崎は結婚式に出席しなかったからですからと大槻治(東景一朗)が説明する。
自宅に戻ると、二郎が台所に立っていた。ナポリタンにしたんだ。いいにおいだね。敬太は早速オセロの続きを妙子にせがむ。二郎がママとばかりだなと言うと、敬太は手話で父さんは弱いからと母親に告げる。妙子、手伝って。二郎が妙子に料理の盛り付けを頼む。敬太はPCでオセロのオンライン対戦を始める。
茶店。二郎の指示を待つ福祉課の後輩たち。隅では大槻が山崎を呼んだ後輩(浦山佳樹)を注意している。山崎は大沢さんと結婚寸前だったんだけど、大沢さんの浮気で破局したの。その浮気相手が今のかみさんなんだよ! 大沢さん、お父さんの方の、大沢部長だ! 大沢誠(田口トモロヲ)が明恵とともに喫茶店の前を歩いて行く。福祉課の面々は見えないように机の下に隠れる。
リヴィングでは、敬太がオセロのオンライン対戦をしている。隣の部屋では二郎が電球を取り替えている。お父さん、結婚認めてくれるかな? 妙子が不安を口にする。そりゃそうだろ、もう結婚しちゃったんだから。電球を取り付けた二郎が妙子を抱き締める。そこへチャイムが鳴る。義父母が部屋へやって来た。
明恵はゲーム大会優勝おめでとうと告げると、敬太はゲームじゃなくてオセロだと訂正する。妙子が敬太はオセロをゲームだと言われるのを嫌がるのだと説明する。これ効くの? 明恵は鳥よけに吊してあるCDを気にする。
ごめん、やっぱり行けない! 山崎が席から立ち上がり、喫茶店から駆け出してく。追え! 大槻の指示に、坪井義博(緒方敦)がすぐさま山崎の後を追う。全速力の山崎と坪井の姿は見る見る小さくなってく。あの2人、陸上部でしたから。お前は? 文芸部です。
優勝おめでとう! 敬太のお祝いが始まった。5人がテーブルに着いているが、誠は妙子の顔を向けないように座っている。敬太にプレゼントが渡される。1つ目は動物図鑑。喜ぶ敬太に、お父さんからよと明恵が伝える。次は何かな? 飛行機だ! まだ始まって間もないが、誠が長居したからもう帰ろうと言い出す。そこへ大槻から二郎に時間を稼ぐよう連絡が入る。二郎は父親の趣味の釣りの話を持ち出す。ネットで中古の釣竿が手に入ると妙子が言うと、「中古」でいいものと悪いものがあるんじゃないかと義父が言い放つ。子持ちで再婚した妙子を当て擦る言葉だった。母さんだって口にしないが我慢してるんだ。もともと暮らしていた部屋を譲って向かいの建物に引っ越したのは孫の世話をするためだった。文句を言い捨てて立ち去ろうとする義父に、妙子は言葉を訂正して欲しいと訴える。明恵が夫を足止めして謝るよう促す。誠は、言い過ぎたと謝罪する。義母に感謝する妙子。いいのよ。でも、次は本当の孫を抱かせてね。

 

ホームレスの自立支援の仕事をしている妙子(木村文乃)は、役所の福祉課に勤める二郎(永山絢斗)と知り合い、前夫との間の息子・敬太(嶋田鉄太)を連れて再婚した。それから1年。敬太がオセロ大会で優勝した祝いの席は、結婚を認めていない二郎の義父・誠(田口トモロヲ)の65歳の誕生日をサプライズで祝うことで、妙子との関係改善を図る目的があった。誠は役場の部長だったこともあり、二郎は職場の同僚たちに祝いのメッセージをプラカードで表示させる計画だった。二郎はそのメンバーに山崎理佐(山崎紘菜)の姿があるのを見て動揺する。もともと結婚を誓った仲だったが、二郎が妙子に乗り換えることで破局したからだ。敬太の優勝祝いは、誠の態度でギスギスした雰囲気に。義母の明恵(神野三鈴)が誠と妙子の仲を取り成すが、次は本当の孫を抱かせてねと悪気無く言い放った言葉が妙子に突き刺さる。役場の後輩たちによる誠の誕生日のお祝いメッセージのサプライズは、大槻治(東景一朗)の機転で、途中で立ち去った理佐の代わりに2人のシスターに手伝ってもらうことでうまくいく。職場の後輩やシスターを交え、カラオケを始めて賑やかになるお祝いの会。敬太はプレゼントされた飛行機で風呂場に行って1人遊んでいる。浴槽の水を潜らせて飛び立たせる。飛行機を手に持ち上縁面に登ったところで足を滑らせた敬太は、頭を打ち、残り湯の中に落ちる。

(以下では、結末も含め、冒頭以外の内容についても触れる。)

誠が妙子を良くない中古品に擬えるところからはっきりと調子が変わる。とりわけ明恵が「本当の孫」を抱きたいと言ったり、とりわけ、思い出のある部屋に亡くなった(血のつながりのない)敬太を連れ帰って欲しくないと表明するところなど、悪気なく言い放っているがゆえに本心の吐露であり、妙子が義父母との関係を修復しづらい状況に追いやられているのがよく伝わる。
風呂に水を張ったままではいけないとの二郎の注意を守らなかった妙子は、敬太の死に責任を感じている。それにも拘わらず悪くないと慰められることは、妙子にとっては、敬太がいなかったことにされることに等しい。斎場で実父のパク・シンジ(砂田アトム)からが殴られた妙子は、喪失を罰されることで、敬太の存在を実感し、その実感を与えてくれる元夫への信頼を生じさせる。
妙子と敬太とのオセロの勝負は決着が付かないままになった。義父母との関係も、義父母が引っ越したことによって曖昧になる。白黒付けないことによって日々が進んでいく。
弱い存在を守ろうとして生まれる力に頼る弱さ。強さと弱さとは表裏一体。
目を合わせて来なかった二郎が妙子に目を合わせる瞬間に表示される「LOVE LIFE」というタイトル。そのタイミングに痺れる。そして二郎の散歩の誘いに妙子が付いていく。雲の無い空の下、2人が歩む姿が、暗い日々を反転させていく明るい未来の予兆となっている。