映画『ファミリア』を鑑賞しての備忘録
2022年製作の日本映画。
121分。
監督は、成島出。
脚本は、いながききよたか。
撮影は、藤澤順一。
照明は、豊見山明長と上田なりゆき。
録音は、藤本賢一。
美術は、金田克美、中山慎、竹内悦子。
装飾は、大坂和美。
衣装は、宮本茉莉。
メイクは、田中マリ子。
編集は、阿部亙英と三條和生。
音楽は、安川午朗。
音響効果は、岡瀬晶彦。
愛知県豊田市の山中。神谷誠治(役所広司)が切り通しで陶土を採取する。工房に戻った誠治は轆轤を使って器を成形し、高台を削り出す。窯入れ。薪を炉に焼べる。煙突から高く炎が吹き上がる。
豊田市内の丘に立つ、ブラジル人が多く暮らす団地。子供たちが登校するために建物から出て来る。1台のバンが構内に入って来て、夜の仕事に出ていた女性たちが降りて来る。仕事に向かう途中だったマルコス(サガエルカス)が恋人のエリカ(ワケドファジレ)を抱き寄せる。マルコスはルイ(シマダアラン)とともに仕事場に向かうヴァンに乗り込む。ヴァンの傍にはバスが停まり、ブラジル人が乗車の列を作っている。
誠治のト軽トラが団地の脇を通り抜け、名豊鉄道の駅に向かう。駅前にはブラジル人向けの食料雑貨店があり、店員と孫の話に興じる人の姿がある。お帰り。誠治が声をかけたのは、息子の学(吉沢亮)。電話で話したナディア。学が父に同伴した妻(アリまらい果)を紹介する。誠治は息子とナディアの荷物を受け取り、トラックの荷台に積む。
誠治の家の畳敷きの居間。誠二と学、ナディアに加え、誠二の亡き妻あきこの兄・金本哲也(中原丈雄)と、その妻・節子(室井滋)が円卓を囲んでいる。学君、ナディアさん、結婚おめでとう。哲也が音頭を取って乾杯する。節子が誠治は何にも教えてくれないと溢し、学に尋ねる。どうやって知り合ったの? 職場が一緒だったんです。声かけたのはどっち? 俺からかな。ナディアさんはどう思った? 学は英語で妻に会話の内容を伝える。揶揄ってると思ったみたいです、身分が違うからって。身分が違うって、そんな。向こうのご両親にご挨拶は? ナディアは孤児だから。難民の学校で英語の勉強をしたんだ。精力付けないと、早く子供の顔が見たいという節子に、哲也は学に訳さなくていいと言う。お前はいつも下品なんだと妻を窘める。
夜、工房で誠治が陶土を捏ねていると、学が入って来る。手伝うよ。親子で並んで陶土を捏ねる。いい娘だな。最初聞いたときはびっくりしたから。学、同情して結婚したわけじゃないよな? 始めの頃は自分でも分からなかったけど。仕事で沢山の国に行って、ナディアに出会った。幸せだよ。俺、ここで焼き物をやりたい。アルジェリアのプラントが3ヶ月で完成するから。止めておけ。会社にはもう話した。取り消してもらえ。
誠治が軽トラに学を乗せて近くの川に架かる橋へ行く。誠治は、そこから見える廃業して打ち棄てられた窯や下請けの工房を学に教える。焼き物では食えん。多少食えなくなって構わないよ。ナディアさんはどうなる? あの子の笑顔をお前が守ってやれ。
CLUB SPARK。地元で暮らすブラジル人の若者が多く集まり、活気がある。ステージではルイらのラップ・グループがパフォーマンスをし、フロアを埋める客が踊っている。VIPルームでは、マノエル(スミダグスタボ)がドラッグをキメ、ガンガン飲もうぜと侍らせた女性たちに声をかけ、羽振りがいい。榎本海斗(MIYAVI)の手下がステージに上がると、突然コンセントを引き抜き、音楽を止める。後方のVIP席にいたマノエルを指差す。赤い髪の男(髙橋里恩)たちがすぐにマノエルの確保に向かう。マノエルは必死で逃げる。マルコスがステージのルイにマノエルが何をしたのか尋ねる。金を盗んだ。助けないと。クラブの前の駐車場では海斗の手下たちとブラジル人たちとが乱闘している。店内から飛び出したマルコスにぶつかられ、海斗は手にしていた小さなステンレスボトルを落とす。海斗はマルコスを何度も蹴り付けるが、マルコスは何とか逃げ出す。車で追う海斗から逃れるため、マルコスは川の中を歩き、山へと逃げる。
誠治が軽トラで帰宅する。誠治が軽トラにエンジンをかけたまま離れた隙に、マルコスが運転席に乗り込み、発進させる。だが慌てていたのと怪我のために運転を誤り、車を目の前の塀にぶつけてしまう。物音に気付いて家から出てきた学が何にもしないと言ってマルコスに近付くが、マルコスはシャベルを手に殴りかかる。マルコスの後ろから誠治が羽交い締めにして取り押さえる。手当てしてやるから、もう暴れるな!
そこへ海斗を乗せた車がやって来る。海斗はマルコスや誠治の姿を確認すると、何も言わず車を引き返す。
マルコスは部屋に案内されて応急処置を受け、着替えさせてもらう。病院に行こう。あの連中に追われてたの? 学がマルコスに尋ねる。団地に住んでるの? 学の問いかけにマルコスは黙っている。
誠治が軽トラの状態を確認し、敷地にバックして入れている。学とナディアも出てきていた。誰もいなくなった隙にマルコスは部屋を抜け出し、山の中へと姿を消す。
学が相談しに哲也の家を訪ねる。俺、父さんにここで焼き物やりたいって言ったんだよ。ダメだって。哲ちゃんも反対? 俺はいいと思うけどな。誠ちゃんの気持ちも分かるよ。誠ちゃん、酔うと学の自慢話ばっかりだ。信じられないかもしれないけど、誠ちゃんは手のつけられない荒くれ者だったんだ。あきこが焼き物の師匠を紹介して、誠ちゃんが焼き物に没頭するようになって、あきこは喜んだよ。短い時間だったけどな。
ナディアは釜の前に出した椅子に坐って1人日本語の勉強をしている。誠二は学とともに軽トラから陶土の入った袋を降ろしている。そこへエリカが姿を現わす。ここ神谷工房ですか? エリカはマルコスからと、マルコスに着せた服を取り出す。いっしょにきておれいしろといったんですけど、かれはいやだと。だからわたしひとりできました。マルコスはわるいことしましたか? 誠治が軽トラのフロントバンパーを示す。わたしおわびします。おかねはらいます。誠治がその必要はないと断る。だったらダンチにきてください。パーティーをします。ごちそうします。学は行ってみようと父に言うが、誠治は俺はいいよと遠慮する。
愛知県豊田市の山中にある窯。妻に先立たれた神谷誠治(役所広司)は1人作陶で生計を立てている。国際的なプラントエンジニアリング会社双葉プラントに勤める息子の学(吉沢亮)が、アルジェリアで知り合い結婚したナディア(アリまらい果)の里帰りでやって来た。学は現在関わっているプロジェクトが3ヶ月で終了するのを機に会社を辞め、誠治の窯で働くと言う。
マノエル(スミダグスタボ)に金を盗まれたと知った榎本海斗(MIYAVI)が手下を伴ってクラブに彼を捕まえに来た。マノエルの幼馴染みのマルコス(サガエルカス)とルイ(シマダアラン)が助け出そうと乱闘に加わる。
深手を負ったマルコスは山へと逃げ、誠治の工房で軽トラを盗み出そうとして事故を起こす。誠治は軽トラの件を咎めず手当させるが、マルコスは何も言わずに姿をくらます。
後日、マルコスの恋人エリカ(ワケドファジレ)が礼を言いに訪れ、ブラジル人の多く暮らす団地で行われるパーティーに誠治らを招待する。パーティーでは、エリカに諭されたマルコスが渋々誠治に頭を下げる。マルコスの父親はかつて3年で家が建てられるとブラジル人たちを日本に招いたが、不景気で当てが外れ、団地の屋上から飛び降りて亡くなっていた。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
突然家族が失われる(奪われる)事態に陥った人たちの姿を通して、家族の価値や意味を問おうとしているのだろうが、陶芸家にせよ、一流企業の社員、半グレのリーダーにせよ、時折挿入される合成映像のように、とってつけたような感じでまるで説得力がない(例えば、誠治は初対面のナディアをほとんど交流のないままにいい娘だと断じてしまう)。とりわけ学とナディアは突然この世から消えてしまわなければならない設定だったために、衝撃的な事件に巻き込まされたとの印象を拭えない(誠治の反応も死の前後で落差がありすぎる)。
また、誠治や学があまりに好人物で、その歯の浮くようなセリフは真っ当すぎる上に説明的。まるで子供向けの教材のよう。それに対して、半グレたちの暴力などは比較的真に迫った描写がなされているため、ちぐはぐな印象。R18+になることも厭わず、ハードボイルドやヴァイオレンスに吹っ切った方が題材が活かされたかもしれない(例えば、役所広司主演の映画『渇き。』(2014)のような)。
海斗役のMIYAVI、海斗の手下を演じた髙橋里恩が悪役に徹して良かった。マルコスのサガエルカスとエリカのワケドファジレの恋人たちの初々しさが清冽な印象を添えた。
日本で生活する外国人の困難を描いた作品としては、映画『愛しのアイリーン』(2018)や映画『マイスモールランド』(2022)などをお薦めしたい。